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だって神が人の心なんて持てる訳ないじゃん
登場人物一覧
名前:壬生
種族:旅人(ウォーカー)
一人称:俺
二人称:お前、呼び捨て
口調:~だ、~だな、~だろ?
特徴:反抗されれば誰だろうが殴る
設定:
壬生は神であった。あくまで過去の話だが、壬生の為の宗教もあった。
敬う者がいた。祈る者がいた。壬生の為に命を捧げる者もいた。
だが、壬生はそんなものに飽き飽きしていた。
自分の為に死んでくれなんて一言も頼んだ覚えがないし、其れで何かを見返りに貰おうだなんて、ちょっと虫が良すぎるんじゃないかとも思う。
定命の者の感覚が壬生には判らなかった。だって壬生は、神だから。
だから道徳も何もない。何もかもを置いてこの世界にやってきた壬生が感じたのは、紛れもない“歓喜”。
しがらみもない、己を敬うものもいない、そんな世界で生きて良いという――歓喜だった。
壬生は基本的に気分屋である。
愛いと思ったら可愛がるし、反抗してむかついたら殴る。
彼(或いは彼女と言っても良い。神である壬生には性別がなく、どちらにもなれるからだ)は道徳を知らない。だから、腹が立ったら手が出る。当然の帰結であった。
そうして出会ったのが、嘉六という男だ。何せこの男には尻尾がある。ふわふわの尻尾。金色した尻尾。壬生には尻尾がないので、どんなものなのかと握ったら悲鳴を上げられた。
普通に歩いていたら見知らぬ誰かに尻尾を握られた。そりゃあ悲鳴も上げる。だが壬生には其の感覚が判らなかった。
ただ、思った。“面白い”と!
だから嘉六――えりまき君の周りを今はうろちょろしている。
いつか彼が尻尾を取る気になったら、一番に予約したいからだ。だってえりまきにしたらとっても暖かそうじゃないか。誰にも渡さない、俺だけのえりまきにするんだ。
勿論嘉六はそんな感情ありがた迷惑なのだが、なぜか壬生がいると妙に幸運が訪れるような気すらする。なので放っておくことにした。こういう手合いは放っておいて、興味が失せるのを待つのが一番だからだ。
だが嘉六は知らない。壬生はとても執着深く、一度狙ったものは離さないという事を。
そして其の執着はいま、間違いなく嘉六(の尻尾)に向けられているという事を。
知らぬが花、とはまさにこの事。
兎にも角にも――この人の心を知らない神様は、間違いなく嘉六ともふもふに夢中だ。