ＳＳ詳細
其の少女、ポジティブにつき
登場人物一覧
- リリアム・エンドリッジ(p3p010924)
記憶なき竜人
リリアム・エンドリッジは究極的に前向きである。
例え死に直面しようとも、其の気持ちは後ろを向かない。まるで前にしか進めないかのように、彼女はじっと前を見ている。
けれども、他人を前にすると話は別だ。「人の迷惑になりたくない」。其の一心が強く働いて、何事も過剰に頑張ってしまうのである。
過ぎたるは猶及ばざるが如し。そうしてリリアムは何度も、人間関係で失敗している。流石にリリアムも落ち込む事はある。いつもにこにこと浮かべている笑顔も、其の時ばかりはなりをひそめて、しょんぼりとしている。人とうまくいかない事は、とても悲しくて寂しい。
リリアムはあまり頭が良くない。
何でも力で解決しようとしてしまう悪癖がある。「これは悪癖である」とリリアム自身も判ってはいるのだが、ではどうすればいいのか？ が判らない。其れを考えつく程頭が良かったなら、リリアムは上記のように人間関係で失敗をする事はないだろう。
だから彼女は、頭を使うような複雑な事項は、そういう事が得意な誰かに任せる事にしている。其の人の言う通り動いていれば、少なくとも致命的に間違える事はないから。だから、リリアムは頭のいい人を尊敬しているし、人の言う事をよく聞く。勿論なんでも聞く訳ではなく、其れが善か悪かくらいは彼女自身も判断するが――善だと思った事であれば、そして余り複雑な事項でないのなら、リリアムは素直に言う事を聞く“良い子”である。
リリアムには記憶がない。
己の名前と種族、食べる事と笑顔が好きな事、其れから水が得意でない事以外の記憶は召喚の際に全て置いてきてしまった。だからリリアムはどんな世界から来たのかを知らない。
だが、水が苦手という事は、水が余りない土地にいたのかもしれないな、くらいは考えている。或いは水が潤沢すぎる場所だったのかもしれない。溺れたりして、そのまま――ああ、いやだ！ 余り考えるのはやめておこう。
だからだろうか。リリアムはいつも笑顔を浮かべている。嫌な事は考えたくないし、嫌な事を考えると、嫌な顔になる。そうすると周りの人に迷惑をかけてしまう。
――ギフトが云々ではなく、リリアムは己の意思でいつも笑っている。敵を殺す時も、敵が人間であっても子どもであっても、笑っている。
どうせなら、楽しく面白おかしく生きていきたいから。
