SS詳細
絶対理想SS
登場人物一覧
女体盛り――そんなにも目をギラ憑かせて、おぞましさの極みと罵るべきか。二度と満ちない脳漿にたっぷりの汁気をささぐ、そそぐ。抗い難いグルメなオマエに僅かながらに導をやろう。かみさまの指示通りに、かみさまのプロット通りに……。
怪物とは即ち、人のあたまを出しているものだ。
かたつむりだ、あたま、あたまあたまあたまあたま……。
頭だけで物足りないと呟くならばめだまも一応蛇足としておこう。脚なのに目だとは奇怪な詩なのだな。
〽ア……ア~~……ァ……ウウン。
そこのお嬢さん、そこのお嬢さん。
俺の話を聞いておくれよ。
なかなか愉快で滑稽で、尚且つオツムのゆぅれる話さ。
そこの坊ちゃんもお父さんも、爺ちゃん婆ちゃん集ってくれよな。
めったに知れない男女の恋慕さ……なぁに、またまた、恋煩いか?
そんなモンじゃアありません。アッと驚く理想の類さ。
それでははじめから語りましょう……。
……自分がめまいを覚えるほどに成長したのは……。
約束――嗚呼、欲あるような、在り来たりな、口遊むかの如く明々な。朦朧として湖深くに沈んで往った、なんとも、奇妙で奇天烈なお戯れだ。いやいや、まさか、この特異運命座標サマが不埒なおもいに駆られているとは莫迦げている。ゲタゲタと笑い方を変えるだけでご満足戴けるのだろうか。頂から転がり落ちてきた娘さんの、妻さんの、可愛らしさったら、ない。内臓まで美味しく取り込めたならばたいへん悦ばしいと、よろしいと、深淵に似た、地獄を模した、亡命奈落なのではないか。コントロールし難いドンペリのおこぼれに鵺どもが集ってくる。ええい、畜生どもが、これは全部俺のモノだってのに随分と意地悪をするのだな。なにぃ? 伽藍洞にしたのは俺の胴体の仕業だって? アッハッハッハ、きみぃ、本当にめまいがするのだな、アッハッハッハ……これは失礼、下戸だったね……。
不在の空漠を埋めろ、不明の虚々を満たせ、などと、嗚呼、無茶をおっしゃる、我が主よ。ヤグサハ確かに俺は、俺の罪を認めるべきだが、この英雄ごっこの何処がいけないのだ。おまえが居ないと時も、心も、いっさいのごっこも、動き出さないし動き出せない。まるで赤色に染められた回転のような、螺旋のようなツマラナサだ。そうとも、俺は、玉虫色な答えではなく七色な応えこそが要なのだと崇拝している。なあ、運動する振り子に反して秒針は震えるだけで留まったままだ。いや、俺は※※※※※に病的なまでの熱っぽさは求めていないとも。ハハア、今、嘘吐きだと死んだ眼を晒したな。その通りだとも、待つ時間は長いね、アハハ――ぐいぐいとようやく糊付け出来た頭部を、鞠を、ぐるりと360ほど遊ばせてみる。こんな醜態魅せられないって? 違う、違うさ、こんな醜態だからこそ魅せなきゃいけないんだ、イケないのだ……空腹を感じないと謂うのに腹の虫がやかましくて、ね。おっと。ごめんごめん、寄生虫にやられた事は一度だって無いのさ。しびれるまで晩酌したいダメな男さ……知ってるかい? これは、アノマロカリスの刺身……口腔へと押し込んで酒精を流し込む。ホウ。素晴らしいほどに新鮮だ。味わうほど神仙、壺中の天……。置いてけぼりのすくたれ者は、心線、歪にして琴線……おっと、金銭的には問題ないんだ、だってさぁ、アノマロカリスは緊線だろう? アェ、俺のオツムはゆるゆるだって謂いたいのか。ソイツはケッコウ! 情緒不安定に葉隠て、忠義尽くすべき姫君はここにあらず。武士道とは死ぬことと見つけたところで虚し、ハハア……?
ケイオス……刑仰るのはご勝手だが、無辜なる混沌で出会い直した奇跡を拭ってはいけない。ザンザン降りの晴天だと知っていてのサンザンな聖典の修正、我ながら天晴な愛情恋情、めくった先でははじめての人間サマが※※している。やったぞ、これが成功だ! おまえとひとつになりたいね。その細っこい手足を千歳飴みたいにポキンと折っちゃって、骨がとろけるまで、脳味噌がなくなるまで、じゅぐじゅぐとしゃぶり尽くしたいね……そうとも、髄まで甘露なのは確かめるまでもなく絶対だ。違いない、おお、違いない……。かみさまを招いた罰は甘んじて受けよう。罰とはすなわち赦されることだから。アハハ、かみさまは人類をいじめるのが大好きなのだね。これが罰だって謂うのなら、俺は生涯悪魔ではないか。禊ぎ祓われる。おまえ、おまえ、おまえおまえおまえ、おまえ……近づける気がしないね。忌々しいほど人間の姿に似た俺の誠心誠意は、すべて、すべておまえは捧げるとも……!
帰ってきてくれやしないか。帰ってきてくれよ。待つ時間は無限に、無間に、墜ちていく。アキレスと亀の如く、SとNが如く……SとMの二面性の間違いだって。おいおい、もしや俺が変態性を抱えているとでも……ゴホン。最近は俺が誘わずとも自ら、遠く遠くへ行くようになったね、とちょっとした水掛けを仕向ける。待たせてばかりだった我が身のいとしさに暗んで逆回転――ところで某所は左だったのか右だったのか、少なくとも夜妖は満足してくれていた筈だ。それで、何故に時計の針、微動だにしない……? 今宵の酔い醒ましも面倒だ。アノマロカリスの捕食行為を模倣した、アルコールを煽ってるようにしか視えない。ハハア? 逆回転故の逆だな? アノマロカリスがのんだくれなんざ、千鳥足なんざ、脚が多すぎる所為だ……! アー……、ダメだダメだ、もう眼が眩ってなにがなにやら。おまえ、はやく帰っておいで、一刻もはやく。手を合わせる事も出来やしないが、祈るのみ。さあ祈れほら祈れすぐ祈れまだ祈れ。歯痒くて歯ぎしりだって? 疑心暗鬼に陥って終いそうだ――おまえもこんな気持ちだった? もうしわけないね、もうしわけ、ございません。
無事でなくてもいいよ、傷だらけでもいいよ、いっそ、脳味噌だけでもいいからさ、生きて帰ってきておくれよ。おまえの瞳が光を失おうと、おまえのその身が無惨に損なわれようと、ああ、俺は……俺は、俺は俺は、僕は……必ずおまえの傍にいる。羊羹を踏み潰してごめんよ、まさか、おまえの頭にのっていたとは思わなかったんだ。命尽きるまで、命尽きたあとも、忠義を尽くすからさ……黙示録はしっかりと十二冊目……?
緑色の崩壊だ……。
緑色の崩壊が起きて、終審、絶えるようだ。
殺している殺している。
殺している殺している殺している……。
捕食していた捕食していた。
アノマロカリス、アノマロカリス、アノマロカリス……。
これは――アノマロカリスの刺身だ。
執心、燃え盛り、終身修身の必要性。生命線を引っ張って無理矢理に伸ばしていくのか。おまえの前でだけはカッコつけていたいんだよ。おまえの前でだけは笑っていたいんだよ。かぁかぁ、馬面やかましい巨鳥が脳天をしめている。就寝ほどとおく、寝転んで、まわるまわるまわる……いけない、眼鏡をしたままだった。距離をおいてはいけないね、これだ、コレの所為だ。これの所為でおまえは戻ってこないのだ……脳髄でちかちか瞬く……アノマロカリスが膨張し、破裂し、俺がまみれた。さかな、うなぎ、たこ、ゆっぐごとふ、なんたい、くじら、すべてのいのちのおや……伴侶の名前は、睦月、ハイドラじゃないよ。
あたま、あたま、あたま、あたま、あたまあたまあたまあたまあたま……DHA、DHA、DHA、DHA、DHA、DHADHADHADHADHA……まるごとかじる……。
いたい。いたいよ。やめ……やめなくていいよ。
冷え切った床だけが全身を擁している。
掌と謂われた口で床をえぐる……。