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チョコレート作り大浪漫冒険活劇

登場人物一覧

鹿王院 ミコト(p3p009843)
合法BBA
鹿王院 ミコトの関係者
→ イラスト
鹿王院 ミコトの関係者
→ イラスト


 チョコを作るので、来れたら来て、という旨の連絡をミコトが女性陣に向けて行ったところ、集まったのは2名だけだった。
 まあ、皆仕事があるのだから仕方がない。急遽の提案に、ふたりも乗ってくれたのだから、人数は多いと言えなくもないだろう。
 ただ、その面子が意外である。
 ひとりは鹿王院なごみ。正直なところ、分家筋で最も忙しいのは彼女ではなかろうか。分刻みのスケジュールで動いているところを見たことがある。しかし、なごみが参加した理由に、思い当たるフシがないでもなかった。
「先代様にお呼ばれされたのですから、どこへでも伺いますよ」
「ふむ……で、ほんとのところは?」
「…………母が点数を稼いでこいと」
「やはりか……」
「いつもすみません……」
「いや、よい。おぬしも大変じゃな」
 野心がありすぎる身内というのも考えものである。
 そして、もうひとりが。
「ジャッ―――」
「厄ウサギ☆ですぴょん」
「……厄ウサギ☆」
「イエス、厄ウサギ☆!! 人の名前を間違えたらだめですよう」
「何回目の改名じゃそれ。それより、今日はイチカと仕事じゃろ。こんなところにおってよいのか?」
 バニーガールなどという、台所にはまるでふさわしくない格好をした女。厄ウサギ☆である。今に述べたように、今日はミコトの孫、イチカと仕事に行っているはずなのだが。
「はい、お仕事ですぴょん」
 普通に肯定された。うん、じゃあなんでここにいるの、とは聞かないミコトである。どうやっているのか。彼女がどれだけ遊んでいても、与えられた仕事をそれ未満にしたところは見たことがない。こうしてチョコ作りに顔を出しながらも、どうにかしてイチカのサポートをしているのだろう。
「さて―――」
 一度咳払いをして改める。本日の主題へと移行しようというのだ。
「この中で、チョコ作ったことあるものー、挙手!!」
 イベントごとに合わせてチョコレートを作ろうと言ったものの、ミコトにその経験はない。
 故に、経験者の指示を聞こうと試みたのだが、ふたりとも、手をあげることはなかった。
「うん、なんかわかっとった気がする。おぬしら、菓子作りが得意そうな知り合いとかおらんかえ?」
「うーん、洋菓子のたぐいは市販のものしか買ったことがありません。しいて言えば、得意そうなのは」
「得意そうなのは?」
「ナナセクン、でしょうか」
「やる相手に作り方は聞けんじゃろ……」
 なごみから出てきた名前はミコトの孫、また、なごみの婚約者でもある当主のものだった。流石に、チョコレートをもらう予定の相手から作り方を聞かれても、複雑な感情を抱くだろう。
「え、ナナセクンにですか?」
「え、やらんの?」
「はぁ、形ばかりの婚約者にもらっても、断りづらいでしょうし」
「嘘じゃろ……」
「ちょっとだけ、ご当主様が不憫ですぴょん……」
「儂もじゃ……」
 ナナセがなごみからグラオ・クローネにチョコレートをもらえばきっと、内心で喜び胸中で小躍りするに違いない。
「それで毎年、この時期はちょっと元気なかったんじゃな……」
「ナナセクンが体調を? 見舞いの品を贈るべきでしょうか」
「いや、チョコ贈ってやれ」
「はあ……」
 まるでわかっていないなごみの様子に、ミコトは孫へと心のなかで手を合わせた。
「ふふーん、こっちはお任せください!」
 胸を張る厄ウサギ☆。確かに彼女の人脈の広さには目を見張る物がある。菓子職人の知人もいたりするのだろうか。
「あたしの周りで一番お菓子が上手なのは―――プー君ですぴょん」
「…………誰じゃ?」
「プロレタリア君ですぴょん」
「……マジで?」
「マジですぴょん。プー君は月に一度お料理教室に通ってますし」
 想像してみる。あのガタイの良い、スキンヘッドの男がお料理教室でマダムに囲まれながらメレンゲを立てている様を。
 ミコトは黙って空中を仰ぎ、想像をかきけした。どうやっても周りのマダムの笑顔がひきつっていたからだ。
「プロレタリアクンって?」
「あれ、見たことないです? ほら、イチカ君とよく仕事してる大男の」
「ああ、彼ね。へえ、意外ね。じゃあ、聞いてみましょうか。通話術式のコードはわかるの?」
「わかるけど、いまイチカ君と仕事いってるぴょん」
「あら、じゃあ難しいわね……」
「うん、だからじゃあなんでおぬしはここにおるんじゃ」
 万策尽きた気がする。ここはいっそ、本当にナナセに聞いてみるか。いや、さすがのミコトも、孫の顔を曇らせたくはない。つまるところ、力になれるのはここの3名だけである。この3人だけでチョコレートを作るという難題をこなさねばならないのだ。


「ぬおおおおおおおおおおお!! ぬおおおおおおおおお!!」
「いけー! いくのじゃー!!」
「もうちょっと、もうちょっとよ厄ウサギ☆さん!!」
 厄ウサギ☆が雄叫びを上げながら色の違うチョコレートで一粒大のチョコに模様を描いている。そのどれもが整然と並べられ、精錬されていると言ってもいいだろう。色形は事なれど、どれも一口には少し大きい程度のそれである。
 それを応援するのはミコトとなごみだ。完成まで本当に、この工程を残すのみとなった。長く苦しい戦いだった。諦めかけたことが何度もあった。だからこそ、ここまでたどり着いた3人には言葉では言い表せない連帯感が生まれていた。
「キレてる! キレておるぞ!!」
「ナイスデコレーション!」
 別名として、雰囲気に酔っているとも言えるが、なんにせよ、この仲間意識は間違いなく固く分厚いものだ。
 本当に長く苦しい戦いだったのだ。はじめ、カカオが苦かったときはどうしようかと思った。結果、甘い品種を手に入れれば良いという結論に至ったときは、思考のジャンプに成功したと確信を得たほどだ。砂糖を入れれば良いという知恵は誰からも出なかった。
 彼女らは、他人を頼ることを良しとはしなかったのである。
 なぜならどこかの娘婿が「チョコレートを作るのですか? それならまず、チョコレートを湯煎して」とか言い出したからである。こいつは駄目だと思った。チョコを作りたいのにチョコ買ってくる阿呆がどこにいるというのか。
 幸い、甘いカカオは市場に少量出回っていたので助かった。果の山にだけ成るという伝説のデンドロカカオ。一粒20kgもするその果実は、持ち帰るのにも苦労したものだ。
 しかし喜んでばかりもいられなかった。
 彼女らが普段料理をしないこと、その弊害が出てしまったのだ。
「まさか、あの魔人が復活してしまうとはの……」
 彼女らが用意した高級素材の数々。それらが複雑に配置され、偶然にも魔人ヴァレンタルボンバーの復活儀式の様相と一致してしまったのである。
 復活する魔人。しかしここにいるのは菓子職人ではなく術者である。闘争の結果、せっかく用意したトリュフとかキャビアとかそういうあまりチョコレートに関係のない素材を犠牲にして、彼女らはようやく魔人を再封印することに成功したのだった。
 しかし、ほっと一息ついたものの、問題はそれだけでは終わらなかったのである。実は、デンドロカカオは古代錬金術の触媒であったのだ。ホムンクルスと化して襲い来るチョコレートたち。しかし魔人の封印にも成功した彼女らがチョコレート程度に破れることはない。はずだった。
「まさか、厄ウサギ☆さんが一時退場するとは思わなかったわ」
「イチカくんとこ、バトってたから、流石にサポしなきゃだったぴょん」
 そう、厄ウサギ☆が戦場から姿を消していたのである。
 さらに、封印したはずのヴァレンタルボンバーとチョコレートホムンクルス達が融合合体。チョコレート魔人というパワーアップを遂げたのだったが。
「なごみがあのような術式を会得してたとはの」
「母には内緒にしているので、内密にお願いしますね」
 そう、鹿王院なごみがここで隠していた術式を発動したのである。字数の関係で詳細は省くが、とにかくそのすごい術でなんか事なきを得たのである。
 その後も妖魔オブラ・ディ-イェン、第三世代自立術式『天禍津波良』、対ミコト最強生物お小言水梛ちゃんという障害を乗り越え、今ようやく、ようやっと、完成の一歩手前まで足を運んだのであった。
「ぬおおおおおおおおおおお!! ぬおおおおおおおおお!!」
 ここまでを戦い抜いた3人にはもう、チョコレートを完成させることしか映っていない。
「そこじゃー! 手首のスナップを活かすんじゃー!!」
 アドバイスもぬかりはない。彼女らの中にこの瞬間、油断などという言葉は存在しない。
「まるでチョコレートのために生まれてきたかのようよ!!」
 メンタルを支えるための言葉も忘れない。どれだけ親しくとも、言葉にしなければ伝わらない思いはあるのだ。
 そして最後の一粒。そこに厄ウサギ☆が、模様を、描ききった!!
「か、完成だあああああああああああああああ!!」
「やったああああああああああああ!!」
「やったあああああああああああ!!」
 わからない。もうなんかわからないが走り出したいような衝動に駆られていた。とてつもない達成感。ついぞわかった、人生とは、生きる意味とは。生命とは何のために存在しているのか。それはチョコレートを完成させるためだったのだ。
「よし、落ち着こうか!」
「はい」
「ぴょん」
 スン。
 先程までのハイテンションはどこへやら。ミコトの声とともに、急に落ち着きを取り戻す3人。
「冷静になると、なんだったのかの。ていうか、水梛のこと追い返してしもうた。怖い、あとが怖い……」
「あの、あとで私も一緒に謝りに行きますから」
「本当かえ? ありがとう、ありがとう、ナナセは良い嫁を貰えそうじゃ……」
「はて、ナナセクンの結婚、確定したんですか?」
「あやつマジ不憫じゃの」
「先代様、あたし、当主様がちょっとかわいそうになってきたぴょん」
 頭にクエスチョンを浮かべたなごみは置いておいて。
 できあがったそれに、彼女らは今一度、感嘆の声を漏らす。できあがったのである。まるでお店に並べても遜色なさそうだと思うのは、自画自賛が過ぎるだろうか。
 しかし見事にデコレートされたそれらは、とても美しく、とても美味しそうに見えたのだった。
「さてさて、賞味を……先に、配るぶんはよけとくかの」
「そうですね。疲れましたし、うっかり食べすぎてはいけません」
「袋持ってきたぴょん」
 これはイチカの、これはナナセの、これは水梛のと、配る予定分をより分けておく。親しいものには少し多く、娘婿にはちょびっと。
 ラッピングはあとでいいだろう。きっと、凝りだしたらきりがない。
 さて、と一息ついて、それぞれができが良いと思うひと粒を手にする。茶色いそれは、光り輝くあれらとは程遠いものかもしれないが、彼女らには正しく、宝石のように輝いて見えていた。
 眼で食べる、というのはこのようなことを言うのだろう。丁寧に丁寧に気合を込めて作り上げたデコレート。そのひとつひとつの努力を噛み締めているだけに、何よりも最上のものに見えたのだ。
「「「いただきまーす!!」」」
 そうして一口。口に全て放り込むには大きすぎるから、軽くかじりつくように。
 口の中に広がる甘み。噛むごとに違った顔を見せる3人が3人共、声にならない声で歓喜を現した。


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