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一日じゃ足りない!
登場人物一覧
●ようこそ、シュネーライヒへ!
エントランスで流れるポップで明るい音楽は、テレビのコマーシャルでも流れてくるテーマソング。
練達の人たちがユキヒョウと呼ぶ生き物を模したキャラクターたちが
開園の一時間前にはしっかりと並んで今か今かと待っていたゲストたちは、明るい音楽に招かれるように中へ、中へ。お目当てのアトラクションに、お目当てのキャラクターグリーティングに、一目散に駆け――ずに、早足で向かっていく。此処では他のゲストや
新しいアトラクション等、目当ての物があれば急いでそうするだろう。
けれどもそうしないゲストたちも一定数居り、ゲストの数だけ楽しみ方はあるのだ。
「リュコス、どこからいく?」
「ummmm...」
そんな人々の背中を見送りながらゆるりと歩き出したランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は、傍らで真剣にパンフレットタイプの園内MAPへ視線を落としているリュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)へと問いかけた。
リュコスの手の内にある園内MAPには可愛らしいイラストで園内……このシュネーライヒと呼ばれる王国モチーフの遊園地が描かれている。所々にアトラクションやレストラン、ワゴン、化粧室、喫煙所、案内所と言った印が散りばめられている。
けれどリュコスの視線が追いかけているのは、そこではない。
裏側を見て、園内MAPに戻る。
また裏側を見て、また園内MAPに戻る。
繰り返し、繰り返し。
「決まらない?」
「どれもおいしそう……」
真剣に。それはもう真剣に悩んでいる声音に、ランドウェラはそうだねと笑った。
今日のふたりのお目当ては、アトラクションではなく『食べ物』だ。
アトラクション以外にもレストランやワゴン――特にワゴンは王国内に点在しており、数も多い。ポップコーンのフレーバーが違ったり、氷菓の種類が違ったり、お肉やホットドッグ、ローストターキー、ユキヒョウまん……と、それはもう種類が豊富だ。
先刻からリュコスが裏返しては戻ってを繰り返しているのはそのせいだ。パンフレットの裏側には、季節限定フードの写真が載っており、今日の目的は食べ歩きなふたりにはそこは絶対に外せないスポットだから、場所のチェックが必要だった。
「とりあえず、近いところから行ってみようか」
ランドウェラはリュコスの手の内のMAPへと指先を登場させ、ぐうるりと円を描くように王国をなぞる。歩いている間に目についたワゴンで買って食べてみるのも良し、香りや店頭のメニューに惹かれてレストランに落ち着いてみるのも良し、だ。
ランドウェラの提案にリュコスは異論を唱えず、ふたりは反時計回りに王国内を回ってみることにした。
この『シュネーライヒ』と名のつく遊園地にはユキヒョウの王様とお妃様王国だ。住民もユキヒョウで、キャストもユキヒョウ。となればゲストも勿論? そう、ユキヒョウだ。ふたりはお土産物屋さんが並ぶ通りを通り抜けてすぐにあったワゴンでまずはお揃いのユキヒョウ耳カチューシャを購入し、園内に流れる明るいBGMに足取りも軽くし、街並みを楽しみながら歩いて行く。
「ん。いいにおい」
「そうだね、甘い香りだ」
ふわりと香るのは……あっ、チョコレートの匂いだ!
大きく息を吸い込んで香る先を探せば、それはすぐに見つかった。
色合いを抑えた街並みの中で、ショコラティエ風の衣装のキャストがポップコーンを売っている。ふたりは目線だけで意思を確認しあうと、まずはあれにしようと爪先を向けた。ポップコーンは専用のバケットがあるから、付属の紐で首から下げれば手を塞がない。途中で他のが食べたくてもすぐに食べられるから最初の食べ物としてもバッチリだ!
購入列に並びながら、リュコスはMAPを広げる。
「ポップコーンの味、いっぱいあるみたいだ」
「うん。ここは種類が多いって聞いたことがあるよ」
実はランドウェラはこの遊園地へ来たことがある。けれども食べ物目当てで回るのが初めてな上、ポップコーンの味も定番のもの以外は定期的に変わるものだからよく知らなかった。
「何味がある?」
「えっと、カレー味、シーフード味、ストロベリーみるく味、キャラメル&チーズ味、しょうゆバター味……」
「待って。想像以上に多いね?」
他にも、ブラックペッパー味、クッキークリーム味、ビーフジャーキー味、ソルト&ハーブ味があるらしい。大人でも子供でも、幅広い好みに応えられるバリエーション。
「Ummm...ビーフジャーキー味、気になるかも」
「それじゃあ、ここでのバケットはひとつにしよう」
チョコレート味とビーフジャーキー味は購入確定で、他はバケットの中身が無くなってから考えよう。
ビーフジャーキー味のポップコーンワゴンの位置を覚えて、マスカレイドめいた雰囲気のバケットを購入してランドウェラが首から下げた。
まずはチョコレートポップコーンを、ひとつかみ。
口に広がる甘い味にふくふくと笑みを浮かべ合い、ふたりは次なるワゴン探しの旅へと出発した。
色々と歩き回ってから、ふたりはチュロスを購入した。
これも種類が多くてふたりを大いに悩ませた。チョコレート味はポップコーンを買ったから、リュコスはアップルキャラメル味、ランドウェラはシュガー&ハニー味にした。違う味を選び分け合えば、一度に複数の味を楽しめる。他のワゴンではイチゴチョコレート味やきな粉味も売られているようで、これも後から食べたいとふたりは思った。……のだが。
「ティポトルタ、はなんだろ?」
チュロスのワゴンでは別の棒状の菓子も売っていた。それは練達の人たちが「イタリアのお菓子」と呼ぶもので、棒状のパイ生地の中にチョコレートやクリームが入っている。
「スイートポテト味……美味しそうだよね?」
「チーズ味もおいしそう……」
買っちゃう?
ふたりの視線が交り合い、お互いの両手はチュロスとティポトルタで塞がった。
「ふふ。こういう楽しみ方って初めて知ったよ!」
甘味を片手に、どころか、甘味で両手が塞がっている。アトラクションメインで来ていたら、それは出来ない選択だった。新たな楽しみを見つけたランドウェラが声を跳ねさせれば、首から汽車型のバケットをぶら下げたリュコスもうんと頷いた。
「楽しいね、ランドウェラ」
「さっき食べた綿菓子探しも楽しかったよね」
アトラクションのように目立つわけではないワゴンをどこどこ? と探して歩くのも、宝探しをしているようで楽しい。
メルヘンな街並みの区画では『カラフルな甘い雲が食べられる』がコンセプトの菓子屋があった。ワゴンを探して歩いていたふたりは、仕掛けのある街並みかなと思ったところで実はお菓子屋さんだったと気付いたときには驚いたものだ。五色のふわふわ彩雲綿菓子と、雲のような生クリームたっぷりのクレープが美味しかった。
「次は何を食べようか?」
「ぼく、おにく食べたい」
「甘い物が続いていたもんな」
「うん」
ローストターキーにしようか、てりやきチキンレッグにしようか――。
その後は、ホットドッグに餃子ドッグ――あ! 夜になったらクラムチャウダーのワゴンも!?
ふたりの食べ歩きは、閉園時間まで終わりそうにない。