PandoraPartyProject

SS詳細

続きはSSで

登場人物一覧

月原・亮(p3n000006)
壱閃
マッドハッター(p3n000088)
Dr.
ロク(p3p005176)
クソ犬

「え? 待って? なんで?」
 開口一番、月原・亮はそう言った。
「なんでって、なんで?」
 その言葉にこてんと首を傾げたのはロクとメカ子ロリババアたち。亮は自身の服の裾をべろんべろんのぐっちゃぐちゃにしている子ロリババアのエリスを見下ろす。
 ロリババアの23匹目の子であるエリスは 校庭の砂埃と時計の秒針が大好物の凛々しき老ロバだ。何となく亮の服をべろべろするのは癖になっているらしい。嗄れ声で何かを伝えてくるエリスの言葉を亮は分からない。
 そして、彼の傍でロクと同じ角度で首を傾いでいるのがなんでか私生活に凄い勢いで食い込んで視界の端に居るメカ子ロリババアだった。ちょっぴり背後でオーラを放って居る邪ロリババアの事を見ながら亮は頭が痛くなってくる。
 謎にメカ子ロリババアが映像を映し出しDr.マッドハッターに呼び出されて練達に来てみればすぐに北西部に向かおうというのだ。
「なんで?」
「なんでって、なんで?」
 また同じ問答の繰り返しだった。マッドハッターはにやにやとしていて――仕事は今日は抜け出して来たらしい。後でファン・シンロンに怒られるぞ!――全くと言っていい程あてにならない。
 至急来てくれ、君じゃないとだめなんだとマッドハッターに言われて慌てて練達にやってきたのだ。慌て過ぎて持ってきたのがこの子ロリババア3種類と可愛くナウいヤングにバカウケなエンゼルいわしにカピブタの目覚まし時計だ。飛んでるエンゼルいわしは兎も角カピブタの目覚ましはどんな役に立つのだろうかと亮は頭を抱えた。
「俺必要だった?」
「うん。(面白いし)来てくれてとっても嬉しい! 有難う!
 (やっぱり面白いし)亮くんが来てくれたからメカ子ロリババア達もみんな喜んでる!」
 喜んでる――?
 亮は胡乱にマッドハッターを見遣った。相変わらずニコニコしている。口を開けばいつも通りの長文が飛び出すのだろうがここは彼に聞くしかないと亮は腹を括った。
「なんでロクちゃんと、ドクターが一緒に……?」
「簡単な事さ、特異運命座標アリス。彼女達には練達北西部で多発していた殺人事件――簡単に言えばラジオ事件か。ローレットでもその話は聞いて居るだろう?――で懇意にしている職人の調査を頼んだのさ。勿論、死人がでない様に重々気を付けて呉れ給えと、私も操に怒られていた事もあり『端的に』説明したさ! 時間泥棒に為らぬ様にしっかりとお願いした結果、特異運命座標アリスがワンダーランドに訪れる様に面白い事を教えて呉れたのでね」
「何を?」
「結論をそう急ぐことはないさ。特異運命座標アリス。せっかちではまるで赤の女王だよ。遅刻すれば首を刎ねてしまうだなんて可笑しいったりゃありゃしない! 私はね、そう言ったせっかちなのは得意ではないのさ。のんびりとお茶を飲んで優雅に過ごす事こそが大切だと思っているんだ。眠り鼠もうとうとしてられないではないか。まあ、私は気狂い帽子屋マッド・ハッター、そんなことには気を使っては居られないが、こうしている間にも懐中時計は秒針が追いかけっこを始めて逃げ出したね。仕方がない、君に教えよう。つまりは、私が懇意にしている職人の周囲にも、研究への協力者がいるという事さ」
「うん。OK。200文字くらいマッドハッターが『時間泥棒』したことは分かった」
 頭が痛くなる感覚を憶えながら亮はそう言った。ああ、今日もカオスだ。一度、茶会に呼ばれてみたはいいがその時はすごかった。具体的には子ロリババアで天国に召されそうだったのだ。

 ――さて、本日はと言えばマッドハッターがラジオ事件で特異運命座標に保護を依頼した技術者ランベルトが居る練達の北西部である。
「ロクちゃん」
「何!? 亮くん、疲れちゃった!?」
「いや、そうじゃなくってさ……あの人マッドハッター連れてきて、良かったの? ファンさん怒ってたりしないかな」
「するかもしれないけど、ついてきちゃった」
 そっかあ、と小さく呟いて亮は疲れた様な表情を見せた。それはそれで仕方ないのかもしれない。マッドハッターと言えば奇天烈なキャラクターで知られているのだ。『ついてきちゃった』のであればそれを許容する他はないのだろう。
 それに、ロクとしても技術者たちと交わした会話を思えばマッドハッター本人が同行した方が都合は良い。

 ――この仕事のデキが良かったらわたしからマッドハッターさんに伝えるね!

 そう言ったのだ。才能があると言うならばしっかりとマッドハッターに紹介して彼らにも仕事を与えてやってほしい。
 何せ彼らの関係性がこじれたのは理由がある。
 先ずはランベルトというマッドハッターのお墨付きである旅人の技術者である。彼はと言えば、科学が進歩した世界からやってきたらしい。星々を渡るロケットと呼ばれる乗り物を作成する技術者であったそうだが、混沌世界ではその理論が通じずに燻っていたところをマッドハッターに拾われたそうだ。
「ランベルトさんって本当にメカ子ロリババアを作ったのか?」
「ああ、そうさ。何せ彼は何だって作ってくれるからね。私だって愉快な生き物は好きだ。彼に頼んでみればきっちりと作成してくれたよ!」
 からからと笑ったマッドハッターにロクの尾っぽがぶんぶんと揺れ続ける。会話を繰り返しながら辿り着いたランベルトの工房の扉をノックすれば、その扉を開いたのは穏やかな表情の老婆であった。
「いらっしゃい」と柔らかに告げる彼女は親族を亡くし一人きりであった老婆ではないか。ロクがきょとりとすると置くより「シュリエさーん」と呼ぶ声がした。
「お客様もういらっしゃったの? あっ、どうしましょう。こんにちは! ランベルトさん呼んできますね」
 老婆シュリエの許へと駆け寄ってきたのは仲が良い三人親子、ベリアル家の母、アリアであった。奥では来客の準備をしていたという彼女たちはどうやらロクの来訪を聞いてランベルトの工房に集まったのだろう。
 シュリエについて中へと入っていけば来客スペースには三人親子の父、ジェイドとランベルトの弟子たちが座っている。
「ドクター! この度はよくぞいらっしゃいました。ロクさんも亮さんも多忙な中、よく来ていただいて……」
 穏やかな声音で言ったジェイドにロクは「皆一緒なんだね!」と嬉しそうに笑みを浮かべる。
「ああ、今日はね、ランベルトさんが呼んでくれたんだ。
 仕事の話になるけれど、ロクさん達のおかげで技術者のクルードさんと最近はロボットの作成なんかを行っているよ」
 練達からも依頼が来るのだと自慢げであるジェイドに「なんだい?」と茶化す様に声をかけたのが、以前はランベルトには叶わぬのだと苦心していた技術者のクルードである。
「ああ、いらっしゃい。ランベルトは相変わらずだよ。作業に没頭するとどうしても夢中になって梃子でも動かない」
「彼は確かにそうだった。私がいくら用事があると彼の許へと訪れたとしても彼はノックの音にさえも気づかず、懸命に小さな世界に向き合っているのさ。私達が騒がしく誕生日パーティーをしたところで彼は何も気にせず只管に小さな世界に電気の命を動かすだけだ」
 マッドハッターの言葉の分かり辛さにクルードとジェイドは顔を見合わせて小さく笑った。
 地元では『ドクターのお墨付きである凄腕の技術者ランベルト』で通っていたが、何となくそれだけではない気がしたのだろう。
「どうかしたの?」
 ロクが首を傾げれば、ロクと亮にだけ聞こえる声音でクルードは面白そうに言った。
「いやね、あんなに癖が強い人なんだ。ロクさんから『メカ子ロリババア』の修復を頼まれたときにも何となく思ったけれどね。癖が強いドクターには癖が強いランベルトじゃないと無理だなって思ったんだよ」
 けらけらと笑うクルードに亮は噴き出しロクは愉快そうにからから笑う。どうにもこうにも、彼らの仲はすぐに修復されたのだろう。
 カール、エリック、ハンネスの三人はロクが連れて来たメカ子ロリババアの様子をまじまじと見つめている。彼らは技術者としてはまだまだ半人前だ。それ故に、師匠の作品であるメカ子ロリババアを観察してその技術を得たいというのが本音の所なのだろう。
「カール、エリック、ハンネスはまだまだランベルトには厳しくされてますけれどね、愛情として受け取っているようですよ」
 そう柔らかに言ったジェイドは自分たちのサポートもあるからと最近は良好な関係を築いているのだと言った。のっぺりと横たわってきた妬みや恨み、僻みというものは今現在は協力体制を作る事でしっかりと消え失せているのだろう。
「あのさ、ロクちゃん」
「何?」
「……あの、この人たちってこんなに仲いい人たちだった……?」
 事前にローレットに届けられていた依頼の内容を見ていた亮からすればこの雰囲気はどうにも不思議であった。
 魔種という存在が狂気を伝播させることで人が変わるというのは亮とて知ってはいるが、ここまでというのだろうかと亮は改めて感じたのだろう。
「わたしも初めて会った時はもう、皆相手を殺しそうだったけど。仲良くなってよかった!」
「あー……うん。すっごいよかった」
 小さく頷いた亮にロクは嬉しそうにををゆらゆらと揺れ動かし続ける。ひっそりとしたとても狭い工房にぎゅうぎゅうになるほどに人が多いのだ。ランベルトが「満員じゃねぇか」と笑ったその声を聴いてロクとマッドハッターは顔を上げた。
「やあ。随分と君とは会っていなかったね。あれだけわがまま放題であった君が殺されるというから私も主人公アリスが訪れた時の様にドキマギしてしまったではないか。特異運命座標アリスを送り出した後、君の事はすっかりと忘れてしまってとりあえずは紅茶を飲んでいたのだがね、ファンの淹れた紅茶は実に私好みだ。良ければ君にもご馳走しそうじゃないか。特異運命座標アリスたちもまた今度如何かな?」
「うん、とってもそれは嬉しいお誘いだけど、ランベルトさんが口を開きたそうにしてるよ!」
 尾をゆらゆらとさせたロクにランベルトが頭をがりがりと掻きながら「相変わらずだな」と小さく呟いた。
「特異運命座標達に説教のひとつも食らわされてんだよ、こっちは。生きてるだけで喜んでくれよ」
 美しい笑みを浮かべたマッドハッターにランベルトは食えない奴だと溜息を交らせる。
「さて、亮くん! ランベルトさんにクルードさん、それからカールさんにエリックさんにハンネスさん! あと、ベリアル一家の皆さんがわたしたちのお願いを聞いてくれるって!」
 尾をゆらゆらとさせるロクに亮は「なんて?」と聞いた。今日は何て、と聞く事が多い日である。
 名を呼ばれたベリアル一家の一人娘メアリアルはシュリエと共にお茶の準備をしてくれていた。これはますます逃げられない。テーブルで椅子を進めてくれるカールたちに亮は「いやあ、特異運命座標って割と忙しい」と言いかけるが、上機嫌でマッドハッターが座ってしまえばどうしようもない。
 恐る恐ると椅子に腰かけて切ない表情を見せた亮にシュリエが「どうぞ」とティーカップを配膳してくれる。メアリアルの手作りだというクッキーに男子高校生的にちょっぴりドキマギした亮は小さく息を吐いた。
「どうしたの、亮くん!」
「いや、俺もさ、今のところ一番仲いいの子ロリババアなのかなって思ったさ……」
 服の裾をべろんべろんしているエリスを見詰めながら遠い目をしている亮に「それはいいね!」とロクが嬉しそうに笑った。
 ※全然良くない。

「さあ、亮くん!」
 ロクが嬉しそうにべろべろとティーカップを舐め乍ら紅茶を飲んでいる様子を見て亮は紅茶をちょろっと口に含む。
 メアリアルのクッキーはおいしいが、何だか女子とのかかわりのなさが悲しくなる男子高校生なのであった。
「さて! このクルードに何でも言ってください、亮さん!」
 堂々と言ったクルードに亮はロクを振り返る。ロクが「さあ」とか言ってしまったものだからクロードもやる気満々なのだろう。
「それじゃあ、一つずつ噛み砕いて説明するね!」
 そう、そこで亮の時間は僅かに停止した。
 にんまりと笑ったロクはメカ子ロリババア――通称メカ子に正式な名前を亮に付けて欲しいと先ずは言った。そして、自由に改造してくれていいんだよと堂々と言い放ったのだ。
「……え?」
 亮が固まってメアリアルを振り返る。穏やかな笑みを浮かべたメアリアルは首を傾ぐだけだ。
「……いやいや?」
 再度、振り返る。ロクは嬉しそうにクッキーが美味しいと告げるだけだ。
 名前を付ける?
 ……まるで飼い主ではないか?
 依然として、亮の服をもぐもぐとしているエリスは楽しそうであった。なんで食べているかわからないがそういう時もある。
 エリスが居るんですけど、と口をぱくぱくと動かした亮にロクは「エリスだって姉妹から離れて亮くんと一緒だもの。寂しい時だってあると思うの」と神妙な雰囲気で言い放つ。
「ああ、そうだな……俺だって兄弟の様に今まで弟子でやってきてるカールとハンネスが居ないと寂しい」
「エリック……」
 仲良し弟子三人組はさておいても亮はこれ以上は必要ないという雰囲気で声を震わせたが、クルードの圧の強さに諦めて名前の考案を始めようと頭を悩ました。
 さあ、どうした物だろうか。ハンネスからペンと紙を借りてメカ子の名前をいくつもいくつも書きだしていく。
 良子――いやいや、これは安易すぎるだろうか。
 美海――うーん。クラスメイトの女子の名前ってのもあんまりだ。
 亜美――これは友達の聡の母ちゃんの名前だ。
 亮は悩んだ。どうしても名前と言えば和名になりがちだが相手はメカ子ロリババアだ。特段、メカ子ロリババアに和名を付ける理由もない。
 さあ、機体の眼差しを送るロクと珍しく物静かなマッドハッターを見遣ってから亮はううんと唸り頭を抱える。
 名前というのは責任重大だ。
 何時かは自分だって結婚して子供ができて……まあ、女子と仲良しではないんですが、と亮は唸った後、叫んだ。
「クララ!?」
 やけくそだった。ぱっと浮かんだ名前を叫んだ亮にメカ子ロリババアが嬉しそうに走り寄ってくる。
「わあ! クララ、あなた、クララって言うのね!」
 ロクが尾を揺らす。嬉しそうである子ロリババア周辺と、その空気に頷く技術者たちに亮は何とも言えない感覚を覚えていた。
 クララを撫でるクロードは「さあ、クララ。ご主人はお前にどんなアクセサリーをくれるかなあ」と嬉しそうに笑みを浮かべている。
(え……みんな、子ロリババア大好き過ぎない……?)
 口をぱくぱくさせた亮は何も言えない感覚を覚えていた。
 それで、とカスタムを求めてくるクルードに亮は「あ、お、女の子っぽく可愛いカラーリングとか、その、リボンとかね……あの、そ、そういうのでクララを可愛くしてくれれば」とどぎまぎしながら言った。もっと技術的な事が欲しいと求めてくる技術者たちにとりあえず目を光らせて、水中活動できるようにしてやってくれればいいんじゃないかと目を逸らした。
 その日はと言えばメアリアルのクッキーとシュリエに持て成されて、紅茶を呼んでからセフィロト中心部へと戻った。
 勿論、マッドハッターはファン・シンロンに全力で叱られて仕事に戻った。ロクと亮は顔を見合わせて、のんびりとローレットへと戻ったのだった。

 ――後日、カスタムされたクララを(泣く泣く)連れて帰った亮よりロクに連絡があった。
「何したの!?」と悲痛な叫び声を聞いてロクはきょとんとしたまま「え?」と首を傾ぐ。
 そう、事前にカスタムオーダーのひとつにロクは『亮を主と認識してどんなに遠く離れていても毎朝お誕生日の歌で盛大に祝い起してくれる機能』を追加していたのだ。
 盛大なハッピーバースデーの歌声を聞きながら亮は「やだ、待ってロクぢゃん!?」と涙ながらにロクの許へと飛び付いたのだった……。

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