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SS詳細

真白の都の爛漫少女

登場人物一覧

イル・フロッタ(p3n000094)
凜なる刃
ポテト=アークライト(p3p000294)
優心の恩寵

 アークライト家。天義でもその名を轟かす貴族である。
 先の戦いにおいても活躍をしたというそのアークライト家の跡継ぎに嫁いだポテトは義理の母にあたるルビアから貴族としての嗜み等を学びながら日々を過ごしている。勿論、特異運命座標としての活動もある為に毎日を淑女の勉学に割く訳にはいかないのだが、空いた時間はリゲルの為にも立派な淑女として――そして、家を任される女主人として――早く彼が誇れるような妻になるのだとルビアに教えを乞うている。
「ポテトさん、最近はローレットも忙しいし、お勉強ばかりでしょう?
 ……ちょっぴり御遣いのついでに息抜きでもどうかしら。勿論、お遣いはのんびりで構わないから」
 待つことは得意だと自負するルビアにポテトは小さく笑った。ああ、確かに女主人としてアークライト家を護るルビアは当主シリウスの帰りを待ち続けていた。彼女は穏やかな淑女に見えて芯もしっかりとしていて強い。
「それじゃあ、いってらっしゃい?」
 身支度を整えられてメモを一つ握った儘、ルビアの言葉に甘えて街へと出る。
 リゲルの生まれ育った町で、生れ育った国。そう思えば愛しさはひとしおだが、これから暮らしていく場所だというのに天義の街を知らないとポテトは周囲を見回した。お遣いだって、どのお店に行けばいいのかもわからない。
 メモに書かれた『ポテトさんが気に入ったお菓子を買っていらして』という優しい言葉に散策をしながらううんと小さく唸った。
「ポテト、さん?」
 ふと、その背に声をかける者がいた。くるりと振り返れば見覚えのある金の巻き毛がふわりと揺れている。大きな桃色の瞳が瞬かれ「こんにちは?」と不思議そうな顔をしたのは天義では見習い騎士であるイルだ。
「イル。こんにちは。仕事中か?」
「あ、ううん。今日は非番で暇だったから見回りのついでに何かしようかなと思って」
 よくよく見れば普段の騎士の装いではなくラフな格好をしている。冬用のふんわりとしたコートの下から桃色のスカートを覗かせて、首を傾いでいれば彼女は騎士というよりもどこかの令嬢といった雰囲気だ。
「ふふ、確かに今日はおでかけの服装だもんな」
「うん。ポテトさんは?」
 リゲルの家で花嫁修業傍らのお遣いなのだと言えば、花嫁修業と瞳を輝かせる。恋や愛を下らないというモノもいるが乙女にとっては重要な要素なのだろう。お遣いメモを見せればイルはああでもないこうでもないと唸りだした。
「ポテトさんは天義の事には詳しいのか? そうじゃないなら、ちょっと難しいお遣いだ……」
「実はあんまり知らないんだ。もし良かったら、イルのお勧めを案内してくれないか?」
 その言葉にはぱあとイルの表情が華やいだ。よろこんで、とポテトに笑みを浮かべてイルはこれから行こうとしていたという店に向けて歩き出す。
 天義もお堅い雰囲気の国家と謂えどそれなりの都会だ。少女が好きな雰囲気の店も多いのだろう。最近の若い少女達の間ではタルトの店が流行しているのだという。紅茶の茶葉を販売する専門店やブディック、美術館の特別展などイルは嬉しそうにポテトを手招き案内し続ける。
「こんなことなら先に約束をしておいて、好きそうなところを探しておけばよかった!
 行き当たりばったりだと考えている時間がすっごく勿体ないのだ」
 む、と唇を尖らすイルにポテトはくすりと笑った。落ち着きなく忙しなくあっちこっちと案内をしながら嬉しそうに笑うイル。彼女は天義という国が好きで、それから性根は本当に年相応の少女なのだろう。
 彼女のオススメだというタルトが販売するカフェに入り、カフェオレとベリーのタルトを注文したポテトの前でイルは恥ずかしそうに「カフェモカと、その、チョコタルトとキャラメルベリーで」とこそこそと小さく呟いた。
「イルは甘いのが好き?」
「じ、実は。でも騎士はかっこよくて凛としているべきだろう? 何時かはブラックコーヒーを飲めるべきだとは」
 ぐぬぬと。何所か堪えるような仕草を見せたイルにポテトは小さく笑った。こうしてイルとゆっくり話してみたかったと言えば彼女は何処か照れたような表情を見せる。
「天義の戦いじゃ、誰も彼もが大変だっただろ? けれど、こうしてみんな無事だったし……
 天義もしっかりと復興したんだと思うと嬉しく思うよ。まだまだこれからだろうけど」
「うん。私も国が元気になっていくことはとてもうれしいんだ。でもそれも、特異運命座標(センパイ)のおかげだと思ってる。私はまだまだなんだ」
 やる気十分に頑張らないとと前向きに言ったイルにポテトはくすりと笑う。話題は彼女の憧れリンツァトルテの話にも映る。今日は騎士詰め所で仕事に励むリンツァトルテである。彼もコンフィズリーの再建のためにも多忙な日々を送っているだろう。
「リゲルとリンツァが仲良くなって、それなりに私も――まあ、妻としてというのもあったが――交流があるんだ。
 そうやってリゲルとリンツァが仲良くなってくれた事がとても嬉しく思うよ」
「私もだ! 先輩は友達がいな――ううん、ちょっと気難し――いやいや、色々考えがあるみたいで。
 やっぱり家の事もあって友人が居なかったんだ。だから、とてもうれしい。二人が先輩と仲良しで感謝がいっぱいだ!」
 まるで自分の事のように瞳をきらりと輝かし、イルはポテトに言う。次世代を担うコンフィズリーの次期当主であるリンツァトルテとはリゲルもポテトも良き友人として関係を保ってきているが、そうなるまでにはやはり大きな壁はあったように思えた。『リンツァ様』という他人行儀な呼び方をイルは「友達なら様なんていらないと思う」と茶化していた四、リンツァトルテもそれはそれでまんざらではなかったようだ。
 くすくすと笑いながらポテトはイルが本当にリンツァトルテを慕っているのだと感じる。彼女の中にあるのが恋であるのかは定かではないが憧れという感情を臆面となく発揮し、大好きな先輩が幸福な道を進んでいることを何よりも喜んでいるのだろう。
「それで、私はイルとも友達になれたら嬉しいと思うんだ」
「私と?」
「そう。これから天義を支えるだけじゃない。こうやって話をしたりお茶を飲んだり。
 さっき、イルが言っていた美術館だって行ってみたい。面白い展示があったら教えて欲しいと思うよ」
 その言葉にぱあ、とイルの表情は華やいだ。騎士見習いである彼女はやはりその立場であるが故に友人もそれほど多くはないのだろう。こくこくと何度も頷いてポテトを見てからイルは嬉しいと微笑んだ。
「ポテトさ――ポテトと友人となれて私もとってもとっても嬉しい。ふふ、これからよろしくだぞ」
 にんまりと微笑んだイルにポテトは大きく頷いた。
 それからと言えば他愛もない会話に花が咲く。向こうの通りに或るカフェでは甘いフィナンシェが売っているだとか、ランチタイムにお勧めの店があって先輩を連れて行った時に不思議な顔をしただとか。
 ちょっぴりリンツァトルテの事ばかり話すのはご愛敬だ。そうやって愛情たっぷりにリンツァトルテに接しているのだと思えばポテトは自身がリゲルに向ける感情にも似て居てくすぐったくなってくる。
 時間ものんびりと過ぎた事だ。そろそろお遣いのタルトをルビアとリゲル、それからポテト自身の分も購入して屋敷に戻らねばならない。イルは茶葉と茶菓子がセットになった可愛らしい小箱を購入して「友達の証!」と嬉しそうにポテトへと手渡した。
「いいのか?」
「うん。今度、ポテトが好きなものも教えて欲しい。好きなお店探しておくから」
 また遊ぼうと嬉しそうに微笑んだイルにポテトはふと「リンツァは忙しいのか?」と問い掛けた。
「……?」
「今度はリゲルやリンツァも誘って一緒に出掛けられないかと思って」
「! ――ううん、先輩のことは誘って置く! フフ、何処に行こうか? 買い物? それとも……」
 わくわくと心を躍らせるイルは服はどうしようだとかまだまだ先の事を心配し始める。
 楽しみにしていると満面の笑みで手を振ったイルにポテトは大きく頷いて手を振り返した。
「それじゃあ、また――」


「おかえり。ポテト。『お遣い』に行ったと聞いたけれど、道には迷わなかった?」
「ただいま、リゲル。ああ、大丈夫。実は途中でイルと会って案内してもらっていたんだ。
 それで――イルのオススメのタルトをお遣いで買ってきた。夕食後にゆっくり食べよう」
 微笑んだポテトにリゲルはぱちりと瞬く。イルと出会ったという事が何よりも驚きのポイントだったのだろう。
 夕食後、タルトと紅茶を並べたテーブルを見詰めながら昼間の事を思い返す。つい思いだし笑いを漏らしたポテトは「イルと友達になったんだ」とリゲルへと言った。
「それで、今度はリンツァとリゲルも誘ってどこかに出かけないかって話になった」
「リンツァも?」
 きっと、リンツァトルテも喜ぶだろうとポテトは柔らかん微笑んだ。きっと――その機会はすぐにでも巡ってくるだろう。
 先輩を誘うと張り切っていたイルの事だ。明くる日になれば「先輩先輩」とリンツァトルテの周りをぐるりと回って嬉しそうにポテトと出会った事を話すのだろう。想像に易いそれを思い浮かべたのはポテトだけではなくリゲルも同じだった。

  • 真白の都の爛漫少女完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2019年12月17日
  • ・ポテト=アークライト(p3p000294
    ・イル・フロッタ(p3n000094

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