PandoraPartyProject

SS詳細

お散歩デートは幽霊犬と一緒に

登場人物一覧

ファニー(p3p010255)
Star[K]night
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

 鳥と鳴く声と木々が風に揺れる音が心地いい。並び立って歩くクウハとファニーの一歩先をタマが歩いていく。時折駆けては振り返って戻ってくる。二人の足元をぐるりとすり寄るように回ってまた先へ駆けていく。
 ワン、ワンワン!
『ご主人、恋人様!』と二人を呼んで、楽しそうに跳ねる。それを見てクウハとファニーは顔を見合わせて笑った。
 生き物を見つけてはあれは何だこれは何だと鼻を近づけて、くわえようとして霊体ではうまくいかずに取り落とす。時に上手く捕まえることができたら自慢げに持ってきて二人に教えてもらう。自然に生っている木の実を食べようとして、当然ながら食べることができず飲み込もうとしては体外に転がり出ることを繰り返し始めた時はさすがのファニーも噴き出してしまった。
 落ちた木の実を拾って「屋敷に戻ってからだな」なんてクウハが言う。そもそも食べられるのだろうか、と思いながらファニーはマジマジとそれを見て、そっと手を伸ばした。
 が、ワンワン! と再び二人を呼ぶ声がして手が止まる。
 繋ぎたい気持ちがあっても、その手はまだクウハに触れられない。


 二人と一匹が散歩に出るまで少しだけ時間を撒き戻そう。事の発端はクウハがあることに気づいたとこから始まる。

 タマー、取ってこーい!
 ワンワン!
 わー、きゃっきゃ。

 今日も幽霊屋敷は賑やかだ。ポンポンと階段上から転がってきたボールがクウハの足元で停止する。それを追いかけて姿を現すのは犬の幽霊であるタマだ。尻尾を振りながら一段一段慎重に階段を下りてくる。幽霊なんだから浮くなりなんなりすればいいと(できるはずだと)クウハは常々思うのだが、どうもそういう発想はないらしかった。なかなか幽霊らしからぬ犬である。
 てこてこ駆けてきて足元のボールをくわえると、また階段の上へ一段一段えっちらおっちら上っていく。それを二階から子供たちが応援している。つくづく見た目が普通でないことを除けば普通の犬である。
「普通に犬なんだよなァ……そういやあん時以来外に出たことなかったな」
 この館に迎え入れて以来、タマは屋敷の外に出ているところは見ていない。別に出るなとも言ってないのだが、子供たちと遊ぶのが楽しいのか番犬のつもりなのか、玄関口まで行くことはあってもそこから出たりはしない。『散歩とか行ったりするのか?』なんて恋人との会話がよみがえる。なるほど、犬らしいならば散歩にでも連れ出したら喜ぶのかもしれない。
「たまには主人らしいことでもしてやっかね」
 一人頷いたクウハは二階へと声をかけるのだ。タマ、と。

 喜んで駆けて来たタマは後ろにたくさんの子供の霊を連れて来た。『なんでしょう?』と首をかしげるタマに彼は言う。
「散歩に行くか?」
 わふっ?!
 散歩と聞いて元々振られていた尻尾がさらにバタバタと振られた。
 ──お散歩?
 ──お散歩いいなー。
 ──でも僕たちじゃタマをお散歩させてあげられないからなー。
 子供たちもざわつく。けれども自分たちはお留守番になるのを知っているからかタマに声をかけてお土産をねだる子が多い。まぁ中には双子のようにクウハを驚かせるような変なものをねだる子もいたが、そんな子供は適切に小突いていく。
「ほら、そんなに集まってたらタマが散歩に行きたくてもいけねェだろうが。散った散った」
 ──わかったー。
 ──また後でね、タマ。
 ──お土産持ってきてね!
 バイバイと離れていく子供たちにタマは駆け回ってこたえて、やがてクウハだけになるとチョンとその場にお座りをして控える。
『お散歩とはどちらへ? この先の廊下ですか? 一階のお部屋ですか?』
 わふ? と再度首をかしげるタマにちょっとだけクウハは頭が痛くなった。それは散歩とは言わないのだが本人(この場合は犬)が理解してないようである。
「オマエなぁ……散歩って言ったら外に決まってるだろうが」
『外! 久しぶりです! 外は怖いところだと思ってましたがご主人と一緒なら大丈夫です!』
「怖いところ?」
『だってまた迷子になって疲れておなかすくのは嫌です……』
 ペタンと伏せて、明らかにしょぼくれている様子を見せるタマ。
 屋敷の外に出ないだけで特別怖がっているようには見えなかったが、どうにも怖いから出たくなかったらしい。そして怖い理由は死んだときの状況をよく覚えているから。トラウマ……というよりは死の状況に縛られているといえばいいだろうか、再び同じ状況になりそうで外に出ること自体を恐れていたようだ。ただし、それはタマ一匹だけの話。共にいる相手がいるなら平気なのだろう。
「幽霊なんだからお腹は空かないだろうが……おっと待った。散歩なら誘いたい奴がいるんでな」
 止まった扉を見てタマには誰かすぐに分かった。嬉しそうに吠えて言う。
『恋人様ですね!』

 ノックもそこそこにガチャッと扉を開ける。
「ファニー、散歩に行かねぇか?」
 音で来客に気づいたのだろう。扉からクウハが顔を覗かせた時にはファニーは顔をあげて扉の方を見ていて、目と目が合った。手元に本が開かれた状態であるから読書をしていたのだろう。
「いいが、どうした急に」
「前に言っただろ、タマの散歩。一緒に行くだろ?」
「なるほどな。よぉ、タマ、元気k……」
 ワン! 返事をしたファニーが本を置いて、タマへ視線を合わせるように身をかがめた。次の瞬間、タマに向けた言葉を言い終わる前に飛びついてきたタマがファニーの顔をべろべろ舐める。
「相変わらずお前は元気だなぁ」
 舐められながらもファニーは笑顔だ。楽しそうに笑いながら舐め続けてくるタマをわしゃわしゃ撫でてやる。

 主人としたクウハは当然だが、そうでなくともタマは友好的で館の住人たちとすぐに仲良くなった。元々人懐っこい性格なのだろう、人(この屋敷では大半が幽霊だが)を選ばず近づいては鳴いてコミュニケーションを取り、すり寄り、遊ぶ。ただその中でも顔を合わせてすぐに懐いたのがファニーだった。
 初めて顔を合わせた時からなぜか尻尾を全力で振っており、ファニーに対して(気のせいだと思うが)輝いた目を向けていたのである。とはいえ動物は好きなほうだ、それが幽霊であろうが大した問題ではない。だから当時のファニーは変わった奴だなと思うぐらいで、挨拶しようと身を屈めて視線を合わせた。が、その直後、骨しかないその頬に生温いものが触れたのだ。
「へっ?」
 ワン!
 骨だー、とでもいえばいいだろうか。そんな嬉し気な鳴き声と共に思いっきり顔を舐められた。めっちゃ舐められた。骨が溶けるんじゃないかと思うほど舐められた。
「タマ、タマ、俺様はエサじゃないぞ。ダシも出ないぞ」
 突然のことに驚くし戸惑うが、だからと言って悪い気はしない。むしろこんなに最初から動物にしかも恋人の家族に好かれるのは普通に嬉しいことだ。舐められるのも最初こそ驚いたものの、小さな弟に頬をぺちぺちされていると思えば可愛くすら思えてくる。
 返事代わりにわしゃっと頭を撫でてやると今度はその手を追って舐めてこようとして、手袋に気づいて首を傾げた。一瞬考えるような間をおいてまた顔を舐めてくる。手袋越しには魅力がなかったのか、そもそも手袋は骨じゃないなと思ったのか。
「随分気に入られたじゃねーか。良かったな、ファニー。どうだタマ、美味いか?」
「美味いって……幽霊なんだから腹は減らないだろ?」
 そのはずである。なのに顔を舐められているのだ、動物の気持ちはわからない。ただやはり犬だから骨には何か魅力を感じているのかもしれない。なお後日そう思ったファニーが直接聞いてみたこともあったが『わかりません。でも好きです!』という返答だったそうだ。謎が深まる。
 結局その日はクウハに『待て』をされるまで顔を舐められるのは続いた。そしてその日以来顔を合わせると真っ先に舐めてくるのが恒例になったのだった。

 しばらくの間されるがまま舐められていたが、視線が上へと動いて苦笑しているクウハが目に入る。そうだ、散歩に行くのだった。ぽんぽんとタマを軽く叩いて合図する。
「満足したか? じゃあ行くか」
 ワン! と満足げに鳴いて離れたタマをもう一度撫でてファニーは体を起こす。散歩に行くなら早い方がいい。今日はいい天気なのだから。


 そして冒頭へと時間は戻る。

 クウハが散歩へと選んだのは洋館からそこまで離れていない近くの森だった。森と言っても近所の人たちもよく訪れる自然の公園といったところだろうか。洋館周りの鬱蒼とした森と違い、こちらは日の光も差し込み散歩して回るには良い場所だ。
 人々に踏み固められた地面を二人で歩く。邪魔するものなんて何もない。強いて言うなら時折通り過ぎる人が二人を見て、二人の視線の先を見やって、不思議そうに首をかしげるぐらいだ。
 クウハとファニーが見えるのは特異運命座標イレギュラーズであるし当然として、その先を歩くタマは幽霊犬、普通の人には見えやしない。ましてや今は昼下がり、こんな時間に幽霊が出歩いてるとも思うまい。だから二人並んで歩くクウハとファニーが何を見ているのだろうと不思議に思ってしまうのだろう。
 リードは持ってこなくて正解だったな、なんてどちらともなく言って笑う。タマにリードを繋げていたら、霊感のない人にはただリードが浮いて動いているように見えて注目を集めていたに違いない。今はただ散歩に来ているだけなのだ。誰かに注目されたり驚かせたいわけではないのだから。

 優しくて静かで誰にも侵されることのない時間。だからこそ甘えたくなる気持ちもわいてくるもの。無言で手を伸ばしたって届かない。だから勇気を振り絞って言葉にしなければ。
「……なぁクウハ、どうせ誰も見てないし、手でも繋がねぇか?」
 少しだけ顔を逸らして、照れているであろうファニーの声はとても小さかった。それを聞いたクウハは嬉しそうにニヤッと笑う。
「なんだ、甘えたくなったかよ?」
「……悪いかよ」
 耳を澄まさないと聞き取れないぐらい小さな小さな声。声だけでファニーの頬が染まっているであろうことがわかる。
「いいや、かわいい恋人の頼みことだからな。手繋ぐだけでいいのか? なんなら抱っこだってしてやるぜ」
「それはさすがに目立つだろうが」
 言いながら伸ばされたクウハの手がファニーの手を取る。望んだ冷たい体温。指と指が絡み合ってしっかりと二人を繋ぐ。

「誰かの目を気にせず外を歩けるっていうのも、こうして誰かの隣を歩けるっていうのも、倖せなことだな」
 手を繋いだまま歩きだしてしばらく、思わず、とファニーは呟いた。彼はスケルトンだ。人として生きて死後スケルトンになったわけではない。生まれた時からスケルトンで、そしてそれは彼の世界においても普通のことではなかった。普通ではないということは大抵どこの世界でも同じく疎まれる。家族にこそ愛してもらってはいたが、外の目は当然厳しかった。だからファニーは誰かと、家族と、愛する人と、出かけた記憶がほとんどない。
 でもこの混沌世界は違う。
 クウハやファニーのような別の世界からやってきたものは旅人ウォーカーと呼ばれ容姿も様々だ。人型ですらないものだっているのだが、当然それらについてとやかく言われることもない。元よりこの世界の住人ですら翼があったり獣のような姿をしていたり種族に応じた様々な容姿がある。だからスケルトンであるファニーがその見た目で後ろ指を指されることもなかった。
 そんな今だからこそファニーは愛する人と共に外を歩いている。外を歩いていても何も言われず、いろんな景色を共に楽しむことができる、様々な物語を綴ることができる。それは何と幸せなことだろう。
「オマエは俺の恋人で俺達の家族だ。他人の言い分なんかもう気にすんなよ」
 グッと繋いだ手を引っ張ってクウハは恋人の身体を抱きしめる。クウハにしてみたら他人の目など関係なかった。元々悪霊であるというのもあるかもしれない。だから他人を気にして遠慮してしまうような、引いてしまうようなことを彼は望んではいなかった。
 愛してるからこそ、大切だからこそ、そばにいて欲しいからこそ、関係ない他者に惑わされないで欲しいと思ってしまう。例え後ろ指を指されようがクウハはファニーを愛するだろう。まぁそんなことをいうやつらを"静かにさせる"かもしれないがそれはそれとして。
 すぐに伝わらなくとも、その心持ちが変わらなくとも、知っておいてほしかった。
「ありがとうな、オレの一等星」
 気持ちはわかる、ちゃんと伝わっているのだ。だから、ファニーは何よりもわかりやすく行動で気持ちを伝えようと、口づけをしようとして……。

 ワンワンッ!!!
『ご主人! 恋人様! 見てください、骨です骨!』
 そんな気の抜ける吠え声が聞こえて、突然の介入に甘い空気もパッパッと吹き飛んでいく。間近まで近づいた顔のままふっと笑って、身体を離して声の方へ。
 そこにいたのはどうやったのか霊体を泥まみれにして小さな骨を得意げにくわえているタマだった。
「派手に汚すなぁ、タマ」
「あーあ、こりゃ帰ったら丸洗いだな」
「幽霊って洗えるのか?」
「洗えるんじゃねェか? まぁなんとかなるだろ。タマ、汚れ落とすまで洋館はいるの禁止だからな」
 屋敷妖精が大仰にため息をつきかねない、クウハがそう続けると尻尾を垂らしてうなだれる。明らかな反省のポーズにまた笑って。
「タマも泥まみれだから帰るか」
「そうだな、いい息抜きにもなったよ」
「じゃ、今度は普通に散歩にでも行くか。夕飯の材料買いがてら、な」
 ほら行くぞ、と未だにしょぼくれたまま(でも骨は手放さない)のタマに声をかけて帰路につく二人。その手は未だにしっかりと握られていたという。

 しっかりと握られた手。
 愛する人を逃がさないように、照らす一等星を逃さないように。
 離さない。離れない。それはきっと愛と執着の現れ。
 地獄までずっと一緒に。

  • お散歩デートは幽霊犬と一緒に完了
  • NM名心音マリ
  • 種別SS
  • 納品日2023年01月30日
  • ・ファニー(p3p010255
    ・クウハ(p3p010695

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