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どんなに辛くても、哀しくても
登場人物一覧
- コルネリア=フライフォーゲルの関係者
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––コニー。
––あの時と同じだ。
––今の君には、俺は撃てないよ。
脳に響く声に呼応するかのように、疼く腹部へ無意識に手を当てる。
既に外傷は無く、傷は疾うに癒えている。それでもだ。アタシはあの時、あの顔を見てからずっと痛むの。
戦場で真っ白になってしまった頭が、震えて力の入らない指が、呼びたくても声を発してくれない喉が。じくじくと蝕んでいく心を、必死に押さえつける。吐息が震えているのを自覚すれば、今も尚、自分の精神は撃たれた時のままなのだと、嫌でも突きつけられる。
『どうして呼び声に応えてしまったの』
あぁ、なんて当たり前で、悲劇的な言葉なのだろうか。
魔種となってしまった彼を憐れみ、世界の理不尽に怒る。かつての身内が敵として現れ、葛藤に苛まれる。
だがその前、ヴェルンヘルの声を聴いた時。アタシの脳内を占めたのは。
『犯した罪が目の前に立って此方を見ている』
遅れてそこに気づいた時にはもう、引き金に入れる力が緩んでしまっていた。
ヴェルンヘルでもなく、彼に巻き込まれた人達のことでもなく。アタシは。
「テメェの事しか、まだ赦されたいとか……考えてんのか」
わたし、アタシ、自分ばかり。
救われぬ誰かの手を取りたいと、命の重さと向き合って生きていたかった筈なのに。
そのどれでもない、理解しながも目を逸らし、仕方ない、仕事だからと己を納得させ続けていた穢れが、人の形をして眼前に立っていたのだ。
彼は言う。
『コニー、俺は君の罪でも罰でもないのさ』
それは救いの言葉では無い。
アタシがこの世で生き続ける理由を取らないで。
縋る先を取り上げないで。
ここまで来てもまだ、アタシは生きたいのだ。
死にたくない、怖い。
わかるでしょう、貴方なら。
アタシの弱さが。
赦される為の生と、罪が拭われぬ事を望み、罰を欲しがる矛盾。
互いに依存した傷の舐め合いは、他から見れば歪だったのかもしれない。
手を伸ばしても、もう取ってくれない。騙されていたとしても、アタシは確かに貴方を愛していた。
今もきっと愛しているのだろう。
手に掛けて尚、愚かな想いは心を締めつける。
養母の死で無力を知り。
師を殺めて無常を抱き。
恋人に騙され、現実に絶望する。
今は亡き仲間の献身で生への執着に気付かさた。
アタシを怨んでいるであろう
●
こんな鬱屈な思いがあったから、あの戦場でアタシは動けないままでいた。
だが、一つだけ容認出来なかった。
『ヴェルンヘルの未練が、アタシの後悔を深くする』
アタシが動けない中で、彼に啖呵を切ってくれた仲間が……友達に向けられた銃弾。
経験がその弾道を警告してくれたのに。
アタシの迷いが彼女を傷つけてしまった。
直ぐに他の仲間がカバーしてくれたのに、アタシはまだ震えたまま。
彼との視線が交差した時、決定的な言葉を紡ぐ。
『コニー』
呼ばないで、アタシの名を、聞き慣れた何時もの声で。
『あの時と同じだ』
違う。あの時と同じで弱い女なのは変わらないけれど。
『今の君には、俺は撃てないよ』
養母の想いを受け継ぎたいと、シスター服に袖を通した決意は。
師、自らの生命を持って教えてくれた覚悟は。
生きて欲しいと願ってくれた優しい友達の想いは。
誰かを助けて笑い、何かを見捨てて目を逸らし、手を掴んでも救えなかった命に泣いた苦しみは。
此処で動けなきゃ、仲間まで見殺しにしてしまったら。アタシは何の為にここまで生きて戦場に立っている。
何も選択せずに、見ているだけなんて、そんな自分だけは、認められなかった。
今この一瞬だけ、心に抱える全てを封じ、引き金に引っ掛けている指に、血が巡る。
『ざ、け、ん、な……!』
絞り出した声は、掠れていただろう。
涙も流れ、鼻水も垂れていたかもしれない。酷い顔だ。
それでも、それでもアタシは漸く、撃てたのだ。明確に、自分の意思で彼を。
互いの弾丸が、自身の腹を、彼の腕を穿つ。
彼は撤退を選んだ。
更に仲間を撃ち、死にたくないと宣って消えていった。
撃てなかった、心臓に一発、頭に一発。確実に屠る一撃までに届かなかったのだ。
覚悟、殺意、技術。足りてないものだらけである。
あんなに、悔しい気持ちになるものなんだと、今更ながらに他人事のように思う。
次の邂逅でアタシは彼を撃てるのだろうか。向こうは撃つだろう。抑えられない憤怒はアタシ一人でどうにか出来るものではない。
撃たなければ、此方が殺られるだけ。
ならば、改めて覚悟を決めよう。
二度、愛する者を害することを。
決別と、どちらかの生命が朽ちることを。
●
銃は害する為にある。
師に教えられ、ずっと心中にある薫陶だ。
これを握るのは、如何なる理由があれども、誰かを害するものなのだ。
決して忘れてはいけない。どんな生命でも、どんな経緯があったのだとしても。撃った結果は変わらない。
アタシは目を背けてはならないのだ。この
この先もアタシは迷いを抱きながら歩いていくだろう。
後悔しながら、鬱屈した気持ちを消しきれずに。
それでも。
「アタシは生きたいと叫ぶ想いを、求める声を」
諦めたくないのだ。
- どんなに辛くても、哀しくても完了
- NM名胡狼蛙
- 種別SS
- 納品日2023年01月22日
- ・コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)
・コルネリア=フライフォーゲルの関係者