SS詳細
爆誕!! 最終兵器きゅーあちゃん!!!!
登場人物一覧
ゲルニト帝国は窮地に貧していた。
人種、宗教、思想による争いは過去のものと化し、第二人類文明は第二地球における水資源だけが戦争を支配するようになった新球暦0070年。
大いなる水資源であるトゥル洋を巡る戦争はUSC、グリーン連邦、メジア連合、そしてゲルニト帝国による四大文明による熾烈な争奪戦へともつれ込んでいた。
無数の島国をはじめ多くの土地と有するメジア連合と膨大な人員と資金を有するUSC。の同盟関係。
そして第二北極をはじめとする広大な土地資源と旧世界技術を有するグリーン連邦。
しばらくはゲルニト帝国とグリーン連邦による同盟によって拮抗していた力関係は、グリーン連邦の裏切りという形で決定的破滅を呼び寄せることになった。
USCと通じグロース大陸での包囲作戦を官僚したグリーン連邦は主力の第七十七師団をゲルニト帝国首都ヴィドラ島へと進軍。
電撃作戦による打撃で兵力を激減させたゲルニト帝国首都を守るものは、戦車三機と一隻の駆逐艦。そして一個中隊分の歩兵のみであった。
それでも攻撃を仕掛けよと眼鏡を投げ捨て叫び散らす総統の命令により、ついにゲルニト帝国最大にして最強の――そして最後の秘密兵器を起動させることになったのだった。
「ヤッホーーーーーーー☆☆☆☆ みんなのトモダチ脳のコイビト! きゅー、ゆー、ゆー、あー! きゅーあ! ちゃん! でっす☆ミ いぇいぅ!」
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」
白衣を着た博士たちと勲章をいっぱいつけた将軍が一斉に頭を抱えてうずくまった。
「誰だよ! 軍艦のAIを萌えキャラにしたのはァ!」
「アヒムです。あいつ旧世界ジャパニメーションオタクなので」
「今すぐ連れてきて元に戻させろ!」
「三ヶ月前にクビにしました。仕事中にアニメ見てたので」
「アヒムーーーーーーーーーーーー!!」
「だいじょうぶ? おっぱいマウスパッドもむ?」
立体ディスプレイの中から心配そうに顔を覗き込んでくるQ.U.U.A.。
将軍はうずくまったまま顔をあげた。
「いやまて。これでもゲルニトの誇る宇宙一の技術力で作られた超高性能軍事AI。振る舞いはアレでも能力は高いはずだ。Q.U.U.A.、お前は何ができる!?」
Q.U.U.A.は顎に指をあててうーんと考えた後、ウィンクをしてくるりと回って見せた。
「歌って踊れるよ☆ミ」
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」
「アヒム……アイドルアニメ好きだったから……」
「それ見て号泣してたからクビになったんだよな」
「だいじょうぶ? パイ食べる?」
心配そうにクリームパイを両手に取り出して見せるQ.U.U.A.に、将軍と博士たちは人生最後みたいな顔をしてスッと背筋を伸ばした。
「将軍、もはや選択肢はありません。我々は今すぐトゥル洋へ出てグリーン連邦の師団を迎え撃たねばならぬ身……」
「いかにも。もはや生きては帰らぬ運命(さだめ)。このバーチャル・ジャパニメーション・ガールと共にトゥル洋に散りましょうぞ!」
「我々は誇り高きゲルニト軍人。散るときは最後の一砲まで打ち尽くすもの……!」
おう! と叫び拳を突き上げ合う将軍と博士たち。
そして、彼らの最後の戦いが始まった。
――トゥル洋沖。
第二地球の歴史に残るゲルニト最後の戦いが始まろうとしていた。
終結したのはグリーン連邦の第七十七師団。駆逐艦六隻と空母二隻。そして超時空戦艦一隻による強力な戦力だ。
対するは、ゲルニト最後の駆逐艦クーゲル号ただ一隻。
誰もが息を呑み、この無意味とも思える戦いに終止符の砲撃を行なおうとした――まさにその時!
「レディース! えーん、ジェントルメーン!」
駆逐艦に搭載された空間投影システムによって全長100メートルの美少女が現われた。
サイバーな趣を強めたブルーのドレスにハイソックス。
ブーツの踵を打ち鳴らすと、インカムのイヤーカバーを叩いて見せた。
投影エリア外周を回るように、(^▽^)や(>○<)といった感情的な顔文字が輝いている。
「みんなーーーーーーーーーー!
きゅーあちゃんのライブに来てくれてありがとーーーーー!
今日は沢山歌って踊って、みんなハッピーになろうねーーーー!」
「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」」
甲板で博士と将軍たちが一斉にうつ伏せに倒れた。やだやだーって言いながら両手用足をばたばたさせまくった。
「それでは聞いてくださいっ! 『きゅーあちゃんwithはかせしょーぐんず』で、『ホログラムにキスしたい』!」
その後、合計六時間にも及ぶロングライブの末、グリーン連邦第七十七師団は物販Tシャツを着て帰って行った。
これがゲルニト帝国最後の戦いであった。
問題の『Q.U.U.A.』は次元ディスクごと忽然と消え、その後の行方は知れないという。