PandoraPartyProject

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最早無き記録

登場人物一覧

ニル(p3p009185)
願い紡ぎ


 前提として、『無辜なる混沌』は滅ぶ。
 その確定事項を捻じ曲げる――と言う言い方が合っているかどうかはわからないが――存在こそが特異運命座標であり、それに類さぬ存在は如何な行動をとったとしても「破滅の運命に抗する」行いにはなりえない。

 ……という『常識』を、破壊しようとした存在がいた。
 即ち、特異運命座標ならざる身であっても世界を救う運命――パンドラを蓄積する手法を探そうとした者たちが。
 彼らは自らを、また自らの属する組織に名をつけることを好まず、ただ上述の行いを「マグナム・オプス(大いなる業)」とだけ名づけ、その為のデータ収集と実験に身を投じ続けていた。

 字面だけをなぞるならばその理念は尊ぶべきものだが、その内実は凄惨を極めている。
 彼らは先ず特異運命座標として目覚めた者たちを捕らえ、『総ゆる』データの採取に徹底した。中にはその過程で死亡してしまった者も少なくない。
 そののちに、得たデータを活かして一般人(この場合は特異運命座標以外の人物を指す)を特異運命座標にする、もしくはその中の一部の能力……即ち空繰パンドラの力を強めるそれを引き継がせようとした。
 結果は、問うまでもない。
 世界そのものが定める運命を、只人の群れがなぞるなど相応に非ず。彼らの行いは実験による無為な被害者を大量に生み出すだけの結果にしかならず、これにより発足当初は多数の人員を抱えていた組織も、この頃には半分以下の人数となっていた。
 ――――――それでも。
 この時点ですべての者たちが諦め、組織がその存在を失くせば、これ以上の被害者が生まれることもなかっただろう。

 その後も組織に残る者たちは、やがて遅々として進まぬ研究状況に対し、少しずつ正気をなくしていった。
 無論、それに比例して彼らの実験は更なる狂気を孕む結果となる。元より人の道から逸れた行いは外道から非道へと変わり、最早彼ら自身が世界の敵として『ローレット』に目を付けられることもあった。
 だが、少なくとも。未だ彼らは止まってはいない。
 現在の彼らは「特異運命座標の因子を一般人に植え付けることで、その能力を引き継がせる」と言うプロセスに従事している。
 これは、主にコアの移植が容易とされている秘宝種が実験対象とされることが多い。特異運命座標として覚醒し、命を落とした秘宝種のコアを、元々コアがなかった機械体に埋め込むことで『再起動』させ、特異運命座標として覚醒させると言った具合にだ。
 この実験は組織本来の目的に対し、何方かというと「死した特異運命座標の再利用」の意味合いが強いが、事実としてこの実験により新たに覚醒した実験体は少なくない(無論、この結果すら良い偶然が続いているだけと言う可能性のほうが高いが)。弊害としてコアが移植される前の機械体の記憶などは消失しているが、それは彼らにとって気にするべきものではないらしい。
 ……近く、組織はこの結果を元に覚醒した実験体のコアを破壊し、散りばめた破片を一般人に埋め込むことで特異運命座標として覚醒しないかのテストを――――――



『××年×月、崩壊した然る研究所跡地から発掘された手記』

  • 最早無き記録完了
  • GM名田辺正彦
  • 種別SS
  • 納品日2023年01月18日
  • ・ニル(p3p009185
    ※ おまけSS付き

おまけSS

 小さなメモ帳を一通り読み終えた青髪の男性は、その後に縛られたままの両腕でマッチの火をつけ、その手記を燃やし終えた。
 書かれていた内容は個人の凌辱と言って差し支えないものであり、また手記にあった『彼ら』は今なおそうした行いに手を染め続けている。
「――――――?」
 掛けられた声。男性が振り向けば、其処には痩身の女性がいた。
『探し物』は済んだのかと。そう問うた彼女に対して、男性は貼り付けたような笑顔のまま頷く。ため息を一つ返した女性は、そうして踵を返し、男性を気にかけず次の行く先へと向かい始めた。
 ……手記にあった組織も、現在はそのやり方を比較的大人しめにしているらしい。活動当初は一般人の実験体を無軌道に攫って用意していた彼らも、今では奴隷商などから足のつきにくい商品を買い取り、それを実験対象として活動しているとのことだ。
 それを、知っているからこそ。男性は「奴隷と奴隷商を殺して回る」この女性に今でも付き従っている。己が目的である組織へと辿り着くことを願って。

『……ミニミス。
 ニルは、ミニミスがだいすきです』

 その声を、覚えているから。
 男性は、先を行く彼女に付いていく。それがどれほど罪科に塗れた道であっても。
 自らの愛した人が、最早かの組織によって再び悲劇に見舞われぬために。

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