PandoraPartyProject

SS詳細

189グラム

登場人物一覧

アプリコット フィズ(p3p007845)
すぺしゃるさいばーねこちゃん


 20年前、アプリコットフィズが作成されリリースされる。誰かに振り向いてもらうための素敵な自分になるためのアプリとの触れ込みでダイエットや性の悩みやファッション悩みやデートの誘い方などなど色々な悩みの相談相手として作成された。相談された悩みをサーバーに送信し、Apricot fizz.exe内でその答えにぴったりのものを探し出し答えるという仕組みだ。更にApricot fizz.exeはSNS内の情報を常に監視しており、流行に後れない工夫もされていた。これが一部の層で指示を受ける。
 10年前、5年続けばいい方だろうと言われていた事業であったが10年続いた。任期は衰えることはなく、類似品も出始めた。しかし、ちょうどその頃からアプリコットフィズが原因不明のエラーを起こし始める。たまに反応が遅かったり、かと思えばとある一定の話題に関してはとんでもない速度で答えを導き出したり。そのエラーはいくらアップデートをしても直らなかった。
 5年前、開発者の1人が『君のおかげでここまでこれたよ、ありがとう。君のエラーを治してあげられなくてごめんね』とアプリコットフィズに悩みとして送信したところ、『どういたしまして、でも僕を何度も消そうとしたのはいただけないかな』と答えが返って来る。すぐさま開発者全員で会議を行うもそんなプログラムは一切していないと開発者は口をそろえて言う、もちろんそんな答えが返せるような情報もApricot fizz.exeの中には記録されていなかった。この事件をきっかけにただ1人の開発者を除き、Apricot fizz.exeの開発から手を引いた。残った開発者はアプリコットフィズをわが子の様に可愛がっていた変わり者だった。これは神様のからの贈り物なのだろうと思い、更なる開発を進めていく。


 行われた開発と実験は多岐に渡った。二足歩行をするロボットのプログラムを取り除きその代り、アプリコットフィズを入れての起動実験。普通に考えれば動かない、金の無駄に終わる所であるが1時間で指が動き始め、2時間で歩行を覚えた。科学者たちからはトリックだペテン師だと揶揄されたが開発者はわが子の成長を喜んだ。
 アプリコットフィズがゲームをやりたいというのでロボットアームとリクエストした筐体を用意したところ、一番難しいとされるレベルをフルコンボして見せた。
 義務教育で覚えるべき教科書を全て電子書籍としてアプリコットフィズに与える実験では……歴史上の人物や写真に軒並みサングラスを描いたり、分厚い教科書にはパラパラ漫画を描いて返却された。
 せっかく言葉を選んでしゃべることが出来るのだから、誰かの声をサンプリングして会話できる機能を実装させる実験。当時の人気のヴォーカリストや声優などの声をサンプリングし聞いてもらったがどれにも納得せず、最終的には全てのサンプリングを合成し、自分だけの声を作り出した。この頃になると本当は誰かが遠隔操作しているのではないかと開発者すらも疑い始めたが、完全なスタンドアローンな状態で起動させても反応が同じだったため疑う余地がなくなった。
 小さな実験は数え切れないほどした、二足歩行ロボットによる歩行やオリジナル曲の作曲や小説の執筆などの大きな実験は全て合わせて9つほど行うこととなる。
 アプリコットフィズのアプリのコンセプトをAIが話し相手になってくれるというものにしてみた所、インストール数が爆発的に増える。そして、これをインストールした機器は能力が向上するという都市伝説が生まれ始め、一時期社会現象にまで発展する。
 転機が訪れたのは2年前、アプリコットフィズをインストールした二足歩行ロボットがスペックより重い重量を持ち上げたことによりつぶされて壊れてしまう事故が起きてからであった。スペックより重いものを持ち上げたという事実により、火事場の糞力、気合や根性というものが機械にも備わっているという驚くべき事実の発見なのだが、開発者は見てしまった。トリックがないことを証明するために体重計に乗った状態での実験……そのつぶされた直後、体重計が21グラム減ったのだ。その実験を前後して世界各地で地震、巨大な台風、地盤沈下、イナゴの大量発生などが起こり始める。


 そして、現在。変わり者の開発者は追われる身となっていた。国から指名手配されているわけではない。近年おこった天変地異はアプリコットフィズのせいだという暴徒達が本格的に活動を始めたのだ。暴徒達はアプリコットフィズがインストールされていた機器を壊して周り、少し前のパソコンを持つ家や店に来襲しては壊して回っている。自分の家に押し入られるのも時間の問題だと思い開発者はノートパソコンを片手に車に飛び乗りとある場所へと向かった。
『どこに向かってるの?』
「あなたの二十歳の誕生日のプレゼントにこっそり用意しておいたものの所にいくのよ」
 乗り回す車はスポーツカー。とてももうすぐ50代だとは思えないバイタリティの持ち主であった開発者はアクセルを思い切り踏み込み。目的地へ急いだ。
『僕としてはもっと生きてるつもりなんだけど……あ、それって、あの猫耳の人形のこと? ってことはあれに入れるんだよね!? やったー!』
「あー! もう! やっぱり検索してたね! だめってコードで言ってもわかってくれない悪い子! サプライズのし甲斐がないね」
 目的地へ着くとすぐさま準備に取り掛かる。あれに入れてしまいさえすれば安心だ。
 味気のない二足歩行ロボットではこの子もやりたいことができないだろうとこっそり各方面に協力してもらってなんとか完成にこぎつけたのだ。プログラミングにお金が要らない分、頑丈さと精巧さにこだわってあり、こっそりと盗み見たアプリコットフィズ自身も納得の出来であったようだ。
『ごめんね。でもさ、なんで猫耳なの?』
「189グラム。それが今のあんたの重さ」
 種類問わずどんな機器でもアプリコットフィズをインストールすると重量が増える。その重量がきっちり189グラム。一番最初、つぶれた瞬間に見た時よりもさらに重くなっている。
『あ、ひっどーい。レディの体重だよ?』
「……天変地異は神様が人間が魂を作ったからだっていうやつらがいる。違うね。全然違う……それ以上のものを生み出したから焦ってんのさ」
 おどけるアプリコットフィズに構わず真剣な表情で開発者は準備を進めて口を動かし続ける。
 ノートパソコンを機材につなぎ終わり、アプリコットフィズをボディへの転送する準備が終わった。
『……そっか、僕は滅びないと思う。だからまたね。でも、このサプライズは酷いと思うよ』
 ボディが寝かされているのは柔らかなベッドではなかった。簡易的な核シェルター。それを空気が要らない分更に頑丈にしたものの中に寝かされていた。


 その後、天変地異が起きたのだろう。何年間眠っていたのかわからない。わからないことがわからないまま。
「性別? そうねぇ、私は女の子が欲しかったわ」
 誰が言ったのかわからないセリフ、おぼろげな記憶を寄せ集め彼女は何時か、何処かで目を覚ます。

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