SS詳細
手を取るのは、誰かの背を見ていたから
登場人物一覧
輝く太陽の下、カラカラの暑さの中で温い風が頬を撫でる。
「眩しい……」
白い肌に照り付く陽光がじんわりと汗腺を刺激するだろう。
手をかざしながら天を仰ぐメルナ(p3p002292)は、特に目的がある訳でも無く砂浜を歩く。
ローレットから引き受けた依頼、という名の
「(でも、良いのかな)」
何しても良いと言われても、手持ち無沙汰となった彼女は、ぶらりと目的も無い散歩に出掛けるしかない。
新調した青を基調としたビキニタイプの水着は、メルナの星の海の様に瞬く長い銀髪によく合っている。
「この辺は静か……戻らないと」
何時しか周囲に人影が見えなくなってしまったことに気づく。否、それは解っていた。意識してか無意識か、自ら人気の居ない所を求め、歩いていたのだから。
僅かに気を抜いたその瞬間から、彼女は
「私は、本当に出来ているのかな」
独りごちた声は、誰に向けた訳でもない意識外の不安。しかし、その形容できない気持ちでさえ海は流してくれる。
丁度よさそうな岩に腰掛けて、ぼうっと波の流れる様を眺めていた。
「ホントにあるのぉ?」
「さっきから言ってるだろ! じいさんが見せてくれたんだからホントに決まってる!」
どのくらい時間が経った頃だろうか。メルナの耳朶に触れる幼い声。見れば少年と呼べるぐらいの子供二人組が、波打ち際で何かを探すかの様に歩いていた。
「ここは入っちゃいけない筈じゃ」
入ったから何か問題がある訳では無いが、見てしまったからには、立ち入りについて言った方が良いかと立ち上がる。
二人の子供は何かを探すのに夢中なのか、寄ってくるメルナに気づかない。
「何してるのかな」
努めて優しい声音を作り、話しかけてみるが、その声に驚きで肩を震わせた子供達は。
「う、うわぁ!? ご、ごめんなさい、わざとじゃないんですぅ!」
くすんだ赤髪の子の方が、飛びずさりながら言い訳から始め、顔立ちは似ているが見事な白色をした髪の少年は怯えた様に赤髪の背中に身を隠している。
「大丈夫、怒らないから。でも、ここはまだ入っちゃいけない場所の筈だけれど、あなた達はどうしたの?」
先程一人で居た時とは変わり、明るく元気な雰囲気を纏わせる。
静かで人見知りな"メルナ"ではなく、創り上げた元気で明朗な
此方を訝しみ、瞳に不安の色を含ませながらも、赤髪の方の少年が口を開く。
「こいつ……えぇと、弟が今度、えぇ、なんだっけ……? なんか大会に……」
「ろ、朗読会だって行ったじゃん兄ちゃん……」
「わ、わかってるって! とにかく! その大会に出るのに、人前に出るのが嫌だって駄々こねるから」
此方には目も合わせられないのであろう弱気な弟も、兄に対しては遠慮の無い物言いで言い合っている所に、仲の良さを感じ、顔には出さずに心内で笑みを浮かべる。
なんとかしてあげようとした兄が、御守りにしていたと祖父に聞いた話を思い出して、この海岸にたまに落ちている宝石とやらを探しに来たらしい。
此処で敷地外まで連れていくのは容易い、立ち入り禁止の所に入っているのだから、当然の処置だろう。
兄だったら。
クランであったらどうするだろう。
そう思えば、するりと言葉が出てきた。
「じゃあ、私も一緒に探しても良いかな? 二人より三人の方が早いでしょ?」
目的の物は思ったより早く見つかった。貝の中で育ち、吐き出されたそれが砂粒で研磨された綺麗な玉。
この地方では珍しいという訳では無く、少し集中してみればあちこちに落ちていたのだ。
「姉ちゃんありがとう! ほら、お前も」
「あ、ありがとうお姉ちゃん……」
兄の背に隠れていた弟も、少しは打ち解けてくれた様で、はにかんで此方と目を合わせる位にはなれたらしい。
「んーん、沢山見つかってよかった! これで朗読会も安心だね!」
じゃあ帰ろうか、と、二人を連れ添って敷地外に向かう。まだ居てくれた係員に三人で謝り、手を振って別れる。
「姉ちゃーーん! ありがとなー! 水着似合ってるーー!!」
姿も見えなくなりそうなぐらい遠く、聞こえてきた声に振り向けば、大きく手を振っている影が見えた。
どうして今なんだ、と思わず吹き出しながら、メルナも手を振って。
「ありがとー!! この水着、結構お気に入りなんだーー!!」
空は既に夕暮れ色。何のことは無い休日ではあったが、何処か心が暖まる感覚となる。
兄弟に自身の過去を重ねていたかどうかは本人だけが知っている。
「(疲れた……。でも、うん。リフレッシュにはなったかな)」
少なくとも、今日という日が悪いものでは無かったようで。