PandoraPartyProject

SS詳細

Late Birth Day

10月13日 23時55分

登場人物一覧

リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039)
暗殺令嬢
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ

●遅刻した女
「お待ちしておりました」
「……時間通りの筈ですけれど」
 にこやかに笑って芝居がかった一礼をした新田 寛治 (p3p005073)にリーゼロッテ・アーベントロート (p3n000039)は何とも微妙な顔をした。
 待たせてやるのは女の嗜みと言わんばかりの令嬢だが、状況が状況である。
「『昨日の今日』で振り回す程、不作法ではございませんわよ」
「ええ。お嬢様は『お元気』が足りないかと思いましてね。
 気を利かせて早めにお待ちしておりましたとも。
 ?」
「相変わらず良く回る舌ですこと」
 嘆息したリーゼロッテは年相応のフォーマルな衣装で自身を迎えた寛治の余裕に苦笑した。
 如才ない寛治の言葉遊びは、冗句めいていながらも実に正しく的を射抜いている。
 無いも同然だったとはいえ、父親を失った。
 拠る辺無き彼女が唯一甘え、縋ってきた幼馴染を失った――
 薔薇十字に纏わる一連の大事件Pradise Lostは強かな彼女から幾分か毒気と強気を奪う程度には痛烈な結末となっていた。
 支え得る者は居ないのに、山積された問題はこれまでに無い程だったに違いない。
「ええ。しかし、何時も以上に舌が滑らかだと言うのなら。
 これはきっと――年甲斐も無く、はしゃいでいる、といった所でしょうか?」
「……貴方が?」
「ええ。『お会い出来たの自体が久し振りですから』」
 寛治の言葉にもう一度リーゼロッテは苦笑した。
 成る程、勘のいい男の言は間違っていない。
 決着の後もリーゼロッテには休む暇も、嘆く暇も無かった。
 ぐちゃぐちゃの精神状態で事後対処に追われる日々は振り返りたくない程のものだった。
「『お疲れ様でした』」
「ええ」
「御立派でしたよ。私が評するのもおかしな話になりましょうが」
「……いえ、ありがとうございます」
 美しい顔に浮かんだ幽かな微笑には色濃い疲労が浮かんでいた。
 事件の顛末を思わせない程に、気丈にアーベントロートの問題に正対する彼女は恐らくこれまでで最も立派に『貴族』だった。
 リーゼロッテが持ち合わせなかったノブレス・オブリージュをこの局面で発揮したのは実に皮肉な話であると言えるのだが。
「『特別な日』は過ぎてしまいましたが……お付き合い頂き感謝します」
 この僅かな時間の為に、忙しい彼女がドレスアップしていた事も又然り。
「貴方だから、ではありませんけれど」
「そうですか?」
「貴方だからではありませんけど!」
「分かっておりますよ。
 しかし、その位の役に立てる立ち位置も悪いものとは思いませんけどね」
 ツンツンと可愛くない言葉を向けたリーゼロッテを肩を竦めた寛治は軽くかわした。
 弱った女は口説きやすいとは言うが、矜持の問題もある。
 
 直截に好意を振りかざし、攻め入る事は簡単でも彼の美学はそんなやり取りを望んでいない。
(第一、この時間こそが答えでしょう――?)
 事後対処に忙殺されるリーゼロッテが時間を作った事自体が特別だ。
 誕生日でも聖夜でも無い唯の日の真夜中でも。
 誰よりも令嬢であり、生粋の姫君である彼女は逢いたいと伝えられて頷くような女では無いのだから。
 全てを言葉にしなくても伝わる事も、伝えられる事もあるものなのだ。
「ですが、能率の為には適切な息抜きも必要でしょう?
 ……萎れた蒼薔薇を見たいと思う男は居ないのです。特に、この私はね」
 白い息を吐いたリーゼロッテに歩み寄り、寛治は極自然な所作でその頬に触れた。
 特段の強い抵抗は無い。至高の蒼薔薇とも称された彼女の肌が乾き、荒れている事に寛治の眉が小さく動く。
「何時から」
「……?」
「何時から、そんな気障が似合うようになったのでしょうね」
 生意気サプライズにも不意打ちをしてきたのが一昨年の事。
 リーゼロッテは、ほんの僅か――誕生日の時間を空けて欲しいと頼まれた『去年』を思い出していた。

 ――こんな時間で宜しかったの?

 ――一日独占しようとは思っていなかったので。

 ――紳士的なのだか、その逆なのだか。

 特別な日の日替わり前の僅か五分。
 普段から打って変わって正統派に、跪いて指輪ブルーダイヤを差し出して来た姿は軽妙なやり取りに似合わない真摯さを帯びていた筈だ。

 ――それ相応の言葉が聞きたいものだわ。

 ――申し訳ありません。『大人』なものですから。

 ――女性は時に『情熱』に靡くものと存じますけれど?

 ――余り、苛めて下さいますな。

 クスクスと笑ったリーゼロッテは寛治の困り顔は承知の上だった。
 何せ身近にそういう男クリスチアンが居た女なのだ。
 コン・ゲームは彼女の日常で、微温湯のように心地良い時間そのものだった。
「女王の駒は、安易に動かないのが定石でしてよ」
「……?」
「いえ、此方の話。しかし、何とも不思議ですわね。
 何年か前ならこんな私、イメージも出来ませんでした。今年もこんな時間に貴方と二人きりで居る」
 去年に続いて――
 ほんの少しだけ時間を分けて欲しいと請われれば、殊更に断る理由等は無かった。
 歪に始まり、肝心な事は決して口にしない奇妙な関係だが、その意味を全く理解出来ない程、リーゼロッテも幼くない。
「……遅刻して、ごめんなさいね」
「ああ。まぁ、そういう事になるのでしょうか」
 十月十三日はリーゼロッテの誕生日だ。
 そしてそれは今年『も』寛治が求めた特別な時間であった。
 聖夜を間もなくに控えるタイミングは、寛治が気を利かせるまでもなかった『大遅刻』そのものだ。
 父娘二人きりの誕生日と思えば、リーゼロッテの求めた事にも聞こえようが、肝心の父親がアレでは救われまい。
「以前にも言ったかも知れませんけど、私、誕生日って嫌いだったんです」
「……」
「子供の頃から、それはそれは沢山お祝いして貰いました。
 何処の商人が貴重な品を献上しただとか。貴族の誰それが挨拶に来ただとか。
 ……まぁ、私は恵まれ過ぎていたのでしょう。
 恐らくはそう口にしたら『贅沢』と謗られるのでしょうね。
 それでも、私は誕生日が嫌いでした。本当の意味では誰も私をお祝いなんてしていなかったから」
「『彼』が泣きますよ、そのお言葉」
 敵に塩を送るのは嫌気だが、否定し難い事実に寛治が苦笑する。
 しかしその言葉は想定の内だったのか、リーゼロッテは「アレはノーカウントです。可愛くないし」と云って笑う。
「苦痛の義務が、この何年かとても愉しかったのです。
 ……本気でお祝いしてくれる人達が沢山居ました。
 こんな嫌われ者に、本当に。馬鹿みたいに正直に。
 勿論、貴方もね。ですから、今年は本当に堪えてたんです」
 やや独白めいたリーゼロッテの言葉に寛治は嘴を挟まない。
 不器用で纏まりの無いその言葉は素直ではない令嬢の珍しい本音にも思われていた。
(ねぇ、お嬢様? これは誰にでも聞けるお言葉ではありますまい?)
(……誰にでも見せる顔を思わないで下さいましね)
 互いに口にしないその内心は奇しくも同じ方向を向いていた。
 言葉にすれば語るに落ちる。何もかも確かめる事は上等の料理に蜂蜜をぶちまけるような所業になろう。
 薄氷の上を行く、揺れる吊り橋を渡るような『恋』ならば相応の所作フォーマルは不可欠なのだから。
「ですから」
 幾度目か白い息が弾んだ。
「『やり直し』てくれて、嬉しいです。
 ……今日だけは素直に感謝しておきますわよ」
You're welcomeどういたしまして
 恭しくそう言った寛治の気取った調子に銀の鈴が鳴るような華やかな笑い声が零れていた。
「しかし、この際だ」
「……?」
「感謝頂けたと言うのなら、傘に着ても?」
「……内容によっては検討します」
「いや、そんな大それたお話ではないのですが――
 ――いえ、撤回します。それなりに大それたお話になるかも知れませんね」
 一歩下がった寛治は何時かのように跪き、
「――今年は、薬指を頂戴しても?」
 お姫様の『左手』を取ってそんな風に嘯いた。
「……」
「……………」
「…………………本当に、今日は、まったく。この……」
「品の無い攻め手は趣味ではありませんが、十分に手順は踏めたかと存じますので」
「本当に厭な男ですわね!」
 天を仰いだリーゼロッテは彼女らしからぬ大きな溜息を吐き出した。
 紅玉ルビーのような大きな瞳の中に聖夜よりも早い細かい雪が散っていた。
「お返事を頂けますか?」
「……言わぬが華とか、そんな話ではありませんの?」
「はい、お嬢様。しかしね、お嬢様は女性だから恐らく御存知ないかとは思うのですが――」
 顔を下してジト目で見下ろすリーゼロッテと視線を絡めた寛治はとびきりの笑顔で告げる。
「――男とは、時に言わせたくなるものなのです。
 そして、これも習性ですが。子供であろうと大人であろうとね。
 特別な相手にはどうしてか、ちょっとした意地悪をしたくなる生き物なのですよ」
「……自惚れて」
 小さく零したリーゼロッテは口をへの字にして言う。
「言っておきますけれど! 私は貴方程、貴方を愛してはおりませんからね?」
「そうでしょうね」
「好いていない……と言うと違いますけど。それは別に貴方だけじゃない」
「はい。承知しております」
「~~~~!」
「……どうぞ、お続けになって下さいな」
 寛治の言葉は先程自身で伝えた『習性』をまたもなぞる。
 大きく咳払いをしたリーゼロッテは幾分か逡巡した後、
「……で、いいなら」
「何と?」
「ざ、ん、て、い、で、い、い、な、ら!
 ……貸しておく位はしておいて差し上げます。
 精々、素敵な殿方になって下さいな。少なくともクリスチアン以上の」
 概ね勝利を収めた寛治は最後の言葉に苦笑した。
 わざとらしい言葉は負けに負けたリーゼロッテのちょっとした意趣返しに違いない――

  • Late Birth Day完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2023年01月11日
  • ・新田 寛治(p3p005073
    ・リーゼロッテ・アーベントロート(p3n000039
    ※ おまけSS『座談会(笑)』付き

おまけSS『座談会(笑)』

「くぅ~疲~」
「2021年の誕生日SSだったんですけどね」
「ちゃんと発注文通り2021も書いたじゃない。
 2020と2022をハイブリッドした三年ベースの代物なのでリクエスト通りという事で」
「間違って『は』いない」
「最大5000の発注で、4000ちょいはみ出したけど、十分書いたので削って4000で収めました。
 何かいちゃいちゃしてるように見えますね?」
「見えると言うかいちゃいちゃしているのでは?」
「まぁ、してるんだけど。
 いや、安心してくれるな。眼鏡君」
「してませんて。言いたい事は分かりますよ、ヤミー君」
「本人が分かっているから本人に言う意味はないのだけど」
「読んだ人皆はきっと分からないと思いますからねぇ」
「要するにこれはだね」
「『漸く一定以上のダメージが通るようになった状態』ですね。
 所謂一つのバリア解除です。お空のHLでよくあるやつですよ。
 私、お空知りませんけど」
「HPが一定以下にならない状態」
「ギミック解除してようやくここからという事なんでしょうねぇ」
「残り一年ちょい(仮)と考えるとまあいい塩梅でありましょうや」
「二次防壁で故人ぶっこんで来る所が何ともアレですねぇ」
「親友エンドにならないように頑張って」
(前科あるからなあ……)
「……あの!!!」
「おや、お嬢様。どうかしましたか?」
「素面で他人の分析するの辞めて貰っても構いませんかね!?」
「いやあ、もう余裕がないものですから」
「流すぞ眼鏡!!!」
(仲良いなあ)←いいのか?

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