PandoraPartyProject

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ここに或る意味。

登場人物一覧

桐生 楪(p3p007157)
喪いしもの


 桐生 楪 (p3p007157)とある小さな出版社に正社員として就職をし、新しい生活が始まる。
もともとバイトをしていた会社なので目新しさはないけれど、バイトから正社員になることで、できることも増えるはずだ。
 前々から夢として思い描いていたのは世界を旅して、情報を日本人に伝えるジャーナリスト。
 楪にはそんな輝かしい未来が待っている――はずだった。

 あの日、楪は現代日本から混沌渦巻くこの世界に召喚された。
 たしかに自分の出版社でもそういういわゆる「異世界召喚」系のライトノベルは発行していた。しかも割と人気があることも知っている。だが、そんな小説の中の主人公のような目にあうなんて自分の人生プランには入っていなかった。
 しかし、人間とは慣れる生き物である。
 ローレットという互助会のような組織があると聞いてそこに向かう。
 最初は混乱したものの、ローレットのおかげで生きる術はみつかった。もとの世界に帰るにしろなんにしろ必要なものがたくさんある。その一つが武器、だ。
 楪はまずは武器を得ることにする。

 ギィイイ。
 重い音がしてボロボロの扉を開く。薄暗い室内に外からの光が入り込み、武器のようなものが見えた。
 武器が必要だと認識してから楪はまずはとローレットや幻想の武器屋を覗いて回った。戦うときめたものの、そもそも日本人でジャーナリスト。ペンが武器よ、なんてかっこよく決めたいけれど流石にこの世界では通じない。(まあ、それ以外にも現代知識が通じないことが多すぎて心が折れそうになったのは彼女の面子のために黙っておこう)
 閑話休題。数々の武器を手にしたもののどれもこれもピンとこない。故に方方をあるきまわって、最終的に到達したのが、この開いているのかどうかも怪しい廃れた店舗なのである。
「すみません、武器を見せていただけますか?」
 正直この店では無理とは思ったけれど、もしかして、の望みをこめて店主だろう老婆に声をかけた。
「あんたに似合いの武器――」
 老婆が口を開いた。
「そんなもんはないよ。戦う覚悟すらできていないひよっこに売る武器なんてないさ」
 そしてその後に続く言葉は楪が思っても居ない言葉だった。
 同時にその言葉は楪を射抜く。そのとおりだ。とりあえず武器を、くらいの感覚でいたことは否めない事実だ。その得た武器で自分が誰かと戦う覚悟なんて考えてすらなかった。
「そ、その、この世界は皆が皆覚悟をもって武器をとるんですか?」
 楪のやけくそじみたその言葉に老婆は楪を一瞥し言葉の続きを促す。
「わ、私みたいに流されて覚悟のないままに戦う人はいないって言うんですか?」
 八つ当たりのような言葉だ。自分と同じ日本から召喚された誰かもいるかもしれないじゃないか。その人だって覚悟なんてできてないだろう。なのに、なのになんで自分だけが責められるのか――。
 バイト時代に戦争の記事をかいたことがある。自分より随分と年下の子供が少年兵として小さな手に武器を携え人を殺めて戦っているという事実を告げるための記事。
 記事を書いている最中たまたま平和な日本に生まれた自分は戦う必要はないが、戦うことでしか生きることができないこの子達は戦いたくて戦っているのだろうかと何度思ったことか。
「私だって、好きでこの世界に、戦いをするために召喚されたわけじゃない!!」
「は、はは。面白い子だねえ」
 いくぶんか抜けた歯をみせながら老婆が面白そうに笑う。
(私はなにかおもしろいことを言ったのだろうか?)
 訝しむ楪に老婆はこれを持っておいきと大型の両手銃を渡す。ずしんとした重さはこれが人を殺すことのできる武器というもので有ることを否応無しに感じさせる。
「あんたみたいなのは遠くから戦場を観察しつつ戦ってみるといい。
 戦いをしらないのであれば、まずは自分の目と耳と肌で感じてみておいで」
 老婆のそのスパルタにもすぎるアドバイスはなぜだかすとんと、楪の腑に落ちたように感じられた。
 まずは感じることから――。
 
 
 なし崩しに売りつけられたその重い銃を抱えて帰路につきながら楪は思う。(ちなみに値段はそれほどまでに安くはなかった)
 この銃口を向けて引き金を引けばその向こうで誰かが死ぬ。
 それはゲームや小説などではない「リアル」だ。自分にそれができるのだろうか。
 先行きは不安しかない。
 
 だけれども……自分はこの世界に必要とされて召喚されたのだ。
 その意味を「悔いる女」は答えてはくれなかった。
 それは自分が見つけるものだといわれた。

 自分と同じように召喚されたものは命がけで戦い、そしてその先に何かをみつけている。自分以外のイレギュラーたちは「意味」を既にしっているのだろう。

 戦場に赴こうとおもう。正直怖くないとは言えない。なんとなくその戦いの向こうに自分が求める「意味」があるような気がしたから――。

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