PandoraPartyProject

SS詳細

はたらくじょうほうやさん

登場人物一覧

ギルオス・ホリス(p3n000016)
主人=公(p3p000578)
ハム子

 ――闇とはなんだろうか。
 それは眼に見えぬモノ。暗がりにしか存在せぬ、光を厭うモノ。
 決して白日の下に現れず……隠れ潜む。それが『闇』だ――

「だからと言ってこんなモノに価値を感じる『闇』なんて僕は嫌だったよ……」
「まぁまぁ――ギルオスさん、そう言わずに」

 ある日の幻想。具体的な場所は伏す……が『様々な者の集まる邸宅』とだけ称しよう。
 その邸宅で行われるはオークションだ――所謂『闇』という言葉が前置きされる形の催しではある、が。そこへ情報屋のギルオスと主人=公の二人も訪れていた。
 場に馴染む正装へと身を包んで。
 目的はオークションへの参加――ではなく。
「すまなかったね突然。このオークションを介して違法な資金の流れの調査を依頼されてたんだけど……ここはパートナー同伴が絶対でね。護衛も必要な所だったから」
「なぁにまかせてよ!
 ゾンビ洞窟へ迎えに行ったり、ギルオスさんお仕事前にも手伝ったことあるからね」
 やれやれそんな事もあったね……とギルオスは呟きながら、そう。これは依頼である。
 幻想は腐敗の進んでいる国家と言われてはいるが、いくら何でも白昼堂々表立って犯罪行為が行われる程の世紀末無法地帯ではない。このようにコソコソとしたオークションが開かれたりなど一応の闇事を介す訳である。
 運び込まれる貴重そうな絵画や芸術品の数々――裏で回る資金達。
 一体誰が関わり、誰が受け取ろうとしているのか……
「……ただここに入る為の『品』としてさ。
 なんでパンツが貴重な物品として通じるんだろうね。この世界終わってないかい?」
「ううーん……パンツが闇オークションっの一つとして通じるって……凄いよね……ホント、通貨単位の一つとしてパンツが流通してるのはどうかしてると思うんだ。闇市にも沢山あるしね」
 さてしかし。ここに来たギルオスと主人=公だが、二人共にこのような場に容易く入れるような身分持ちではない。イレギュラーズというのは流石に理由にはならないだろう。
 故に入る為にはオークションの出品者として何か『物』を用意する必要があったのだが――それが『パンツ』だった。あ、待って。本当なんですパンツなんです冗談じゃないんです読み飛ばさないで。
 とにかく。いつもの如くパンツが送られてくる謎の情報屋ギルオスであるが、つい先日クローゼットが満杯になりすぎてぶっ壊れて埋もれた際に気付いたのだ。パンツにも価値が凄まじいパンツがあるのだと。
 ――これを『餌』に潜入出来るのではないか?
「念の為言っておくけど僕の頭がおかしくなった訳じゃないからね」
 価値を感じているのは向こうである。
 そして実際提示したら出品者の一人として通れたので、悪いのは全部向こうである!
 この国で特に価値があるソレというと――例えば某令嬢の下着であったり――とか――
 まぁ実際に何を提示したかは秘すが、ちゃんと通れたのだ全て良しとしよう。
 これで内部の情報収集も出来ようというもので。
「ところでギルオスさん、ここから後はどう調べる予定なの? 資金の流れって言うのはさ」
「んっ…………そうだね。暫くオークションの品を確認しながら会場を回ろう」
 主人=公の問いかけに、ギルオスは一拍間を置いた後にそう答えて。
 オークションの品が証拠になる事もあるのだという。どこの誰が出品したか……いやそれが偽名である可能性もあるが、ともあれ。『ここに在ってはおかしい』品などが流れる事もあり、それのチェックだ。
 例えばどこかの貴族の家から盗み出された筈の壺が『どこかの貴族』から出品されたりなど。
 情報を記憶していく。精査はよしんば後でも良く、とにかく二人で巡り巡って。
「あっ、そういえば……フォーマルな場っていう事で『こっち』のアバターにしたけれど良かったかな? 怪しまれてない?」
 と、周囲の様子を伺いながら主人=公が見据えたは自らの姿。
 彼――ではなく『彼女』は、己がギフトにより性別を自在に変化させる事が出来る。
 男ならば男の体格として。女ならば女の体格として。その上に衣類も――着用していた衣類の原型を保ちながら、その性別に応じた範囲で変ずるのだ。今の形状は一言で言うなら、ドレスだ。
 と言っても大仰すぎる物ではなく、比較的軽装な動きやすいタイプのであるが。このような場であれば男二人組であるよりも男女同伴に見えた方が『らしい』だろうと、彼女の気遣いで。
「うんうん全然大丈夫だよ。すまないね、気を使わせてしまって。本当に助かるよ」
「なぁにボクならギフトの範囲である程度融通は利くからね。この程度はお安い御用さ」
 主人=公の力は男女の垣根がほぼ存在しないも同義である。
 あくまでも同一人物の性別が変わるという変化であり、自由自在千変万化の変化ではないが――今の『彼』は『彼女』として全く違和感はない。こういう場において男女の割合が取れているのはそれだけで目立たなくする効果が見込めるものだ。
 適任この上ない彼女と共に事を成そう。
 二人して巡っていく。会場を、怪しまれないようにゆっくりと。ギルオスを先頭にして――

「……んっ?」

 瞬間、主人=公がふと。
 『何か』の気配を感じ取った。
 ほんの微かだが何か妙な感じが背筋をざわめかせて――
「――ギルオスさん伏せてッ!」
 同時。主人=公はほぼ反射的にギルオスを背から押し倒した。
 直後に鳴り響くのは爆発だ。オークション会場の一角で、内側に向けて爆風が舞う。
 急速に広がる黒き煙。その流れから察するに……外から爆発物でも投げ込まれたのか? 状況を確認せんとする主人=公の目に映ったのは、大きく穴の開いた壁、壁、壁。
 そして鳴り響く悲鳴。飛び交う怒号、次いで銃声剣撃戦闘音の雨あられ。
「なんだろう、戦闘……? どうやら憲兵が踏み込んできた雰囲気ではなさそうだけど……」
「――敵対するマフィアとかかな?
 ちょっとここからだと様子が分からないけど、とにかく予想外の事態だね」
 庇ってくれてありがとう――とギルオスは言葉を紡ぎながら二人して銃撃に巻き込まれぬ様に影に身を伏せる。幸いにして襲撃ポイントからは離れていたようだ。爆発物の影響は二人に少なく、動くに支障はない。
「とはいえ、これじゃあもう調査だなんだとは言ってられないね。逃げようか」
「OK。それじゃあここからは護衛としての力を見せるとするよ――
 入口まで突っ走るから、逸れないようにね」
「善処するよ。逃げるのは得意なんだ」
 運良く比較的広い空間にいたのが良かった。隅を通っていけば、戦闘も極力排して向かえそうだ。
 伏せていた場所から跳び出す主人=公。避難しようと慌てて逃げ出すオークション参加者達に紛れつつ、煙で姿が見え辛い事も利用して――駆ける。
 飛んでくる銃弾を弾き。
 時に襲い掛かって来る者を退けて。
 出口へと向かう。ただ只管に、道を切り開くために。
「――ギルオスさん?」
 と、その時だ。最早出口まであと少しと言う所で。
 ギルオスの気配が途絶えた事に主人=公が気付いた。
 妙だ。途中までは確かに後ろを付いてきている気配があったのに――

「ああ大丈夫、大丈夫だよ。ここにいるよ!」

 煙の奥からギルオスが現れる。慌ててこちらに駆け抜けて来ていて。
 遅れていたのか。なら無事を確認すれば再行動だ。脱出すると成ればここに留まる意味は無く。
 ローレットの方向を目指して――走り抜けるのだ。
 馬は無く、故に足のみで。ひたすらに幻想の街中を騒ぎが聞こえなくなるまで。
 息が切れそうになる程動かした――先で。
「はぁ、はぁ……いや全く大変なことになったね。でも正体がばれることなく無事に帰って来れたのはキミのおかげだ――ありがとう。今回は、お疲れ様」
 もう大丈夫だろうと、ギルオスは立ち止まって言葉を紡ぐ。
 息を整えるのに数拍。やがて互いに向き合えば。
「うん、ギルオスさんもお疲れ様……だけどどうするの? 結局調査はあんまり」
「まぁ……進められなかったのは仕方ないね。この件はまたプランを練り直すとするさ」
 情報屋として動いていればこのような事もある。
 不測の事態が発生したり、集めていた情報が鮮度を過ぎて無駄になったりと。
 しかしこのような事態が発生もするからこそ――めげてはいられない。
「次に取り掛かるよ。もしかしたらまた君に依頼する事もあるかもしれない……その時は」
「うん。その時はまた――よろしくね、ギルオスさん」
 リベンジマッチだと拳を突き合わせ。
 そのまま別れる。ここまで来ればローレットも近い。もう安全だからと。
 吐息を一つ。冬の空に、息が白く染められて。

 その内、また護衛の依頼でも出るのだろうかと――主人=公は思いを馳せた。

●余談
 ……
 ……
 ……
 さて。
 それではここからは余談である。
 誰も知らない――余談である。

 『彼女』にはとても悪い事をした。
 今度何か埋め合わせをしないといけないかもしれない。
 いやしかしそれでも流石は一線級のイレギュラーズだ。まさか――

 『あの襲撃の寸前の気配』を感じ取るとは。

 運が良かったのではない。
 『そうなる』様に元々誘導していたんだ。
 あの時間、あの位置にいれば爆風から逃れる事は全て分かっていた。

 だって『僕』が敵対マフィアにあの会場の事を――事前にリークしていたんだから。

「さて」
 ――ローレットへと帰り着いたギルオスはポケットに仕舞いこんだモノを取り出す。
 それはオークションの品だ。先の騒ぎに乗じてくすめた一品。
 ある貴族が出品しようとしていた『写真』である。
 錬達製の写真機でも取り寄せたのだろう。それには鎖で繋がれた幻想種が映っていた。
 これはザントマン事件の残り火だ。かの折に、奴隷売買がまだ行われていた頃にラサから奴隷を取り寄せたはいいが……ラサや深緑が大規模に動いた様を見て、大事になったと貴族は焦ったのだろう。自らに足が着く前にと奴隷を手放そうとした訳だ。
 オークションで写真を見せて『いりませんか』と。
「全く、本当にこの世にも塵が多いよね」
 ギルオスにとって先のオークションに参加した理由は、実際の所これの回収が目的だった。より正確には所有の証拠の確保だが……何故護衛者である彼女にも黙ったのかと言えば、今更これは表沙汰には出来ないからである。
 残り火の存在を公表した所でまた深緑が外への敵意を強めるだけ。
 それは一体誰の得になる? 誰が幸せになる?
 ――これは秘密裏に、慎重に処理せねばならない。
 ただ正義感によってのみ行動しても誰の『善し』にも成らぬのだ。
 誰かに救出を託すのか。或いは大きな意味での平穏の為『奴隷も貴族も』消してしまうのか。
 ……つまりこんな証拠も、囚われた奴隷も、購入した貴族も。
 初めから『居なかった』事にするのが最善に近いかもしれないと。
 それは正しくはないだろう。しかし何度と述べるが多くにとっての『善し』になるのだから。
「――ふむ」
 もし仮に。
 主人=公にこの裏の事情を正直に話していたらどう反応していただろうか。
 助けに行こうと言っただろうか。それとも『善策』の方に同意を示したか。

 ……いずれにせよ話せばそれは彼女に決断を強いる羽目になっていた。

 彼女は知らない。それでいいのだ。
 薄汚れた裏の事情になど関わっていない。
 彼女には――彼には――いや皆には。
 これからも善良でいて欲しいから。
「……全く。僕は仲間にも嘘をつくことばかり得意に成っていくな」
 知っていたか知っていないか、それには天と地ほどの差があるのだ。
 どうか皆は白日の下にいて欲しい。可能な限り清く、清くいてほしい。
 要らぬ影に身を留める事はして欲しくはない。そういうのは全部――

「『はたらくじょうほうや』に任せてほしいよね」

 彼は今日も走る。自身の好む平穏を守る為に。
 情報屋として。最善を求めて、今日も、今日も――

  • はたらくじょうほうやさん完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2019年12月08日
  • ・主人=公(p3p000578
    ・ギルオス・ホリス(p3n000016

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