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かっこよくかわいいあの子が綺麗になった日

登場人物一覧

物部・ねねこ(p3p007217)
ネクロフィリア


 物部・ねねこの親友、茜が見つけた場所は山の中にある大きな廃墟だった。3階建ての建物は元々は病院だったらしい。国の管理していた建物であったが、取り壊すことも再利用することもできずそのまま放っておかれてしまっていたらしい。
 しかし、そんなことは小学2年生の彼女たちには関係がなかった。天使のようにかわいらしく純白のワンピースがよく似合っているのに、その言動と行動は男の子よりも男らしい。お母さんのおなかの中に大事なものを忘れてきちゃったと本人も言うほど活発な女の子、茜と純朴で良くも悪くもどこにでもいそうで活発な彼女のことが大好きなねねこ。2人は互いにないものを埋めあえるような大親友であった。
「どう? すごくない?」
「すごいけど……どこから入るんですか?」
 廃墟といえど当然ながら鍵はかかっている。そうでなくても入り口の自動ドアの前にはガムテープや紙がびっしりと貼られており行く手を阻んでいる。ねねこの当然の疑問に茜は嬉しそうに悪戯っ子な笑みを浮かべるとねねこの手を引いて建物の周りをぐるりと回っていく。しばらく歩くとエアコンの室外機の前に到着する。茜はひょいとワンピースをはためかせながら登り、そこから届く位置の窓を指さす。窓に木が突き刺さって割れている。
「この間の台風の時に当たったんだと思うよ。よいしょ」
 茜は木をつかみ病院の中へ押し込むように動かしていく。ねねこはいけないことだとわかっていたのだけれど、ドキドキとワクワクが勝ってしまい茜を止めることができなかった。でも、止めないとと決心してこれ以上のことはさせないようにと口を開こうとしたが……
「あとは鍵を開けて……よし、ねねこちゃん! 探検しよう」
「え、えっと、その」
 茜の笑顔を見てしまう。いじめっこの男の子におさげを引っ張られて悪戯されて助けてもらった時も茜はこの顔をしていた。遠足でうっかりねねこだけ遅れて迷子になってしまった時に先生より早く見つけてくれた時も……台風で学校が休みになった時、遊びに来た時もこの笑顔を茜はねねこに向けていたし、一緒にお家で遊んでいる時にゆで卵を作ろうとして電子レンジに生卵を入れた時もそうだった。ねねこにとってまさしく天使のようで小悪魔の表情。断らなければいけないのに断れない。
「うん」
 今回もまた断りきることができず、茜の手を取ってしまった。


 廃墟の中は少し埃っぽかったが、雨漏りは一切なく、隙間風もなかったおかげか少し掃除すればすぐにでもまた使えそうなほどきれいな場所だった。あまりにも綺麗すぎて茜は少し拍子抜けしたようで探検にならないなーとつまらなさそうに懐中電灯を片手に先頭を歩いていく。その後ろをたまにする物音にびくっと体を震わせながらねねこが続いていく。
「お弁当、どこで食べる?」
「できれば……外がいいです」
 その意見にふと茜がひらめいた。屋上に行ってごはんにしようと。
 目的をもって行動を始めると先ほどまでつまらなかった探検も楽しいものになってくる。
 屋上へ続く扉を見つけて開けてみる。山の中にある元病院、自然豊かな木々に囲まれるその屋上から見る風景はねねこと茜が思っていたよりも素晴らしいものであった。
「おぉー。すごい。でも柵がぼろぼろ。これさえなければよかったのに」
「先生が最近は昔よりも酸性雨ってのがすごくなってきたってそのせいで、れっか? がすごいんだって」
「さすが、ねねこちゃん。先生の話よく聞いてるね」
 ねねこの説明を嬉しそうにききつつ、茜はシートをねねこの鞄から引っ張り出してごはんやお菓子を食べ始めている。
「いつのまに」
 ねねこもレジャーシートに座り、鞄の中からお昼ご飯を取り出して一緒に食べる。それからは楽しい時間が流れていく。
 明日の授業の話や面白かった本の話。サンタに何を頼むのか話したときにねねこが茜のワンピースがかわいくて同じものが欲しいと言ったらその場で試着してみる? と茜がその場で脱ぎ始めそうになった珍事もあったりした。


 そろそろ帰り支度を始めようとレジャーシートから立ち上がった瞬間、突風が吹く。軽いレジャーシートは高く舞い上がり飛ばされる。2人はそれを追いかけて走り出す。足の速い茜は柵に思いきりぶつかりながらもなんとかレジャーシートを掴む。それを見てねねこは安心しながらも駆け寄ろうとする。
 ガキィッン。
 聞きなれない音が聞こえる。ねねこが驚いて瞬きをすると……先ほどまでいた茜がいない。そして、柵もなくなっている。ねねこの頭の理解が追い付かないうちに何か重いものが地面に落ちる音が聞こえてくる。
 全身から血の気が引いていく。いったい何が起こったのか? そうであってほしくない。ねねこは屋上から飛び出し、たった1人で元来た道を戻って外に出る。これまでの人生で一番速く長く走った。
 ねねこが見たのは真っ赤なワンピースの茜。まだ息があるらしくヒュゥヒュゥと喉の奥から言葉にならない声を上げているように見える。
 お腹から先ほど食べたものがこみあげてくる。親友の前にたどり着く前に何度か掃き出しながら、なんとか駆け寄り座り込むねねこ。どうすればいいかわからず、茜に手を差し出して立たせようとしてしまう。茜はその手を掴むと強く強く握りしめてくれた。しかし、ねねこの力では立ち上がらせることはできない。
 ねねこはただただ手を握ることしかできなかった。だんだんと何の音も聞こえなくなってくる。
「茜ちゃん? 茜ちゃん!」
 肌は青白くなり、握った手が冷たく、冷たく変わっていく。しかし、ねねこの中では何も変わらない……大好きな親友のまま。大好きな存在のまま。大好きなまま失われ変わっていく。
 手を握ったまま、片手でねねこは茜を揺さぶり続ける。夕焼け空になっても、暗くなっても……
 茜が死んでしまった。その事を飲み込むのにたっぷりと時間をかけて、ようやく人を呼びに行こうと冷静になる。
「あかね……ちゃん?」
 しかし、親友の手が離れてくれない。握ったまま……ねねこの手を握ったまま固まってしまっている。
「……ごめん、ごめんね。うん、私、ここにいるよ。ひとりにさせないから」
 死後硬直というものだったのかもしれない。しかし、ねねこには親友がここにいて欲しいと言ってきたように感じた。妄想だったのかもしれない。しかし、そう感じていないとやっていられなかった。誰かと、親友と話したかった……
「真っ赤なのも、真黒なのも似合うよ。綺麗だよ……」
 私の親友はとてもとても綺麗で可愛い。自慢の親友。死んでしまってからは寂しがり屋になってしまったみたいだけれど、今度は私が親友を助けてあげなくちゃいけない。
 痛そうだし、一緒にいるのは怖いけれど、親友となら怖くない。怖いドキドキと茜と一緒に居た時に感じたドキドキが重なって混ざり合う。
 そうだと思い懐中電灯で親友を照らす。思った通り、髪はくしゃくしゃでいろんな所が汚れている。片手では難しいけれど一生懸命、髪をとかし、ハンカチで汚れをふき取っていく。その過程で何度か親友と目が合う。見たこともない瞳の形をしていてすごくかわいかった。
「お話をする茜ちゃんも大好きだったけれど……何も言わない茜ちゃんもただただ綺麗でとっても素敵です」
 何もできない自分を守るためだったのかもしれない。しかし、本気で思う。今の茜ちゃんが一番、綺麗だと。

  • かっこよくかわいいあの子が綺麗になった日完了
  • NM名パンツと鼠蹊部
  • 種別SS
  • 納品日2019年12月08日
  • ・物部・ねねこ(p3p007217

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