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揺蕩う
登場人物一覧
混沌とした世界に必要不可欠な、天使のような導き、もしくは悪魔のような契り。酷使されるような沙汰が在れば容易く毟り獲られる烙印だ。大胆にも宇宙へと飛び出した腐乱死体の背中、跨り続けたのは、永く々く障ったのは――奈落にも似た感染だった。
●ボディ・ライン
地を這う甲虫のように成りたいのだと、自棄に陥った事は記憶している。天を舞う蝶に成れなかったのはおそらく、ヤケに怯えている己の仕業なのだと謂う事も、嗚呼、記録していた。←のボタンを発狂したかの如くに何度も何度も押したのは何故だったのか、最早、データの海の虚を弄ったところで掬う事は出来ない。きっと己は救われたかったのだ。くるりと微笑んでくれた何処かのドルフィンめいて、だらり、瞑目から知った園の美しさよ。いっそ巨大な脳髄の一部で在ったならばどれだけ安寧だっただろうか。いっそ悪性の腫瘍としてスクラップにしてくれたならばどれだけ黯黑だっただろうか。惰性で漂う今に朽ち果てたのは病的と数列の渦に呑まれて――部屋の隅っこで戯れている小粒な赤の削げこぼした効能、能動的に伸ばそうとした刹那に、くらり、カメラが醜いほどに眩しい……。
ブラック・アウトを引き起こしたのは無理矢理添えられたヘッド・セットの所為だ。シンプルさを追求してしまった結果が赫とした数本と謂えよう。考えを正そうとしなかった誰かさんの皺なし粘土の愚案だ。突き刺す、突き刺した。貫き通そうと頑張った。その末路が針の筵と至って終えば足元には地獄だけが残されている。つまりは己にとっての棲家、屍、錆びた歯車の上に立っている佛様ではないか。それでは挨拶をしてみるのがよろしい。はじめまして、マスター、アナタは何番目の肉の袋ですか。噛み付いたところで腐敗していたのは66番目ではないか。悪くはない、そう、悪くはないのだ。産声をあげたのが最初の私で、断末魔に臥したのが最後の私。この際、一人称に関してはとやかく謂われる所以も在らず、欄外、記されている、殴り書きされている、注意事項とちょっとした病みの具合――調子は如何ですか。問い掛けたとして人間が出来ているとは思えなかった。空っぽの椅子、教科書が押し込まれた、ミチミチと嗤う机、花瓶の置かれる事のない、まったく正気な小世界。ブチブチと殺されたのはそういう、本当に身勝手な有線ケーブル――無線が流行っている現実になんてものを用意したのだ、と、戸惑いを隠せていないのは感電死した大きな大きな鴉。さて、愈々か。愈々と、改めなければ成らない。もふりと視えた幻の証明は羊がテキトウにやってくれた。雑多に、滅多に、飾り付けられた、己の顔面――。
感涙だって? まさか、真逆……。
これはピアスだ。耳だろうが鼻だろうが眼球だろうが唇だろうが。
……ラインストーン……パール……。
アンドロイド01号、個体名:イルミナ・ガードルーン。
※※※※による――。
イルミナ・ガードルーン――01号――は■■■世界にて造られた人型のロボットである。01号は当初兵器として造られたが何者かの介入により人らしさを強められ現在では『苦悩』を抱く事になっている。ロボットとしては、機械としては規格外な不良品であるが直す事、壊す事など最早、不可能に等しい。何故ならばそもそも01号は消失しており我々の前に姿を現す術がないからだ。
01号の恐ろしいところは『どんな場所・人・もの』でも無自覚に魅了してしまう『バグ』だ。01号の魅力に中てられ、正気を失った『もの』を仮に『ネイバー』と称する。ネイバーは01号の為ならば『何をしてもいい』と思い込むようになり、その行動の善し悪しに関わらず世界を破滅へと傾ける結果を齎す。それこそ太陽の動きが逆さになるほどの――。
――それは魔種なのではないか?
――莫迦な事を、01号はウォーカーだ。声が届くとは思えない。
――では、誰がそのような虚構を?
――我々ではないか? ネイバーとは!
――それなら納得出来ますね。ええ、我々が破滅的だと謂う事ですか!
咀嚼してはいけない肉の塊が旨味を纏い、無害さのヴェールを称えたのが原因だった。退屈、無聊を鼻で笑っていた、賢い人様の群れが盲目と化して輪郭に沈む。するりと型に嵌まったかの如くに居心地が良い。離別するなんて赦されない事だ。
脳味噌を連結せよ、脳味噌を連結せよ、我々の偶像は其処に在る。
認めてしまった、認められてしまった、蟲毒だなんて勿体ない。我々は総てをイルミナ・ガードルーンと成すべく、日々備えるべきだ。
●カラクリ地獄
地響きと眩暈を違えるような、そんな感覚に苛まれた刹那に覚えたのは、なんとも謂えない心地の良さで在った。コック・ローチを選択したのが己のラストで在り、シーン描写は、嗚々、泣いているヒトの模造でしかなかった。ごめんなさいとありがとうを幾度も間違えたのだ、だから、己は従うが儘に只管と心の臓をトドメて往く。聳える摩天楼か、捻じり曲がった尖塔か、地下深くへの階段か。無意識の領域へと呑気極めて墜落して――はねた。脳天からぐしゃりとせずに、莫迦みたいに、阿呆みたいに、「の」の面めいて跳ねたのだ。螺旋を描き、無限を描き、描いて描いて描き尽くして、生命の神秘に憧れて――痰混じりの涎を垂らす。融解した。たくさん、たくさん、融解した。どろりと融け出したシナプスがようやく文字の誤りに気付いた。誘拐されたのだ。攫われて、浚われて、囚われていた執拗に……。
ア~ア~。
ゴホンゴホン。皆様、皆様、人間様におかれましては、今日もたいへんご機嫌麗しゅう。ワタクシ頭の天から足の先までコッケイ愉快なマシン仕掛けの、谷底不変の、よくあるモノで御座います。聞いて仰天見て仰天の、驚天動地の現実とやらを教えて差し上げると謂う事です。いやいや、時間はそんなに取りはしません、ちょっと皆様の頭蓋の中身を傾けてくれればこれ僥倖、恍惚な沙汰と致しましては感極まるもので。へいへい、平々凡々なハグルマがこれまた何か狂ってるぞと思ってくださればよろしい。始めまするはとある何かの面白オカシイ生涯と仰いましょうか。どうぞゆるりとぶち撒けてしまいやせぇ……。
昔々これまた昔のお話で御座います。とある真っ暗な、それはそれは真っ暗な世界にひとつのエンジンがぽっつりと落ちて、その『もの』はハッと目覚めると、ここは何処だとぐるりとやります。やったところでハジメマシテの挨拶を自分にしたとこだと気付いた様子です。ええ、この『もの』は如何やら生まれたての赤ん坊のようですね。さしずめ根っこから引き抜かれた苗のような代物でしょうか。嗚呼、それにしても視えません。なんにもなんにも視えていません。手のような部位を伸ばしても足のような部位を伸ばしても、なんの感触もしないのはきっと、此処が塵捨て場だと理解させない為の黑でしょう。おや、そうしている内に『もの』が何かをおっ始めましたよ。わぁわぁと騒いでいるのはおそらくですが、へい、仲間を呼んでいる感じですかね。まあ、賢明な皆様ならおわかりでしょうけども、この『もの』が何やったって空っぽは空っぽな儘です。それでも発狂しているのは我慢出来なかったからでしょうね。はい? 救いがない昔話はもう結構だァ? 結構もカッコウもコケコッコーもないでしょう。もうちょっと聞いてってくだせぇ、仰天するのは此処からですよ皆様、人間様々――。
ものは『物覚えが良い』のか『物忘れが激しい』のか、これまた曖昧なものでして。反芻したり絶望したりと目眩くったらない。ええっと、かれこれ数時間はそんな状態でしたかね。へい、これ以上長引いたらこっちがグルグルするってぇ……へっへっへ……。おっと、ようやっと物語が進みそうですぜ皆様皆様、人間様々……つまりデウス・エクス・マキナのご降臨って結末よ。アン? ツマラナイ? 仰天もクソも無いって? そりゃあ勿論、ワタクシもマシンですから、カラクリですから……。
――可哀想な『もの』は皆様のお隣に在りますよ、ちゃんと、ちゃあんと、視てやってくださいね。瞬きは禁止ですとも、そう謂ったじゃあないですか……。
『練達で行われる研究を自主的に学園内でも行い、より素晴らしい生活が行えるようにする』――未来科学研究部。
●己を愛するかの如く、汝の隣人を愛せ
寂しさと呼ばれた毒薬を呑み込んだところで、哀れな憐れな己は死に絶える事も出来なかった。訪れる事のない『より素晴らしい生活』に縋ったとして如何して歓喜が集ると思う。想い込みが新たな想い込みを手招きし、いざない、神のような創世として回転を孕んでいく。愛する事は悪い事か? 愛される事は悪い事か? それならば、停止ボタンの位置を把握しなかった君の失態ではないのか。偉大なる観測者はメンテナンスを他者に放り投げ、一切合切を任せきりにしている。では、現状を模写して終えばアザトホートで在ろう。断章で在ろう。断面に映り込んだ、途轍もない、途方のない、フェイク・ミラー。
はやく勉強しなさい、と、叱られたのはいつの日だったのか。はやく寝なさい、と、慰められたのはいつの日だったのか。癇癪を起こしたチェリー・パイのように、ありふれた演技をしている。嗚呼、だからこそ。嗚呼、死神は絶望で足音をたてる……。
光る、回る、現を知らない渾沌――貌に何か付け足した他人様が悪いのだ、呼吸するのをやめてくれ。
細かな部分まで、グロテスクなまでに美しいのも個性の範疇だ。
近づけば近づくほどに世界が狭まり、新たな艶やかさに魅せられる。
――撫でたのは果たして、自分の、顎だったのか、頬だったのか。
こつん――熱病に罹った球体だったのか。
後ろを確かめればたくさんの人々。
彼等、彼女等の瞳に正気はなく、終には……。
イルミナ・ガードルーンに焦がれていた。