ＳＳ詳細
New day, New year!
登場人物一覧
- ロード(p3x000788)
ホシガリ
●
くぁ、とあくびをしたのはログインの証。
うんと伸びをして身体との馴染み具合をチェックする。上々。
ランドウェラ――改め、ロードは、まだ明けやらぬ快晴の空に目を細めながら、一歩。その足取りを前へと進めた。
Rapid Origin Online――略称R.O.O。
それはもう一つの現実。それはもうひとつの混沌。それはもうひとつの世界。
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界を指す言葉。で、あり、世界。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境。原因不明のエラーこそあったものの、それも今となっては過去の話。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ているけれど、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されている。すでにロードもいくつか奇妙な現象を観測していたりしていなかったり。
R.O.O内の問題を調査し、囚われた人質を救出し、ゲームをクリアする為、ログイン装置を用いて介入し、この世界で活動するための『アバター』を作成し。そうして解決した今もなお、この世界は呼吸し、命が生まれ、『今日』を生きている。
「RapidとRabbitt、二つの『O』とかけて、ウサギの穴……だっけ」
アリスが飛び込んだウサギの穴は不思議の世界へとつながっていたのだとかなんとか。
だとしたら
いいや、不思議という言葉で語るにはあまりにも不思議が多すぎる。今日だって、ロードの頭を悩ませるのはその不思議の一つたる『レアエネミー』なのだから！
レアエネミーの情報は様々だ。NPCの噂話からひょっこり情報が手に入る場合もあれば、突如としてその姿を表してしまう場合だってある。かと思えば天候時間日照具合風の様子すべてが噛み合わないと出てこない本当のレアを追求したかのような存在だって。様々なユーザーが居る中で、そんなレアエネミーに出会うことができたのならきっと、何か良いことがあるに違いない。
興味だって尽きるはずもなく。別に倒して殺してしまいたいわけなのではない。ただでさえ『レア』と名のつくものなのに、それらが生きている今を奪うなんてことがしたいわけではない。ただその姿を見てみたいだけなのだ。あわよくば友人になれたら、とか。二回目があればなんて下心はあえて隠さないけれど。
「にしても新年早々ログインって……ちょっとだけ罰当たりかな」
今更そんなことを気にするランドウェラではないけれど。しかし。気にしてみたほうがそれらしい。
新年だというのにもかかわらずひとの賑わいは絶えず、ここが電子世界であろうとも誰かが『生きている』ことを改めて感じてしまう。
「さてと、レアエネミーを探しますか……」
うん、と伸びをする。今日も宛はないけれど会えるような気がする。そんな漠然とした予感とともに。
適当に歩いて行く。と、ちょうど巫女服の優しげな女性がひらりと手を振っている。ポップアップが見えることからきっと彼女はNPCなのだろう。
「あら僕、レアエネミーを探してるの？」
「ぼ、ぼくって……まぁいいか。そう、探してるんだ。何かいい情報を持ってない？」
「そうねぇ、確かこの時期だと朝日の登る頃がいいって聴くけれど」
「本当？ ありがとう、助かるよ」
「小さい体で頑張ってるものね、気にしないで」
「……ありがと！」
ぷかぷかと浮いてこそ居るのだが、やはり見た目ばかりはどうしようもないらしい。ため息交じりに進んでいった。
「さて、海だし、朝だけど……日の出とかが関連してるのかな？」
そういえば今日はログイン時間が早かったのだろうか、まだ太陽は昇りきっていない。これならば見ることもできるだろう、レアエネミー！
「…………」
しかし。待てど暮せど寝どもエンカウントした気配がない。つら。
「あのおねーさん、もしかしなくても嘘つき……？」
一層落胆。やはりNPCであろうとも簡単に人を信じない方がいいのだろう。……否。彼女は正しいことを言っている。
なぜならば、彼女こそがレアエネミーなのである。エネミーというよりもNPCではあるが。
経験値・ドロップ共に上昇の加護をくれるNPC。……ロードは、気付くことはなかったのだけれど。
そんなこんなで今日もエンカウントは失敗（？）。ロードの挑戦はまだまだ続くのであった。完！
