PandoraPartyProject

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零と武器商人とリコリスとリーディアの話~うちの師匠は世界一~

登場人物一覧

零・K・メルヴィル(p3p000277)
つばさ
武器商人(p3p001107)
闇之雲
リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298)
氷の狼
リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236)
花でいっぱいの

「よゐこは部屋を明るくしてテレビから離れてみてくれよな!」
「( ‘ᾥ’ )との約束だよ!」
「おいおいおい、いったいなんの騒ぎだ?」
 零とリコリスがばっちしポーズを決めてウインクした直後、リーディアから斜め45度チョップを入れられた。

 ぽんぽん。青空に響く花火の音。
 観客席にはぎっしりと客が詰めかけ立ち見が出るほど。その間を縫うようにして、ビールやポップコーンが売りさばかれていく。
 ここは練達エリア777、大六多目的ドーム型施設。いわゆるスタジアム。今日は陸上の設備を生やしている。
「なんだって練達くんだりまで呼び出されなきゃならないんだ。しかもこれはどういうことだ、説明しろ」
「あれ、言ってなかったのか、リコリス」
「言ったよ! 今日の9時までにここへ来てって!」
「それ説明になってねえから!」
 零にどなられてもリコリスはきょとんとしている。
「しかも9時って開始時間じゃん、うちの師匠はもうウォーミングアップという名のお茶会を終えてるぞ!」
 言い募る零。なお、この光景はばっちりドーム各所へ設置された巨大スクリーンへ映し出されている。
「あ、じゃあ10時から! 10時からにしようよ! 開始時刻10時ね! うちのお師匠にもウォーミングアップはきっと必要だもの、ね、お師匠!?」
「だからなんの話だ。まずそこからだ」
 リーディアが冷静に論点をもとへ戻す。
「それは……」
 零が口を開こうとした時、高らかにファンファーレが鳴り響いた。

「6人中3人の反転を目撃した高次存在、難易度ベリハはこいつに任せろ! ぶきしょうにーーーーーーーーーん!!!」

 盛大に紙吹雪が舞い、スモークがたかれる。ゆっくりと競技場へ姿を見せたのは、なんということでしょう、混沌で一二を争うトッププレーヤー、武器商人ではないですか。まんざらでもなさそうに会場を見渡した武器商人は、唇の端を持ち上げた。
「チケットの売れ行きは好調だね、けっこうけっこう」
「なんの話だ? ますますわからん。それと……今のナレーションは、いったい?」
「さあ今度は氷狼の旦那の番だよ。アタシだって恥かいてんだから、旦那もやるべき」
「ちょ、ちょっとまて、ちょっと待たないか。だから、説明しろー!」
 蒼穹へリーディアの叫び声が響いた。

 時は遡りまして、一週間前、寒くなってきたけれど、まだ日差しはのどかなある日のこと。零とリコリスはとあるカフェのオープン席で語り合っていた。
「ていうかいつ結婚したの。超おめでたいからこれを機に祝わせろ」
「リコリス、口調変わってる。誰か取り憑いてんの?」
 どんとホールケーキが零の前へ置かれた。零とその愛しい人を模したマジパンがキスをしている。
「どっから出したこれ」
「はっぴばーすでーとぅーゆーはっぴばーすでーとぅーゆー」
「いや絶対違うだろその歌は」
「いいんだって、結婚を機に生まれ変わったってことで。はっぴばーすでーとぅーゆーこれからも長く幸せに永遠かつ子孫の代まで末永く爆発しろ花嫁修業頑張ってる嫁さんかわいいオメデトーゥWasshoi!(早口)」
「なにそれラップ!?」
「君はこれをヒップホップだと思ってもいいし思わなくてもいい。いいね?」
「十字架に張りつけて周りで盆踊りするぞてめぇ」
「まあそれはともかく。めでたいことには変わりはないから御祝儀代わりに今日は奢らせてよ」
「おっ、殊勝なこと言ってんなよリコリス。いいっていいって、俺ちゃんとだすって」
「最近屋台を4.00にバージョンアップさせた負債、まだ残ってるって聞いたけど?」
「あ、あれは経費で落ちるから」
 説明しよう。経費で落ちるとは費用がゼロ円になるということではない。会社の懐から出ていった、材料費、外注加工費、修繕費、固定資産その他諸々、名前をつければそれらしいうえにここへ信用がどうとか資産がどうとかが絡んでくるのだが、究極的には経費で落とすとは、こんなに商売するうえで金がかかったんだから税金安くしてくだせえという税務署へのアッピルでしかない。出したものを回収するにはやっぱり稼ぐしかないのだ。シャッチョさんである零はそのへんをいまいち理解していない。今まで以上に稼がないといけないのだが、大丈夫なのだろうか。もっとも羽衣マートが右肩上がりの売上である以上、心配はなさそうではあるが(それゆえにシャッチョさんが勉強不足でもなんとかなっている)。
 とにかく経費で落ちるという魔法の言葉を知った零的に、そこを突かれるとは思っていなかったらしい。なぜリコリスのほうが経済にくわしいのかは謎である。
「この茶しばきもレシートもらえば経費で落ちるし、行き帰りの駄賃も経費で落ちるし」
「接待交際費と旅費交通費でなんとかなると思ったら大間違いだからね!?」
「いや実際そうだろ。師匠がそう言ってたんだから間違いない」
「零君の師匠ってたしか」
「うん、武器商人」
「ふ、ふーん、武器商人さんねえ~。でも弟子がこんなんじゃ、ちょーっと甘やかしすぎなんじゃないかなー」
「お? 俺のことを悪く言うのはともかく、師匠のことを言うのは許さないぞ? リコリスの師匠ってたしか……」
「お師匠はリーディアさんだよ!」
「ほー、で、そのお師匠はどんなことができるわけ? 俺の師匠は俺の体へ魔力回路を埋め込んでくれた上に長命までくれたけど?」
「お、お師匠はね! 超つよいんだよ! 超超超超絶銀河大旋風強いんだよ!」
「すごい読みづらい」
「むきー! とにかくすごいの! 解像度低くてごめんって中の人が謝ってるけど、そんなの超越しちゃうくらいお師匠はすごいの!」
「たとえば?」
「車のフロントガラスを拳で叩き割って銃撃戦したり!」
「はぁん? 俺の師匠は梅泉から八分割されたのにケロッとしてるけど~?」
「うわー腹立つ! うちの師匠は強いだけじゃなくてかっこいいんだよ! クールで強くて憧れで理想の氷の狼なんだよ、子供好きってのもポイント高いよね。僕にもとーっても優しいし、この間は『火吹き男』グラニットを倒しちゃったんだけど、敵対した理由が子供を焼いたからなんだよ! 一本筋の通った大人の男って感じだよね!? その点武器商人さんはなんか底知れないっていうか掴み所がないっていうか何考えてるかわかんないっていうかあ~」
「お? お? 師匠がただものじゃないのは認めるけどもさー、強さなら師匠も負けてないからな? ドレイクに背後から銃弾5発ぶち込まれたのに普通に生きて俺の師匠してるんだぞ、すげぇだろ~?」
「はぁーん? それでもうちのお師匠のほうが優しいしよく面倒も見てくれるし最の高だし?」
「いや絶対俺の師匠のほうがすごいしー?」
「僕の師匠の方が凄いんだが!!??」
「いや俺の師匠の方が凄いぞ?????」
「は~???」
「ハァ~??」
「すみませんがリアルファイトは他のお客様の御迷惑になりますのでご遠慮ください」
 ぺいっと店外へ追い出されたふたりはそのまま夕日の差す河川敷でしつこくお互いの師匠のすごさを自慢しあった。そのさまは龍と虎のようであったという。
「「そこまで言うなら勝負だ!」」
 かくして、本人たちの預かり知らぬところで師匠VS師匠の戦いの火蓋は切って落とされたのだった。

「なるほど、経緯はわかった。そこに正座しなさい。さすがに説教だ」
 リーディアはリコリスと零の頭をよしよしと撫でた。が、目が座っている。
「まァお待ちよ氷狼の旦那。試合開始時刻はとうに過ぎている。客席はお怒りだ。それに、白黒つけた後に説教しても問題なかろ?」
 横から割り込んだ影にリーディアは顔を向けた。
「武器商人君がこのスタジアムを借り切ってイベントに仕立て上げたのか?」
「どうせなら派手な方がいいじゃないかァ」
「……っ! そんな理由でか! 身内の恥を晒すような真似を!」
「儲けは半々ってことで」
「そういうことなら協力しよう」
「お師匠手のひら返しはやーい」
「おまえのところの師匠、金で転ぶんだな」
「いやな言い方をするな。ないよりあったほうがいい。零君も大人になればわかる」
「えっ、いや俺大人! おとなだから!」
「ほらほら氷狼の旦那、コールのお時間だよ」

「赤ずきんのためならえんやこら、弟子はかわいいbotです、実力未知数! リーーーーディアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」

 スモークが舞い上がり、大量の紙テープがリーディアへ降りかかる。
「リコリスさんや……さすがにだな……」
「ダメ? お師匠、ボクのために戦ってくれないの?」
 リコリスは瞳をうるうるさせ、両手を祈りのポーズに組んでリーディアを見上げた。
「はい、もうかわいいー! ああいいだろう、やってやるさ! 相手が誰だろうとどんと来いだ!」
「やったー! お師匠大好きー! ちなみに第一戦は障害物競走だよ!」
「はっはっは、リコリスさんのためならたとえ火の中水の中……え、しぬ?」
 スタジアムに飾りつけられたあれやこれやを見て一気に冷静になるリーディア。
「基準が師匠なんで!」
「不死が相手だぞ零君!? なんだこのデッドマンワンダラーワールドは!」
「基準が師匠なんで!!」
「ええいそれで押し切ろうとするな! このコースは危険すぎる、もっと一般的な障害物競走でないと参加しないからな!」
「一般的な障害物競走なら出る( ‘ᾥ’ )。OK、言質取った、言質とった」
 フードの奥でにやりと笑うリコリスに、リーディアはもはや何も言えなかった。

 で、さて。無事コースも生え変わり、武器商人とリーディアはスタート地点まで歩いていった。
「さあ、各馬ゲート・インしました!」
「人を馬呼ばわりはやめてくれないか」
「クラウチングスタートのお師匠に対し、普通にスタンディングしてるだけの武器商人さん、さあ出始めから対象的な二人、この勝負どうなる? それでは、スタートっ!」
 リコリスが元気よく宣言し、零が合図用の銃を天へ掲げ引き金を引く。
(バカバカしい勝負だが、なんだかんだ言ってかわいい弟子の頼みだ。ここはひとついいところを見せねば……)
 リーディアはそう考えながら地を蹴った。走る、とはすべてのスポーツの基本だ。体術の基本でもある。体幹を作りあげるほど、全身の筋肉を必要とする。全身全霊を込めてリーディアは疾駆する。自分の足音を置き去りにして風になっていく。
「最初の関門はハードルだな、よし、ここでいったんスピードを落とし歩幅をそろえて……」
「あーっと! 武器商人さん飛び越えていくーこれはありなのかー!?」
 リコリスの叫びにつられて見れば、三対六枚の緑の翼が武器商人から生えている。それでついーっと宙を、具体的に言うとペナルティのない3m程度の低空を、滑っていくのだ。でも3mって平屋の屋根くらいだからけっこう高いんだこれがまた。
「審判! あれはさすがに反則だよね!?」
「師匠はあれがデフォだから有効っ!」
「零君、身内だからってジャッジあまーい!」
「イケメン無罪、イケメン無罪だ!」
「むきー! お師匠だってかっこいいもん!」
 そのまま殴り合いを初めそうになる審判と実況のふたり。
 やめろと釘をさしておいて、一瞬脱力仕掛けたリーディアは気合で根性を立て直す。幸い武器商人の飛行速度はそんなに速くない。リーディアはハードルを華麗に飛び越え、網の下を律儀に潜り、幼児用三輪車をキコキコ運転して、最終コーナーへたどり着いた。
「なっ、これは! 飴玉探し!」
 大量の小麦粉の入ったクッキングバットの中から、手を使わず飴玉を探し出すというあれである。必然的に顔をバットへつっこまねばならないため、顔面が粉まみれになる。メンタルクラッシュも辞さない愛と勇気が問われる障害だ。リーディアは震える手で覆面を外し、えいやと顔をつっこむ。もうもうたる雪景色の中で必死に飴玉を探しまくる。
(どこだ、どこだどこだどこだ……!)
 飴玉は見当たらない。端の方か? いや、見落としているだけか? 時間だけが刻々と過ぎていく中、とうとうリーディアは目的のブツを発見した。
「よっし!」
 飴玉の味もわからぬまま口に入れて噛み砕き、顔をあげるとそこには……。
「久しぶりだねェ真砂」
「あのね、こんなつまらんことで呼び出さないでくださいよ。というかまた仕事増やして、イベントやるのもいいですけどもうすこし常識的な範囲でですね……」
「ギフト変えちゃったからねェ。真砂に来てもらうのもほんとに久しぶりだ」
 見知らぬ狐の化性から飴玉をあーんしてもらっている武器商人の姿だった。
「や っ て ら れ る か」
 リーディアは一瞬そう考えたものの、武器商人がむぐむぐと飴玉を味わっているのを尻目にゴールテープを切る。
「はー、はー、これで私の勝利だな」
「いや、このあとはトライアスロンと大食い大会と師匠どうしのガチマッチが控えてます」
「零君? すこし武器商人君に似てきたんじゃないか?」
「おしゃべりをしていられるのもいまのうちかもよ?」
 余裕綽々でゴールへたどりついた武器商人が空を指差す。なんということでしょう(2回目)。空がにわかにかき曇り、無数のサメがスタジアムへ降り注いできたではありませんか。
「タイフーントルネードシャークだー!」
「逃げろー!」
 すさまじい勢いで空を切り観客を襲うタ(略)ク。
 そのとき、乾いた音が響いた。
 愛弟子を背後に守り、リーディアが発砲したのだ。すんでのところで命を救われた観客が我先にと逃げていく。
「氷狼の旦那、わかっているとは思うけれど」
「ああ」
 師匠二人が背中合わせに立つ。
「一時休戦と行こう」
 武器商人のその一声でタ( ‘ᾥ’ )クは次々と屠られていった。

「やはり争うよりも力を合わせたほうが平和的だな」
「ヒヒ、そうだね」
 閑散としたスタジアムでふたりのイレギュラーズは歩み寄った。燃えるような夕日が美しい。長く濃い影がふたりの足元から伸びていた。リーディアは不敵に笑う。
「何かと振り回されたが、武器商人君は私に勝ちをゆずったのだろう?」
「おやバレていたかい」
 銀糸の隙間から覗いた武器商人の目元がゆるく弧を描く。
「のるかそるかというところに人は熱狂するのさ。その点今日の試合は見事だったよ氷狼の旦那」
「やれやれ、やはり武器商人君はイベンターだな。私など足元にも及ばないよ」
「そんなことはないさ。氷狼の旦那がいなければ今日は盛り上がらなかった。そこは保証する」
 と、師匠二人が健闘を称え合っている横で。
「お師匠のほうがたくさんサメ倒したもーん!」
「うるせぇ! 途中からのカウントなんか認めるかよ!」
 リコリスと零はどつきあっていた。
「いまさらいい話風にまとめるのは無理があったねェ」
「ああ、そうだな」
「「口で言ってわからない子へ、おしおきの時間だ」」

  • 零と武器商人とリコリスとリーディアの話~うちの師匠は世界一~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2022年12月03日
  • ・零・K・メルヴィル(p3p000277
    ・武器商人(p3p001107
    ・リーディア・ノイ・ヴォルク(p3p008298
    ・リコリス・ウォルハント・ローア(p3p009236

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