PandoraPartyProject

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海の果てに過去を思い、未来に海路を描く

登場人物一覧

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ラダ・ジグリの関係者
→ イラスト


 空の上で陽光が白く輝いている。
 冬化粧とは縁もゆかりもなく、照りつける陽の光には衰えがない。
 シレンツィオリゾート、常夏の楽園は悪神ダガンの猛威を退け、温かく穏やかな、それでいて絢爛なるリゾート地として戻ってきた。
 日常へと戻りつつあるシレンツィオリゾートの南東部。
 一般に二番街(サンクチュアリ)ともいう港湾地域にラダ・ジグリ(p3p000271)は訪れていた。
 商館通りを進んでいけば、サマラ商会と記された看板が見える。
「おっ、来たねラダの嬢ちゃん」
 何やら話していた女性の片方がラダの方に気付いて手を招いてくる。
「カリーナ。そっちの人は?」
「うん? あぁ……嬢ちゃんが言ってただろう。
 うちの商会と実家に話があるってね。
 こいつは私の実家の商会で代表をやってるのさ。
 私とは姪っ子にあたるね」
 そう言われてみれば確かに雰囲気が似てるように見える。
「よろしくお願いします」
 そう言って手を差し伸べてきた女性は30代ごろだろうか。
「じゃあ、ちょっと待っててくれるかい?
 私らは先に話すことがあるからね」
 カリーナが言えば、こくりと女性が頷いた。
「嬢ちゃん、奥へ行くとしようか」
「ああ、分かった」
 悠々と歩み始めた女傑に続くように、ラダは続く。
 すれ違いざま、カリーナ実家の女性と会釈をし合ってから歩き出す。


 カリーナに連れられて辿り着いたのは場所は応接室の1つのようだった。
 既にテーブルにはワインの注がれたグラスが置かれている。
 向き合うようにして配置された椅子の上座の方へ案内され、着座をすれば。
「それじゃあ、まずは乾杯だね」
「あぁ、お互いに」
 グラスが持ち上げられ、軽く音を立てる。
 ゆらりと赤色がグラスの中を揺れていた。
「……で、結局なんの用で来たんだい?」
 ワインへと舌鼓を打ち、カリーナが切り出してくる。
「あぁ……例の魔銃のことだ。
 考えてみたんだが、作らない事にしようと思う」
「そうかい。嬢ちゃんがそうしたいならそれで構わないが……
 一応、理由ぐらいは聞いておこうか」
「あぁ……あの石板には、魔銃を天に返すと書いてあったんだろう。
 私は当時の人が……故人の選択を尊重したい。
 彼らがそう決断した物を、その末裔がひっくり返すのはよして置こう」
 そっとテーブルに置かれたワイングラスを見つめてラダが言うと、それをカリーナが笑ったように思えた。
「そうかい。それもいいだろうね。浪漫を胸にここまで来たんだ。
 なら、その決断も浪漫が合っていいんじゃないかい?」
「魔銃の設計図についてはあんたの決断に任せるよ。
 その代わり、ラミエルが遺した物と、私とカリーナの物を例の遺跡に納めたい」
「なるほど。良い心がけじゃないかい?
 それなら、あの設計図は焼いて一緒に納めることにしようか。
 設計図のままで納めたら遠い未来に掘り出されて嬢ちゃんの決断を無に帰しちまうかもしれない」
「……ありがとう」
「とはいえ、奉納に関してはまた今度にしようか。今日は酒も飲んじまったしね」
 そう笑って、カリーナはいつの間にか飲み干していたグラスにワインを注いでいく。 


「――ところで、嬢ちゃん。
 もう一つ話があるって言ってなかったかい?」
 今回の冒険を肴代わりに雑談を進めていると、もう1杯とグラスにワインを注ぎながらカリーナからそんな切り出しがあった。
 ちらりと時計を見るカリーナの視線に続けて時計を見れば、ざっと1時間ほど経ちつつあるようだ。
「……そうだった。
 じつはあんたに……サマラの商会に話があるんだ」
「だろうね。その話に、うちの実家も関わってくるって?」
「あぁ――今後の話がしたい」
「ふぅん? 今後のねえ……」
 そう言いながら、カリーナが手元にあったベルを鳴らす。
「失礼します」
 暫くすると先程いたカリーナの姪だという女性が姿を見せる。
 彼女はそのまま歩いてくると、カリーナとラダの間に椅子を持ってきて座り。
「我々も話し合いに参加するとのことですが、一体どのような?」
「まずはうちの商会の話をさせてほしい」
「アイトワラスだっけ? 覇竜と交易してるってのは聞く話だけど」
 やや前のめりになりながらも、カリーナの目は猛禽類のような鋭さを帯びつつある。
 これがカリーナ・サマラと言う女の、商人としての顔かと、思わず少しばかり背筋が伸びた。
「今うちは覇竜・ラサから海洋を通じて豊穣へと続く海上交易路を獲得したいと思ってる」
 ラダが言えば、いつの間にか姪御の方も真剣な表情を浮かべている。
「もっと言うなら、将来的には不凍港ベデクトを通じて鉄帝へも交易路を伸ばす予定だ。
 いずれも成功すれば船を使った貿易がメインになってくる……」
「そうなれば船と航海技術が必要になるね」
「……サマラ商会やうちと提携したいってことですか」
 2人が落ち着き払った様子を見せて言ったことにラダが頷くと。
「まぁ、鉄帝ってのはさておくとしよう。
 まだ奪還も出来てるわけでもないんだろう?
 流石にそれに食いつくわけにはいかない。
 でも、船の方なら話は別だね」
「えぇ、こちらにも利があるのであれば、海運についてはお話しできるかと」
 2人の商会長たちはどこかラダを試しているようにも見えた。
(こちらが提携した上で出せる条件か……)
「こっちが用意できるとしたら、例えば覇竜でしか採れない物を取引するのはどうだろうか。
 うちもだが、覇竜の交易はラサが主体だ。
 そういった物品に関しての取引が出来るようになるのは利点のはず」
「なるほど、うちの商会にとってはたしかに利点かもしれませんね」
 そう言って頷いたのはカリーナの姪だという女性の方。
「それだとうちにはあんまり旨味がないねえ……」
 そうカリーナが言うのを、ラダは分かっていた。
 運搬能力に秀でた砂上船を持ち、既に実績あるラサの商会――サマラ商会なら覇竜との取引はできるはずだ。
(アイトワラスが出来る――いや『私だから』出来るサマラの利……)
「――もう一つ、ある」
「おや、なんだい?」
「私はローレットのイレギュラーズでもある。
 ――イレギュラーズは各国に顔が効く。
 そこと通じておくのは、そちらにとっても利があるはずだ」
「そうか。それはその通りだ。そりゃあラダ商会長じゃないといけないね」
 にやりと笑い、カリーナが手を伸ばしてくる。
 手を交わせば、商談は成立する
「うちは全面的に提携しても構わないよ。
 砂上船の運搬力はあんた達の商会にとっても良い取引先になるだろうさ」
「えぇ、海運、水運については我々が。
 前向きにかつ全面的に協力させていただきましょう」
 そういうと、カリーナの姪も頷き、握手を交わしてくれる。
 ホッと安堵の息を漏らしそうになったところで、まだカリーナが商人の眼をしていた。
「それじゃあ、もっと詳しく話を進めて行こうか。
 ここからは酒でも交わしながらね」
 ふっと笑えば、再びベルを鳴らす。
 外から従業員らしき人物が顔を出し、カリーナは酒と肴の用意を命じ始めた。
 どうやら今度こそ多少緊張の糸を切っても良さそうだ――

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