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とぶとりをこねこでおとすには ~ガル爺との出会い~
登場人物一覧
- Uweの関係者
→ イラスト
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Uweが速く飛ぶ練習をはじめて、すでに2日ほど経っていた。
きっかけは、いつも遊びに行っている森の中の館。捨て子をついつい拾ってきてしまう
「アンタっていつもヒラヒラふわふわ飛んでるけどさ、本当はどれぐらい速く飛べるんだ?」
爪楊枝で歯を綺麗にしながら問うた実父の発言に、「またお父さん変な事考えてる」と言わんばかりに
「ミネア達を食わせるために、学会でUweについて発表をしたいんだよ。何せ俺は魔法生物の研究家だからな」
それでどうなんだと彼が答えを促すと、周りで遊んでいた子供達の視線も自然とUweへ集まる。注目を集めた当人はというと、いまいちピンと来ないと言わんばかりにつぶらな瞳をぱちぱちさせた。
( ᐛ )<試したこと無いなぁ
「それなら今から、ひとっ飛びしてみせてよ!」
「Uweの格好いいところ、見てみたい!」
「ちょっと皆、Uweを困らせちゃダメよ」
勝手に盛り上がりはじめた子供達をミネアが諭しつつ、どうしようと視線をこちらへ送ってくる。椅子の背を止まり木の代わりにして休んでいたUweは、真面目なんだか不真面目何だか「んー」と口を3の字にして考え込む素振りを見せて、ふわっと天井へ飛び上がる。ひらひらリビングを飛び回った後、やがて閃いたのか後光がさすほどゆるーい笑顔ではっきり言いきる。
「やってみようか!」
「「おぉっ!」」
「でもちょっと練習したいから、3日ぐらい欲しいな」
――約束の日まで、あと1日。
現実とR.O.O.では、『翼で飛ぶ』という手段自体は同じでも、細かな違いがUweの感覚を鈍らせる。ミミズクの翼は力強く、音もなく風を切って空を駆る。Uweの翼は柔らかな翼で風を魅了し、従えた風へ乗って飛ぶ。
(風の力を借りて飛んだ方が速く遠くまで飛べるのは、ちょっとだけ紙飛行機に似てるよね)
くるくると旋回して舞い上がれば緑の風がじゃれつくように纏わりついてくる。
(よし、これなら!!)
翼をいっぱいに広げて高い場所から滑空すると、ぐんぐん速度が増してきた。ごうごうと風が鳴り、風圧がビリビリと身体をうつ。彼方にあった雲さえも追い抜いて、しゅーっと流れ星のように真昼の空を切り裂いて――
にゃー!
「うわっ!?」
狭まった視界に、突然なにかかが飛び込んでくる。捉えたのは一瞬だが、翼の生えたふわふわな子猫っぽいぬいぐるみのような。怪我をさせてはいけないと減速をはじめる。咄嗟に進行方向を切り替えて衝突を免れたものの、木の枝が左翼を掠めた瞬間。
ぷしゅるるるーー!!
( ᐛ )<うわーーっ
空気の抜けるような音がして、Uweは森へと突っ込んだ!
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「ムムッ! こんな白くてもっちりした鳥は見た事ないわい。新種発見じゃな!」
『ガル爺、関心してる場合じゃないのだわ、この子、空気が抜けたみたいにしわしわしてる』
動くぬいぐるみ達がせっせとタンカでUweを運び、赤い屋根の小さなアトリエに連れて来る。ガル爺と呼ばれた小柄な老人は、作業用のテーブルに横たえられたUweを観察しながら、うーんと唸った。申し訳なさそうに耳を垂らした羽根つき子猫のぬいぐるみと、ガル爺より大きな猫のぬいぐるみが心配そうに様子を見つめる。
『治してあげられそう?』
「外傷はそれほど無いようじゃが、
ワッペンで破けたところを塞げれば、応急処置もできただろう。しかし目の前のしろいとりの身体は紙でも布でもなさそうで、針を通すのも躊躇われる。
どうしたものかとまぁるい眉をハの字に寄せてガル爺が悩んでいると、Uweがもそもそ小さく動いた。
「う、うーん……」
「気づいたかのぅ。大丈夫かい?」
「元気でない……」
弱ったUweの一言に――ガル爺はピーンと閃いた!
糸巻ハットから魔法の糸をとり、手にした身の丈ほどのながーい針に通したら、ひらひら辺りに色とりどりのフェルトや布が寄ってくる。
「どんな姿をしていても、この子のルーツはきっと鳥なんじゃ! だとしたらきっと、こうすれば……」
ちくちく、ぬいぬい。流れるような動作でガル爺はUweのまわりをふかふかな布で包み込み、綿をつめつめ、ふっくらふんわり仕上げていく。
ほどなくして出来上がったのは、温かみのある大きなたまごのぬいぐるみ!
『たまごがプルプルしはじめたのだわ! 本物のたまごみたいに割れてるのだわ!?』
「このガル爺のお裁縫力なら、たまごを再現するのなんて簡単じゃわい!」
ぴきぴきぴき……ぱっかーん!!
( ᐛ )<りふれーっしゅ!
「『と、虎だーーー!?』」
元気いっぱい、卵から飛び出したUweの姿はいつの間にやら虎の姿になっていた。そう、気分は混沌最強。布のたまごで休んだUweは、それぐらい調子よくなったのだ!
「助けてくれてありがとう。おじいさん凄いね、なんだか生まれ変わった気分だよ」
「こちらこそ、うちの子猫を避けてくれてありがとうなのじゃ。 おかげで子猫は元気なのじゃ!」
にゃー、とぬいぐるみの子猫が喉を鳴らしてUweにじゃれついて来る。今のUweはとっても猫科。ごろごろぐるぐるじゃれ合いながらお互いの不思議な感触に癒される。
「僕がまた元気じゃなくなったら、またここに来てもいい? えーっと……」
「ぬいぐるみ職人の
「名前に☆いれると、ぬいぐるみ職人っていうより芸人っぽくない?」
「それは確かにのう。そうそう、こっちの大きな猫のぬいぐるみはワシの最高傑作で助手の
『よろしくなのだわ。ガル爺いつも調子のりだから、時々様子を見に来てくれると助かるのだわ』
「そ、そんな事ないんじゃもん!?」
( ᐛ )<おもしろい人たちだなぁ。……おもしろいもこもこ達、かな?
こうしてすっかりガル爺たちと仲良くなったUweは、アトリエで一晩を過ごし、翌日の朝から元気いっぱい、ロンと子供達の前で速く華麗に飛んでみせた。おかげで子供達は大喜び!
「すごいねUwe、ひらひらビューン! って!」
「かっこいいなぁ! どうやったらそんなに速く飛べるの?」
( ᐛ )<えっへん!
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「あっという間に鳥の姿でどっかへ飛んで行きおった。Uweは面白い子じゃのう」
Uweが飛んで行った方の空をぼんやりガル爺が見上げていると、シェーレの方からピコーンと電子的な音が鳴り響く。
『一件の入電を確認したのだわ。
「すぐに戻ると伝えてくれぃ」
やれやれ、とガル爺は深いため息をついた。
愛情かけて作ったぬいぐるみ達に囲まれて、趣味の裁縫をしながらゆっくり過ごす――仮想世界は、理想の人生を叶えてくれる。
「ワシが
あのしろいとりが何かにひた向きだったように、自分も
ガル爺はゆっくりと歩きだし、『Logout』の文字と共に一瞬にして姿を消した。
おまけSS『『ぬいぐるみ職人』ガル爺』
名前:ガル爺 ※本名:ガルン・シュピナー(Garn Spinner)
種族:人間種
性別:男性
年齢(或いは外見年齢):Unknown
一人称:ワシ
二人称:呼び捨て、君
口調:~じゃ、~じゃな、~じゃろう
特徴:糸巻ハット、ちっこい、おちゃめ
設定:仮想世界において、ぬいぐるみ職人をしている人間種の男性。
彼が作り出したぬいぐるみは命が宿ると言われており、実際に生き物のように動くぬいぐるみも沢山つくっている。
ガル爺をいつも運んでいる、大きな猫のぬいぐるみシェーレ(Schere)も彼の作品のうちのひとつだ。今日も今日とて助手らしく、『ガル爺、〇〇なのだわ!』と何かにつけてガル爺の世話をやいている。
普段は伝承の森にある赤い屋根のアトリエで過ごしているが、世界中からぬいぐるみ作りの依頼が来るため、意外な場所で特異運命座標と出くわす事も。
Uweが怪我をした時に助けてからというもの、自慢の針と糸で元気のでるたまごを作り、Uweを休ませてメンテナスをしてくれるようになる。
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ROOネクスト世界内において、彼はNPCではなく、仮想世界の調査を続ける研究員のアバターである。
現実世界の彼の"本当の姿"を知る者は、今のところ、彼が開発したAI・シェーレぐらいのようだ。