PandoraPartyProject

SS詳細

無限のアドベンチャラー

登場人物一覧

カイン・レジスト(p3p008357)
数多異世界の冒険者

「おい、兄さん、ここでいいのか!?」
 そう尋ねる船乗りへと、カインは手を振って返した。
「ああ、大丈夫だよ。ほら、こう見えてもローレットの所属だからね」
「そいつは確かにそうだ。依頼も完ぺきにこなしてくれた……あの化け物もあっさりと倒しちまいやがって、度肝を抜かれたぜ!」
 ははは、と笑う船乗りは、カインのはるか頭上にいる。船の甲板だ。ではカインはどこにいるのかというと、海面に浮かんだボート、その上で、最小限の荷物と共に、甲板の船員を見上げていた。
 依頼の帰りであった。海洋王国で受けたのは、商船の護衛だ。道中現れたクラーケンを見事に撃退し商船を守り、依頼を達成することができたカインだったが――。
「しかし、疲れてないのかい。そのまま、無人島を探検したいなんてよ」
 そう、その帰りに、未発見と思わしき無人島を発見したのである。そうとなれば、カインの血が騒がないわけがなかった。カインは冒険者である。さまざな場所を冒険して、しかし未だその冒険心が衰えることはない。
「あはは! 性分でね。どうしても、我慢できないんだ」
 カインがそう言って笑うのへ、船乗りは頷いた。
「帰りは大丈夫かい?」
「うん。空中神殿を経由すれば戻れるからね。ありがとう、船員さん。ここからは安全な海域だけど、一応、気をつけて」
「アンタに護ってもらって、帰り道に下手打ったら顔向けできねぇよ。帰ったら顔出してくんな! 飯くらい奢るぜ!」
 船員がそういうのへ、カインは頷いた。カインがボートのオールを漕いで、船から離れる。あれだけ大きかった船が、徐々に小さくなるにつれて、今度はその反対側、無人島が全く、大きく見えてくる。
「凄いな……やっぱり海洋の無人島って感じだ。こっちの方特有の木が多いね」
 カインは楽しげにそういうと、力いっぱいにオールを濃いだ。徐々に近づく無人島は、カインを迎え入れてくれているような気がした。だが、と、ここで気を引き締める。冒険とは常に未知の環境と戦うもの。受け入れてくれている、などとは烏滸がましい!
「傲慢に、そして謙虚に。大胆に、慎重に。冒険の鉄則ってね」
 無人島に近づくと、カインはボートを砂浜に乗り上げた。ボートの代金はすでに払っている。帰りはおそらく、通りがかった別の船に拾ってもらうか、空中庭園を経由して帰ることになるだろうから、ボートはこの場で不要になるだろう。まぁ、解体して、薪代わりにしてもいい。
「さって、まずは拠点かな」
 カインがあたりを見回す。冒険をするにあたって、拠点は絶対に必要である。体を休めるのも、戦利品を吟味するのも。
「やっぱり砂浜のあたりかな。虫も少なそうだし、森の中すぎても猛獣がいるかもしれないし」
 カインは森にほど近い砂浜のあたりに狙いを定めると、そこにまず自分の荷物を降ろした。中には簡易な冒険キットが入っている。例えばコンパスであったり、多くのメモ帳であったり、簡易図鑑であったりだ。全て年季が入っていて、何度もこれを使って冒険に出たのだということが分かるようになっていた。
「うーん、やっぱり、ボートを少し解体して薪にしてしまおうか。火の確保をしてから島の奥に行きたいね」
 カインはそういうと、手早くボートを解体してしまった。水にぬれた部分は砂浜に並べて乾燥させて、そうでない部分はさらに小さく分解して、薪にしてしまう。
「よし、ひとまずこれで拠点は良し」
 テントが欲しい所だったが、さすがにそこまでの用意はなかった。が、『行ける』と冒険者としての勘は告げている。木の板はそのまま簡易の寝床にもなるので、ひとまずの準備は完了と言った様子だ。
「そうなれば、早速!」
 カインはうきうきとした様子で、森の内部に入り込む。熱帯森林と言った様相を呈していた森の内部は、まったく人の通った形跡の視られない、草木の生い茂ったまさに未知の場所と言った姿を見せてくれる。
「こういうのがいいんだよ、こういうのが!」
 カインは嬉しげにそういうと、ナイフを手に、邪魔な草を刈りつつ進む。足下にも要注意だ。妙な毒を持った蛇だのなんだのがいるかもしれないし、モンスターだっているかもしれない。
 強烈な緊張感。隣り合わせの死と好奇心。それが冒険の醍醐味であり、カインが強烈に求める快感でもあった。
 冒険は楽しい。自分の知らないものが世の中にたくさんあると思い知らされると、たまらなくわくわくする。
 人間は『未知のもの』を恐れる傾向にあるが、カインにとっては、それはまったく、理解のできない感覚ではあった。だって、知らないことが沢山あるんだぜ? これから分かる事、わからないけどあるもの……自分の頭の中の知識や経験だけでは、決して想像もできないようなものが、世界には、いや、この世界ではない世界にだって、溢れている。
 それに触れる! それを知る! それを冒険する! なんてたまらない感動だろう! もちろん、自分の分はわきまえているから、手に負えないようなものにまで首を突っ込んだりはしないけど、それはそれ。行けると思ったら、ノンストップで行くところまで行く。何故ならカインは、生粋の冒険者であるからだ。
「おっと、あのカラフルな鳥……!」
 カインが咄嗟に、バッグから双眼鏡を取り出した。覗き込むと、なんか七色に輝きながら、首を振る鳥がいる。
「なんだアレ……意味が解らない……新種かな? 魔物ではなさそうだけど……」
 カラフルな鳥は、満足げに首を振った後、何処かへと去っていった。此方に気づいた様子ではなさそうだ。
「うーん、ああいうのって、大体求愛行動だよな……もう一匹いたのかな?」
 さささ、とメモ帳に、カラフル鳥の特徴と行動などを書きしるす。スケッチもしておきたかったが、その前に去られてしまったのが惜しい。
「まぁ、また見つかるかな……おっと、この辺の花は見たことないな。でも、確か……」
 今度は、別の使い古した別のメモ帳を取り出す。パラパラとめくると、以前、別の場所で見つけた花の情報をメモした部分に当たった。
「あった、これに似てるな……うーん、でも微妙に葉の形とか、花の形が違うね。モドキって感じだ。
 前に見つけたのは……薬草か。うーん、こっちも薬草……いや、毒草の可能性もあるんだよなぁ……!」
 むむ、と花を前にして唸る。紫色のそれはとても美しいが、しかしどこか危険な危うさも感じられる。植物学の専門家なら、一発で答えを見出すのだろうか。だが、カインはあくまで冒険者である。分からないことは多い。
「うーん、こいつを食べたりするのはやめておこう」
 そう言いながら、スケッチを開始する。この時の判断は確かなもので、後日図書館で調べてみたところ、薬草によく似た毒草、というふうに記されていた。経験と、勘。そして見事な判断力と言えただろう。
「それから……!」
 カインがふと、声をあげる。そのまま、近くの木の上に飛び乗った。葉の中にその身を隠すと、ずず、ずず、と、何かを引きずるような音が聞こえていた。
 カインが身をひそめながら木の上から下を見下ろすと、何か巨大が、牙を持った猛獣――虎のようなものに近い――が、口にこれまた巨大な猪のような怪物をくわえて、移動中の様子だった。
「凄いな……どっちも魔物か……?」
 小声でつぶやく。虎はこちらの様子には気づいていないようだった。いや、気づいてはいても、既に獲物を手にしていることから、無視しているのだろうか。カインとしても、わざわざ討伐するつもりはなかった。依頼でもないし、そもそも他人に迷惑や被害を出さないなら、存在してもいいと思っていた。
 虎がずるずると去っていったのを確認して、カインはふぅ、と息を吐いた。
「中々おっかないのがいるみたいだなぁ。少し気をつけないと」
 そうは言うものの、カインの表情には笑顔が浮かんでいた。こういうのがいいのさ、と叫びたくなるくらいの喜びと衝動が、カインの胸にかけ巡っていた。
「でも……ふふ、ここにきて正解だったな!」
 思わずそう言ってしまうくらいに、今のカインは楽しんでいた。楽しい。やはり冒険って言うのは、本当に、心がわくわくと躍る!
「さぁて、全部明かしてみせようか!」
 そう言って、木から飛び降りる。ざ、と草木のクッションが、衝撃を和らげてくれた。
 カインの目の前には未知の無人島が広がっていて、それは自身の秘密を、カインに解き明かしてもらいたがっているように思えた。
 いやいや、でも油断は禁物。此方も本気で臨まねば――冒険じゃない!
 カインは再び一歩を踏みだした。カインの無限の冒険は、決して終わることはない。

  • 無限のアドベンチャラー完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別SS
  • 納品日2022年11月15日
  • ・カイン・レジスト(p3p008357

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