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その希望は少女のようで/Destiny cannon
登場人物一覧
此処は森。 今までは命の茂る森林であった場所。 豊かな自然に彩られ、多々生きる動植物達。 今日もそのような日々が続く──はずだった。
地震と紛う程の次元振動。 空に開いた虚の穴。 無遠慮に張り巡らされるキープアウト。 傍若無人で強欲なる異界の侵略者共が、此度も新たな領土を得んと森林をソレらの文明で押し潰されていく。 我らは我らが神より祝福を与えられしコンキスタドール、逆らうな、逆らえば容赦はしないと定型文を撒き散らし。
もしもこの世界が本当に、こんな自然の楽園であったならばそれは罷り通ってしまったのだろう。 今も強制労働を促される
「着地成功。 オニキス・ハート、現場に到着したよ。 今回の来訪者も……言い訳できないほどに侵略者だね。 どう見たって占領中だよ」
空から、銀髪の少女が舞い降りた。 彼女は同じく異界より來し協力者達の手によって、生まれた機械仕掛けの魔法少女――『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート。 "地球"の機械技術と"異世界"の魔法理論が融合した、この世界の守護者である。
「わかった。変身シークエンス、開始」
ライフル型の変身ステッキを上に向け、引き金を引く。銃口からは
「『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート、起動―――完了」
閉じていた瞳を開き、眼前の目標へ向けて彼女の名にも冠される代名詞、[8.8cm大口径魔力砲マジカルアハトアハト]を向ける。彼女の内に溜められた魔力が、その砲身の中へと注ぎ込まれてゆく。収束する魔力に気づいた侵略者の首魁が、オニキスの元へ機械化兵団を向かわせるが。時すでに遅し。その攻勢は、展開し7.62mmマジカルガトリング砲『エーテルガトリング』の弾幕に阻まれる。
「アハトアハトの充填完了。 3、2、1、発射――ッ!」
黒い守護者より、赤い極光が放たれる。凝縮し、解放された魔力が、雑兵達を一緒くたに蹴散らしていく。形を留めた幾ばくかの大型兵も、カービンの牽制・キャノンの制圧の後に狙いを定められてマジカル多目的高速徹甲誘導弾『ファントムチェイサー』によって容赦なくワイプアウト。本丸からの砲撃も、キャタピラの走破性とマジカルビームガンによる迎撃で防ぐ。誰だ、やめろ、と叫ぶ侵略者の首魁の声は、オニキスの耳には届かない。再充填されたアハトアハトが、侵略陣地中心に存在するビーコンにその砲門を向ける。
「これで終わり」
アハトアハト第二射。侵略陣地が、赤の光に塗り替えされる。陣地を保持するビーコンが消え、閉じゆくワームホールを見上げながら、守護者は呟く。
「ミッションコンプリート。 八十八式重火砲型機動魔法少女、オニキス・ハート、これより帰投するよ」
立ち昇る排熱の気は戦闘の苛烈さを示して、展開された兵装がそれを肯定する。回収を待とうと切り株に座って、ふと空を見上げたら。微かな視界異常。目を擦って手をつこうとしたら切り株が消えた。尻餅はついたし本部との通信は切れた上、周囲からは敵も味方の反応もロスト。もしかして夢?と思って自分の頬をつねってみたけれど、ただただ痛みが走るだけだった。ここから出ないと、と思って起き上がったら。目の前にはカソックの女が。
「誰?」
と聞いたらその女は、"ざんげ"と名乗った。彼女はやる気があるのか、ないのか、はたまた両方なのか、よくわからない態度でオニキスの問いに答える。
「どこ?」
と聞いたらここは『無垢なる混沌』という世界の、『空中神殿』なのだと宣った。 ついでに、
「何をすればいい?」
なんでも。といっても困るだろうと先ずはローレットに行けと言われ、ざんげに指し示されたワープポータルの中へ。
慣れないワープの感覚に襲われているうちに、ギルドローレットには到着した。 見た事のないファンタジーなギルドの内装と、見渡した先に並んでいる食事に気を取られていたら、小さな青髪の女の子に強く手を引っ張られた。 子供にしてはやけに強く感じるその力に追従していった先には、一人の男がいた。ギルドマスターだと名乗ったその男に、再びオニキスは問いを投げていく。
「
簡単に言えば世界の滅亡を防ぐための救世主サマ。 アンタらはここに来た依頼を好きに受けてくれればいい。 それがこの世界を救う為の『可能性』になるからと。 ここにきて弱くなっていたり、装備が使えなくなったりしているのは『混沌肯定』の影響さ、と。
「ん、わかった」
それでも、だけど、
「力を持たない人たちを守ること、そのために
そりゃ頼もしいこったなという笑い声が響いて、次の瞬間にはオニキスの腹の虫も鳴った。恥ずかしそうに顔を赤らめるが、誤魔化すように口を開く。
「……あと、働かないとご飯食べられないし」
続いた呟きにそりゃそうだとより一層の笑いが響いて、まぁまずは食べな嬢ちゃんと山盛りのパーティ料理の方に招かれる。その誘いに、無表情だが嬉しそうな様子に駆け寄るオニキス。彼女にとって、食事とは特に重要な行為。 オニキスの絶大な火力は、それに見合う量で消費される莫大な魔力によって支えられているが、その魔力自体をオニキスが補うには"おいしいごはん"を、"たくさん食べる"ことが重要。 そこから得られる満足感や充足感などの"感情"から、機動魔法少女は
「もぐ……おいしい」
テーブルの上に並ぶ大皿達を、ひとつひとつ味わいながら平らげるオニキス。 色とりどりのオードブルにカツレツ、気まぐれサラダと追加でやってきたカレーライスが、次々と彼女の腹に消えていく。 それはきっと、彼女の心を大きく満たして、新たな魔力に転換されるのだろう。 だって、これまでもそうだったから。
よく戦って、よく食べて、よく遊んで、よく蓄えて。 培った豊かな感情から魔力を産んで。 そしてまた、守護者として戦って。 そのルーティンは、彼女が『無垢なる混沌』に召喚された後も、変わらないのだろう。
「他には どんな食べ物があるのかな」
楽しみだ、と思いながら、今日も、明日も、オニキスは
「おかわり よろしく」
……それと、特に今日はおいしいものを食べすぎたのであった。