PandoraPartyProject

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世界の果ては、まだ遠い。

登場人物一覧

ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐

 幻想の地図において、隅へと近い場所。田舎とも言える僻地の町。
 その町のなによりも高い山の頂上、月明かりの下で酒を楽しむ者がひとり。
 黒いフードを深く被った下は、とても酒が飲める歳には見えないほど若く愛らしい顔があった。
 月と猫だけを傍に置く、少女めいた風貌の女だった。
 突然、ひとつの気配が生まれる。手足の長い男が黒いコートを靡かせ隣の切り株へ腰掛ける。
「少し前に、とある男がいてね」
 前置きも何もないまま、男は話し出す。
 曰く、謎の海洋生物っぽい魔物をいくつも倒した。
 そのほとんどが無駄に女子を襲う習性やらあまり良い見た目ではなかったことを。
 曰く、愚かしいほど優しい女の物語に付き合った。
「男には『正義』も『宗教』もなかったが、トモダチが願うなら手を伸ばしたかったのさ」
 彼女の手は結局、瞬きの時間しか取れなかったが後に最大級の軌跡と称された。
 曰く、大昔の魔術師があまりある悪戯心で置いてった魔愴から人々を護ったこともあった。
 様々な条件が重なり、暴走した槍は製作者同様に厄介で、溢れた魔力が炎の人魂を生んでいた。
 曰く、巨大化スルメを八つ裂きにしたこともあった。
 仲間と連携し、良い感じに切り分けられたり炙られていくスルメと酒は美味で、昼間という時間帯もあって最高だった。
 曰く、魔物に馬車ごと飲み込まれたスイカを取り戻す依頼も手伝った。
男はまるで罰ように糖分が受け付けない身体だったので、報酬のスイカは食べれなかったが非常に気持ちの良い特攻が出来た。
 曰く、温泉を砂の魔物から退ける依頼も受けたこともあった。
 数が多く、確かに大変ではあったが報酬の一部であった温泉は心地良かったこと。
「大切なトモダチの誕生日を祝うために、遊園地へ赴いたこともあった」
 先程洩らした通り男は甘いものは受け付けないし、激しいアトラクションの類いは酔う。
 それでも愛おしいトモダチだからと、スイーツを奢り、共に過ごす想い出をプレゼントした。
 それから美しく狂った女の心臓を刺したこともあっという。
 自らの宿命を変えることが出来なかった彼女はその純粋さで狂い、最期の救いもまた美しい女であった。
「……先に話したトモダチは、ちょっと不死でさぁ…………あまり見たくなかったけれど、でも確かに護ったよ」
 そう語るは、狂気に侵された高原を浄化しにいったことだった。
 魔種となって人々を狂気で操る者と操られた人々を相手取るのは数が多く、自分がそうならない保証なしはスリリングだった。
 何よりもあの気高く麗しいトモダチと共にあったことが誉だ。
 その後の曰く、関連した事件──前日談にあたる依頼にも参加していた。
 激しく揺れる海上の船で敵と手を組む仲間を次々替えながら踊るダンスは刺激的で興奮した。
 それから不幸を幸福へと転じさせるギフトを手にした故、魔種に捕らわれた少女を助けたこともあったと語る。
 理不尽すらも愛した男は終始、少女と少女の姉と距離を取りつつも全力で守り抜き、名誉の負傷を良しとした。
 次に古の金属生物を排除したこともあった。
 人と自然界では良くある、しかしながらやるせないテリトリー侵略問題からの排除であった。
 いつ、どんな時だって人間と野生のバランス問題は変動的だ。
「そういえば男は商売の手伝いもしたことがあったのだよね。古代の果実に、美しさを讃えて」
 古代の果実。それは幾多の困難を越えた先に手にしたものであった。
 故に尊く美しいそれらへ賛辞を惜しむことはしなかった。
 続いて語るは、悪の怪人をヒーローとして倒したことだった。
 怪人が存在意義に迷いつつ、けれど最終的には見出だした上で全力を以て来てくれたから同じ熱量を返せた。
 それを最終章へ入る契機回としたら、その次の依頼は劇場版であった。
 真の最終回に相応しい大人数のイレギュラーズVSネオフォボスたちは、どこもかしこも派手に壊して戦って雌雄を決したのだった。
 それから間をあけず、何故か芋掘りに誘われて豚汁を愛おしいトモダチにあーん、と御手ずから食べさせて貰った。
 その一ヶ月後、男は砂から引っ張り出された恋と向き合っていた。
 詳しい事情は知らなくても、泣いている女の子がいるならば駆け付けるのが伊達男というもの。
 だから駆け付け、その恋の終わりを手伝った。
 と言うのに、その次の依頼は気合いで育つ麦を育てるとか言った。
 それにノリノリで参戦したら、楽しくて一発目からパンイチだったし、気付いた時には祭壇に奉られていた。
 正気を失った状態とは誰でも怖い出来事だった。
 次の依頼も酷くて、謎生物な寿司ガトリングを海辺から駆除するものだった。
 魚の生食が苦手だった男は倒しに倒しまくり、最後には火を通したネタの寿司を美味しく頂いた。
 収穫祭では、ぶっ飛んでくるカボチャからとある方を護ってみせたり、温もりを求める羊に押し寄せられたりした。
 A級闘士とイベントで戦い、文字通り死にかけたり、何故か自分が踏まれてる同人誌を売らさせられていたこともあった。
 それから好奇心旺盛な科学者の発明品、ジェットマーメイドマシーンの実験台になったりもした。
 ちなみにそのマーメイドマシーンはイレギュラーズ以外は大変なことになる速度と性能の為、実用化はなくなった。
 そんな個性派な依頼を受けている頃、海洋の王国大号令が発令されていた。
 それに関係する依頼を四件、男も受領していた。
 一件は首から上がロープウェイになってる良く分からないドラゴンを倒すもの。
 倒し方は至ってシンプルにロープウェイでやってはいけないことをしまくることだった。
 なので男は全力でトモダチにロープウェイから落とされたり、お片付けされたりしたが重傷にはならなかった。何故か。
 二件目は大号令に際して力になりたいが、力を持たない一般海の男たちを鍛えるもの。
 海上の激しいものを想定した戦いで、男は実に『嫌らしい奴』だった。
 三件目、相手は巨大にして狂暴なトビウオだった。
 三半規管の弱い男は激しい船酔いに耐えながら小型船を操り、その巨体を確実に追い込んで共に戦うイレギュラーズを助けた。
 そして最後もまた、バケモノ退治であった。
 精霊のような見た目で船に侵入する炎のモンスターを高い技術の操舵で翻弄、それを言葉と肉体のみでいなす。
 それから。それから季節をひとつ跨いだ頃、ひとりの聖女を看取った。
 人を越えた力を以て平らな平和を願った聖女は、親友とも言える彼女の胸で眠った。それを見届けた。
 それらと同じ時間線で動いていた大号令、絶望の海は寂しがり屋の女の子と巨大フジツボ、そして妬む女を差し向けた。
 寂しがり屋は、男の金平糖のような言葉たちに抱き締められて微笑んだ。
 全てを妬んだ女は海蛇として世界を呪い、その果てに救われぬまま切り刻まれた。
 島に成るほど巨大になった動物は、その大きさ故に動けぬまま撃ち砕かれた。
 それ以降も男は大号令に従って絶望を越える道を耕し続けた。
 絶望を越えた後、男は暫し大仕事には縁はなかったが大勢の女性に刺されまくった。
 何故かと言えば、伊達男で見返りのない愛を振り撒くのが趣味で生き方だったから。
 そして──妖精を求む錬金術師によって、男は自分自身と対峙した。
 男の体組織と核の妖精の特性によって男に限りなく近くなってしまった色のない怪物ニセモノ
 その存在は男の神経と理性を逆撫でし続け、戦い続けて……やがて悪い夢のように崩れ消えた。
「ここで話はちょっと戻るんだけどね? 絶望の海を越えた先に、国があったんだ」
 その国にて、男はファムファタールの雛に出逢ってしまった。
 愛でて、傍にいて……──。
 切ないくらい痛そうに啼く幼な顔の女を、男は放っておけなかった。
 いつもの様に愛でて、満たしてあげて──振り返った時には国全体を揺るがす大仕事に関わっていた。
 けれど女にとっても、男はオムファタール。
 男は彼女に全てを棄てることで傍に在ると約束させて。
 その最期、大キライな神様の横入りをも蹴り飛ばして、特異運命座標ヒーローの為に悪役ヴィランとなったという。


 はじめに同じく、男は突然消えた。
ほとんど姿すら見えない頃になって、一言だけ残して。
「おやすみ、俺の創造主カミサマ」
 静寂の山から月を眺めていた女は、男が消えても動くことはなかった。
 夜が効力を衰えさせ、朝に譲ろうかという空模様になって女はやっと立ち上がった。
 朝の優しい風がフードを弄んで女の顔を露にする。

「おやすみ、僕の愛しい××××」

  • 世界の果ては、まだ遠い。完了
  • NM名桜蝶 京嵐
  • 種別SS
  • 納品日2022年11月14日
  • ・ヴォルペ(p3p007135

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