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SS詳細

手記:山に登る

登場人物一覧

澄原 水夜子(p3n000214)
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
名無しの

 澄原 水夜子が拠点としているその洋館は元はと言えば澄原 晴陽が希望ヶ浜の高校に進学した際に父親が拠点として購入したものなのだという。25歳頃までは晴陽が居所とし、水夜子も中学校に進学した頃から居候として同居していたらしい。晴陽が澄原病院の院長として父親に職務を譲り受けてからは彼女は病院の近くのマンションで生活をするようになり、今は水夜子の拠点としてしか昨日していない。
「みゃーさん、これはこっちで良いのか?」
「有り難うございます。本当に山のように資料がありますから助かります」
 逢坂地区で彼女と共に山に向かわず山頂に向かったニコラスは、その埋め合わせとして水夜子の資料整理を手伝うこととなった。「こんなに可愛い私を放置して山に登るだなんて」と水夜子からブーイングが入ったのだ。調子の良い彼女は「私を心配して下さったのに、酷い酷い!」とおいおいと泣き真似をして積み重なった資料整理の人手を確保したのである。

「そういえば、ニコラスさんは怪異に関してご興味があるのですよね」
「まあ、そう言えるかも知れないな」
「私も興味本位が強いので構いませんよ。そもそも、怪異――いえ、目に見えない存在というものは所詮は人間の想像力によるものでしょう。
 其れが存在して居るかどうかさえも、人間が想像上で決める物なのですから。簡単に言ってしまえば、私達の妄想空想、そうしたものが形を作るようにして怪異を呼ぶべき存在を呼び出しているような気さえしますね」
「けど、夜妖は――」
「ええ。居ます。ですが、名付けるのも、其れをそうだと断定するのも私達次第でしょう。何処かの国では夜妖を怪異と呼んだり、神霊と尊んだり、精霊であると認識するかも知れません。ですが、この閉じた世界では明確な答えなんて存在せず全てをひとくくりに悍ましい怪異であるように扱っているのでしょうね」
 乱雑に紙束を挟み込んだだけのファイルを眺めながら水夜子は饒舌に語る。ニコラスはそんなものなのだろうかと感じながらファイルを取り出し、その隙間に挟まっていた資料がばさりと落ちた。慌てて拾い集めるニコラスは「にゃーさん、これって何だ?」と問う。
「あ、それは希望ヶ浜怪奇譚の蒐集の際に入手した葛籠神璽の手記ですね。……そういえば、この話しを語って下さる方が大学に居るんですよね」
「大学に? みゃーさんって澄原病院に就職してるけど、希望ヶ浜学園の大学にも在籍してるんだったか」
「はい。民俗学部に。何かの足しになるかと思って、勉学は悪い事ではありませんでしょう?
 ……それで、学部の先輩にとこよ先輩と仰る方が居まして、本当は。その双子の妹さんがうつしよさんと、何とも意味深で素敵なお名前ですよね」
「常世と現世か。双子で相反するっていうのも中々」
「ええ。そのうつしよさんが怪談の語り部をされているのですよ。偶然、お話をお聞きしたんですが……」
 そこまで告げてから、水夜子は「ん?」と首を捻った。ニコラスの手にしている手記を上から下まで眺めて――なんとも不可解な表情をした。
「みゃーさん?」
「……どうして、うつしよさんはこの話を知っていたのでしょう。
 だって、これ、葛籠神璽の手記はそれ程出回っていません。音呂木神社の蔵に合った物を蒐集しただけなんですよ」
 怪異は人の想像から作り出される。何処かで葛籠神璽の言葉を耳に為て、それを『多人数に話せば』――人の想像は、留まることはない。
 水夜子は「偶然、ですかねえ」と呟いた。偶然であって欲しいと願ってしまったのだ。

『手記:山に登る》

 近郊の山とは身近な存在だ。だが、山には神が住むとされている。それは広義に至る。
 だが、私が此れを記したのは一つの実体験である。街へと住まえば山への信仰は薄れ、其れ等は遠い存在となる。
 私は幼少の子供達を連れて山へと出向いたことがあった。これは一種の実験である。
 一方の子供は女児である。生身の儘で鈴を持たして歩かせた。もう一方の子供は男児である。彼には櫛を持たせ、正装をさせた。
 最初に戻ったのは女児である。彼女は山に登った後に「何もありゃしませんでした」と告げた。
 男児は余りに返らない。「おおい、XXXX」「おおい、XXXX」名前は薄れて読めなくなっていると女児が何度も繰り返し名を呼ぶが、一向に帰る兆しがない。
「お父さん、うちは山頂まであの子と一緒でした。道標なんかがあったでしょう?
 山の上から点々と繋がっていて、塚があった。路傍にもぽつねんと地蔵があった。其れを辿れば辿り着けたんですわ。
 お山の途中に朽ちた家屋がありまして、うちとあの子はそこで休憩したんですよ。うちは中の様子が気になって、家に入りました。
 あの子は獣が来るかも知れないからと外で待っていてくれたんですけれどね? うち、中に何もなかったので雨戸を開けて声を掛けたんです」
「それでどうなった」
「あの子が家に入りました。うちは違う部屋に行って、押し入れに入りました。何故かそうしなくちゃあならない気がして。
 そしたら、向こうでぴしゃりと部屋の障子が閉まりましてね。あの子の影が見えたんですよ。それから、蜘蛛だ。大きな蜘蛛の影がぁ見えた。
 その後からあの子が何処かに行ってしまったんですよ」
 ――その先は破れている。

「みゃーさん、この話したって言う語り部はこの先のことはなんて?」
「……ええ。蜘蛛に連れて行かれちまった、と女の子は叫ぶんですよ。そこで、話は終わり。
 後味が悪い方が怪談というものは気を惹きますからね。それで、どうなった――そんな風に興味という跡を残せば、人はそこから先を想像してしまいますから」
 そうして、神隠しや蜘蛛のはなしが出て来てしまえば、気になることは無数に増える。
 山の神は女だという。故に、祭の日は女を禁ずることもあれば『けがれ』を拒絶する事もある。国産みとして神を母に見立てることあるそうだ。
 それは――R.O.Oの豊底比売が『国産みの母』であったことがあり想像に易いだろう。女児が置いて行かれたのは女であったからか。その山に住まう神が女神であったからなのだろう。
 ならば、男児はどうなったか。道標が狂ってしまえば帰らず、永劫に取り残される。
 その怪談を話すのが双子の娘で、傍には兄が立っていることも尚更に興味をそそる。もしかして、二人の話であったのではないか、と。
「シチュエーションを重視したにしても出来すぎだな」
「ですねえ。……まあ、そちらは私も興味があるので深く深くそれは海のように深く探ってみますね」
「みゃーさん。一人で無茶は――」
 水夜子はニコラスを眺め遣ってからくすくすと笑った。
 彼女は怪異を好いている。故に、怪異も彼女を愛してしまうのだろう。それは目に見えない物であるから、存在を認めてくれる物を愛する性質がある。
 澄原 水夜子という人間は、親の道具だ。澄原 晴陽と龍成に近付いて、澄原の一族である程度の立場を確立するための。安定的な未来を構築するための道具でしかない。
 故に、無鉄砲だ。怪異を紐解けば、それが『夜妖診療を行なう院長』の役に立つと知っているから。
「何かあれば、助けて下さいますでしょう?」
「……まあ」
「信頼ですよ。私が、死んでしまう前に――」
 どうか助けて下さいねと微笑んで。彼女の傍から落ちたひとひらの紙にも葛籠神璽の名が記されていた。

  • 手記:山に登る完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2022年11月07日
  • ・ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576
    ・澄原 水夜子(p3n000214

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