PandoraPartyProject

SS詳細

『 』がいるんだ

登場人物一覧

アレン・ローゼンバーグ(p3p010096)
茨の棘
紲 寿馨(p3p010459)
紲家



 まぁるいポットの中で、色鮮やかな花がゆっくりと咲いていく。辺りに漂うのは茉莉花ジャスミンの甘やかな香りだ。

「……綺麗だね」

 花開く様子を眺めていた洋装の青年──アレン・ローゼンバーグは人形ドールの様な美しいかんばせをうっとりと綻ばせてそう呟いた。その華奢な体は格子模様を意匠に取り入れた、異国情緒漂う赤塗りの椅子の上に収まっている。

「そうだね。工芸茶……名前には聞いていたのだけど、フリアノンではほとんどお目にかかれなくて。こうして一緒に飲めて嬉しいよ」

 対面に座った和装の青年──紲 寿馨は柔和な笑顔でアレンに同意する。
 ここは寿馨の故郷である覇竜デザストルから遠く離れた地、その名を『シレンツィオ・リゾート』。その中のフェデリア総督府へ訪れた2人は、四番街と呼ばれる自然豊かな地区内に店を構えるアジアン・カフェにてお茶を楽しんでいた。軽食や菓子と一緒にお茶を楽しむ、所謂アフタヌーンティー方式だ。

「僕としても寿馨と此処に来れてよかった。誘ってくれて本当にありがとう」
「いや、オレの方こそ"外"に詳しいアレンが居てくれて助かったよ。オレの知ってる人って里の人か家族ばっかりだから……」

 最初にこのアジアン・カフェについて知ったのは寿馨の方だ。自身が住まう覇竜デザストルの"外"の文化。特異運命座標イレギュラーズとなった以上は(それが自身に合うかはともかく)触れておいた方がいいかもしれない……と寿馨は考えたものの、同じく"外"の世界へ行ける様になったばかりの親族の誰かと行くのでは多少不安が残る。そこで思い浮かんだのがアレンの存在だった。
 蒼と紅のオッドアイが印象的な、薔薇のよく似合う彼。何度か行動を共にするうちに不思議と親近感の様なものを感じていたし、あまり自分の深いところまで踏み込んでこない彼の距離感を寿馨は心地よく感じていた。何より、アレンは旅人ウォーカーで"外"の文化のことも知っている。そういうわけで寿馨はアレンをこの店へ誘うに至ったのである。

「寿馨の苗字って、紲だよね。紲一族……ってフリアノンの名家って聞いたんだけど、本当?」

 一方、アレンの方も寿馨に誘われて悪い気はしていなかった。異国情緒溢れるアジアン・カフェでアフタヌーンティー……そんな『非日常』は愛する姉へのお土産話としてはこれ以上ないくらいぴったりだ。それに加えてアレンの方も寿馨に対してどことなく自分に似た雰囲気を感じ取り、幾許かの興味を抱いていた。その親近感の正体を知れたら──自身を探られることに警戒して人に踏み込まない様にしている彼にしては珍しく、そんなことを考えていた。

「うん、そうなんだ。家族というか、親戚がとても多くて。いとこも沢山いて、特に妹が可愛くてさー……」
「ふぅん、従姉妹さん。寿馨の従姉妹ならきっと可愛いだろうね」
「そう! そうなんだよ、可愛いんだ。この間も……」

 そう言って家族の──正確には従姉妹の話を流暢に語り出す寿馨。アレンは熱々の芝麻球胡麻団子を上品に食べながらその話に相槌を打って、話題の正解を確信する。
 きっと寿馨はその従姉妹がとても大切なのだろう。話す時の空気、目の色、声の暖かさ。そういったものが、他の話をしている時と明らかに違う。その姿にほんの少しだけ自分を重ねた。
(……大好きな姉さん、愛する姉さん。もしかしたら、僕も誰かに姉さんのことを話す時はこんな感じになっているのかもしれない)
 最も、そんな機会は滅多に無いのだけど。とアレンは内心で苦笑する。
 だって誰も姉さんを認めてくれない。そんな人たちに姉さんのことを話したくなんて無い。どうしてみんな姉さんを嫌うのだろう。あんなに穏やかで心優しい女性ひとなのに……。
 そこまで思考して、アレンは心を落ち着けるためにカップに注がれた温かな茉莉花茶ジャスミンティーを口にした。さっぱりとした味は砂糖がなくても飲みやすく、甘い芳香は思考を現実へと引き戻してくれる。

「……アレンはオレと同じで一人っ子? それともきょうだいとかいる?」

 ふと、寿馨は自分だけが話し込んでしまっていることに気が付く。身内のことは話しやすいとはいえ、こんなに話していてはいくらアレンでも引いてしまうんじゃないか……と若干焦りはしたものの、幸いそんなことはない様で寿馨は安堵する。とはいえ、このまま自分だけが話しているというのもどんどん深掘りしていった話になってしまう気がして寿馨はアレンに話題を振ることにした。

「……、」
「……ああ、話しにくいならいいんだ。それより──」
「待って」

 ふっと両目を見開いたアレンを見て、寿馨はすぐに踏み込んではいけない部分だったかと思って話題を変えようとした。しかし、アレンはそれを制する。アレンが目を見開いたのは別の理由からだった。
 アレンが寿馨に対して振ったのは一族の話。つまり──『家族』の話だ。それはつまり、『世間話の範疇で、アレンにも家族の話題を振られるかもしれない』ということ。普段の自分なら、姉のことを隠したくて避ける話題だろう。しかし彼に対しては自然に話題を振ることができた……そのことに、驚いていたのだ。

(きっと──寿馨と話すのはなんだか心地がいいから。それで、知りたくなったのかな)

 実際、彼の従姉妹の話を聞けてアレンは嬉しかった。妹が好き、姉が『好き』。そんな共通点を見出せたことが、更に親近感を感じる理由になっていた。
 だから寿馨には教えてもいいかもしれない。ああでも、姉さんが『好き』ってことまで話したら驚いてしまうかな? だからもう少し後に──。
 そんなことを考えて、アレンはフフッと微笑んだ。そんな"踏み込んだ話"を教えようと思うくらいには、寿馨のことを気に入っているらしかった。

「ね、聞いてくれる? 僕にはね──」

  • 『 』がいるんだ完了
  • NM名和了
  • 種別SS
  • 納品日2022年10月31日
  • ・アレン・ローゼンバーグ(p3p010096
    ・紲 寿馨(p3p010459

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