ＳＳ詳細
目から鱗が落ちるならビームだって出るさ
登場人物一覧
- ランドウェラ＝ロード＝ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
- シズカ・ポルミーシャ・スヴェトリャカ(p3p000996)
悪食の魔女
「……視力をよくする薬、ですか？」
シズカは少し首を傾げ気味に言った。相対する提案者……ランドウェラは、そんなシズカを赤白ふたつの瞳で見つめ、こくりと頷く。
「うん。僕も左目の視力が悪いし、どっちが使うにしても役立つんじゃないかなってね。どうかな？」
なるほど、とシズカは感心した。しかし傾げた首の角度はそのままで、眉はややハの字気味。色々と頭の中で、シミュレーションしているようだ。
普段なら一も二もなく実験室に飛び込み、とりあえずで調合してみて、そんでもっていつものようにシズカの不幸体質で大爆発が起きる……までがテンプレなのだが（※ここ魔術師ギルド兼魔導研究所兼小料理屋『Hexenofen』の実験室は、度重なる爆発事故にも健気に耐えている）今回はそうもいかないらしく、いつもよりもうんうん悩んでいた。
「難しそうかな？ それなら別のプランでも……」
「いえ、待ってください。眼球も肉体の一部ですし、動体視力は後天的にトレーニングできるっていいますよね」
「そんな話、たしかに聞いたことある……かな？ さすがに筋トレみたいにはいかないだろうけど」
「でもそれなら、身体強化系の魔法薬を応用して、目の機能を強化して……」
ぶつぶつ。シズカは口元に手を当て、沈思黙考モードに入る。言ってることの大半はランドウェラにはよくわからないが、とりあえず乗り気になってくれているようなので、まあ気にしないことにした。
「……案外いけちゃうかもしれませんよ、これは！」
しばし思考に没頭した末に、シズカはキリッとした顔で言った。
「お、いけそう？ ならさっそく実験してみよう！」
「はい！ 薬自体は既存のものの応用ですぐに出来上がるはずです！ 爆発なんて絶対に起こしませんっ！」
「その意気だよシズカ！ これで霞みがちな目の疲れともおさらばだ！」
拳を握りしめ意気込むふたり。色んな意味でフラグにしかなってないような気がするが、なんと驚くべきことに、爆発事故は起きなかったのである！
……そう、爆発事故『は』。
「というわけでパパッとできました、こちらが視力強化薬になります！」
「わー（ぱちぱち）」
てけてけーん、とどこかで聞いたことのあるようなSEが頭の中で流れ……たかはともかく、出来上がった試作品を高々と掲げるシズカ。そしてぱちぱち拍手するランドウェラ。
薬の生成はつつがなく終わった。あとは一番の問題……つまり薬の効能がどの程度再現できているか、である。
「さすがにランドウェラさんにいきなり使わせるわけにはいきませんから、まずは私が試してみますね！」
「楽しみだね。うまくいってるようなら、僕もテスターになるよ」
「はい！ それではさっそく点眼を……」
眼鏡をズラし、天井を向いてぽとりと試薬を点眼するシズカ。ぱちくりと瞬きすると、薬の雫が涙のようにこぼれ落ちた。
「どう？ 世界がくっきりしてる？」
「んん……そうですね……」
シズカはおでこにかけた眼鏡を片手で抑え、じぃーっとランドウェラの顔を藪睨みする。
普段なら眼鏡なしではろくに見えない像が徐々に絞られ、はっきりと彼のオッドアイが……見えた！
「おお、これは！ ちょっともう少し遠くの景色も試してみます！」
シズカはランドウェラから視線をズラし、窓から外を見上げた。世界がはっきり見える！
「どう、どう！？」
「見えます！ 何もかもがはっきりと！ それに、目に魔力が集まる感覚がわかって……」
シズカの言葉が途切れた。ワクワクした様子のランドウェラは、何事かとシズカの正面に回り込む。するとシズカの目が光っていた。
「あれ、なんか目が光って」
「ごめんなさいこれダメなやつです逃げてぇえええ！？！？！」
「えっ」
カッ！！ ランドウェラの頬をかすめ、空の彼方を劈くビーム！ ……ビーム！？
「ビーム！？」
「魔力が！ 魔力が目に収束してうわーーーー！！」
「うわーーー！？」
カッ！ カカカカカッ！ 慌てるシズカ！ 乱射されるビーム！ 慌てるランドウェラ！ 大変なことになる室内！
「なんで？ なんでぇ！？ なんでビームなのぉ！？」
「た、多分あれです、『不幸な偶然で』素材に不純物が混じって変なことに……ああああとにかくランドウェラさん逃げてー！！」
「なるほど爆発しない代わりにそういうことね！ けどここは僕がなんとかしなうわぁあああ！！」
ズビー！！ シズカは眼鏡を落とした人みたいにわたわたしており（※光線のせいで視界が塞がれている）結果としてビームは荒れ狂っていた。そしてランドウェラは見事にビームを食らった。
「ら、ランドウェラさーん！？」
シズカは悲鳴の方向を見て叫んだ！ 見たということはつまりビームがそちらに向かう！
「僕は大丈夫だよだからよそを向いてうわぁあああ！！」
「ランドウェラさーん！」
「だから別の方を向いてうぎゃあああ！！」
大惨事だった。
しかし、このままでは終われない。ランドウェラの赤い瞳がきらりと輝く！
「うおおお唸れ！ 僕の開眼妙技ーッ！！」
ビームでダメージを受けたことでパッシヴスキルが点灯し、底力を発揮したランドウェラは機敏な動きでビームを回避。
「きゃあっ！？」
ぴちょん。シズカは目に冷たい感触を覚えた。試薬を洗い流すための水を、ランドウェラが点眼してくれたのだ……！
かくしてビームは収まり、シズカはほっと胸を撫で下ろす。部屋の惨状は見ないことにした。
「ありがとうございますランドウェラさん、一安心ですね！」
「それほどでもないよ。ところで薬どこいったの？」
「え？ あ」
シズカは天井を見上げた。そこには、ランドウェラが洗顔用の液体瓶をひっつかんだ拍子に、舞い上がった薬瓶があった。
――ぱりん。
「「あっ」」
割れる薬瓶。降り注ぐ薬液。光り輝くふたりの……眼。
「「あーーーー！！！」」
カッ！！ と、『Hexenofen』のあらゆる窓と出入り口から漏れ出す光。そして轟音、揺れ、爆発。
翌日、店内の片付けのため、ロビー部分は休業を余儀なくされたという……。
