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救世の友に祝福を

登場人物一覧

シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
Cavaliere coraggioso


 例え世界が違っていても、『Ritter der Hoffnung』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)が人を助けたいと願う気持ちに違いは無かいのだろう。
 それは騎士であるから――という理由を別にしても、彼自身の性根が光り輝く宝石のように美しいものであるから。
 今日(こんにち)も、きっとシャルティエは誰かを救う。
 その美しい手を光へと伸ばすように。

 今日という日は晴天で、朝飲んだ甘い珈琲の出来は良かったし、カリカリのパンもおいしく焼けていた。
 庭先の花がこの時期だが咲いていて、夜に降った雨の粒が葉を濡らす。朝露の雫が煌めき、思わずシャルティエはため息に似た吐息を吐きだして今日の始まりの鮮やかさにうっとりとしたものだ。
 何もない日。
 依頼も戦いも痛い事も無い日は素敵な日だ。
 元の世界から騎士であるシャルティエではあるが、戦う者ではあれど戦いがない日――つまり自分が仕事をしなくていい日というのは素敵なものだと感じる。
 するとその時、一匹の兎がじっとシャルティエを見つめていた。
 当たり前の事ではあるが、シャルティエは首を捻って見つめ返した。
 こんなところにウサギとは珍しい。あまり見ない、いや、見たのは初めてだ。
 条件反射か、それともその行動にはあまり意味を持たせていないのだろうが、シャルティエは思わず片手をあげてウサギに対して挨拶をした。
 しかし冷静に思えば、野生の兎に手をあげて挨拶する自分に、少しだけ恥ずかしさも思えて。シャルティエは小さな頬を朱に染めている。そんなとき。
 ふと、ウサギは四足で地面についていたのを止めて、よっこいしょとまるで人間のように二足で立ち上がったのだ。よくみれば人形のようなそれは、シャルティエに対して『ついてこい』と言わんばかりの主張をジェスチャーしている。
 何が何だかよくわからないが、なんだか助けを呼んでいるように思えた。
 助けを求めている相手を助ける、そこに理由なんて必要ない。そう順序建てたシャルティエは、愛用の剣と盾を持ち、兎のあとを追っていった。

 ――のも、つかの間。気づけば幻想の森の中。
 小木の間をかき分け、獣道を進む。気づいたときには、既に兎の姿は忽然と消えており。
 まだ高いところにあるはずの太陽も、大木の葉たちに囲まれてしまえば、夜にも似た暗さを落としている。
「どこ、行ったかなあ……」
 正直不安も出てきた。
 まさか森に入るとは思わなかったが故に、山対策の装備はしていない。それに、このまま遭難してしまうともっと大変なのでは無いか。勇敢な少年の心さえ恐怖の足音を聞かせてしまう、大自然の純粋な残酷さが広がっている。
 一度来た道を戻るべきか。
 そう考えだした時、シャルティエの耳に唸り声のような声が聞こえた。
「う……うぅ」
「!?」
 近くだ。
 確かに聞こえた人間のような声色。もしあの兎が、そこを終着点として走っていたのならばゴールは近いはずだ。
 先程まで恐怖に飲まれかけていた心を跳ね飛ばしたシャルティエは、思わず足取りを早くして声の主を探す。
 そして見つけたのは、見目にも麗しい貴族のような服を来た少年であった。
「大丈夫ですか!!」
 少年のそばに駆け寄り、意識を確認する。何度か呼びかけてみたが、全く返事がない。
 代わりに魘されているのか、唸っているのか、人間の言葉としては成立していない声色だけが続いていた。見れば、少年の片足が変な方向に曲がっている。きっと立って歩くという行為は、意識があったとしても無理であろう。
「とにかく、病院につれていかなくっちゃ!」
 シャルティエは、見ず知らずの少年背負い。来た道を、自分の足跡を頼りに戻っていく。
 そばで、先程の兎が不安気な赤色の瞳で見上げている。
「大丈夫、きみたちのご主人様は僕が助けるから」
 これも騎士業のひとつ。いや、例え自身が騎士でなくてもこうしただろう。
 しかし、そう簡単には返してくれないようだ。
 別の唸り声が響く。森の地面を振動させるように吠えたのは獣型の魔物であった。魔物はシャルティエの背後を狙い、そして飛びかかりつつある。
 声を発する暇もなく、足を横へと跳躍させたシャルティエ。いきなり何をするのだと出掛けた声、だがそのとき、魔物の首あたりに光るものが引っかかっているのを見た。
 それが何かと探る暇なく、麗しの少年を傍らに担ぎ、剣を抜いた。曇りのない刃の切っ先を獣へ向け、一定の距離を保ちつつ間合いを図る。
 刹那、耐えきれずに獣が飛びかかる。
 シャルティエは剣を縦に、飛びかかる獣の勢いを利用して串刺さんとーーその時、光っていた何かが衝撃で飛び、森の草木の間へと消えていくのを目の端で見ていた。

 街の病院に彼を預け、特に命に別状もないと医師から伝えられればシャルティエは名前も名乗らず家に帰ってきていた。
 疲労は困憊。安堵と安心を感じた刹那、シャルティエを襲ったのは歓喜の渦よりも、大量の眠気であった。
 そういえば朝からパン一枚しか食べていなかったし、気づいたら夜。少年一人おぶって山から下山してきたのだ、いくら訓練されている騎士とはいえ、限界は当たり前の事だ。
 身体にまだ土や葉の臭さが遺ってはいるものの、シャルティエはベッドに横たわり泥のように眠った。
 シャルティエは気づかなかったが、傍で目の赤いウサギに見守られながら。

 その日、夢を見た。
 シャルティエの記憶の中、知らない女性が指輪をはめている。
 髪が長くて、色白の美しい女性だ。ハーモニアだろうか、耳の長い女性であった。
 シャルティエは何も言わず、その女性の肩に手を伸ばす。すると、鬼のような形相をした女はシャルティエの喉に両手をあて絞め殺そうとし――

「ハッ!!!」
 シャルティエは勢いよく目をあけた。なんだか苦しい、息がしにくい。
 ぼやけていた視界が見えるようになった頃、知らない少年が自分の腹部のあたりに乗っかっている事に気が付いた。
「やっと起きたか」
 少年はそういうと。
「ぎゃーーーーーーーーーーーー!!」
 シャルティエは此処暫く出したことのないような声で叫んだ。

 テーブルをはさんで、椅子と椅子に座る二人。なんだか空気は緊張したように張り詰めている。
「ええと君、病院を抜け出して大丈夫?」
「何を言っているんだ。もう昼だ。退院した。足は折れていたから、松葉杖は借りたがな」
「ええ!? もう昼!?」
 詰まる所、シャルティエは疲労困憊に流れてかなりの時間眠っていたらしい。
「昨日、世話になったようだ。式神の兎たちからそう聞いた。感謝を述べようと玄関を叩いてもいなくて。仕方ないから半日待ったけど、帰ってこないからまさか家の中で倒れているかーーと思ったがそんなことはなかった」
「めちゃくちゃ心配させてしまった感じ?」
 嗚呼、それは式神だったのか。納得――と、シャルティエは少年の傍らに立っている兎が、やあ! と片手をあげたのを見ていた。
「僕はシャルティエ・F・クラリウスだよ。きみは?」
「リオン。リオン・カルセイン。幻想種(ハーモニア)だ。カオスシードか?」
「いや、僕はウォーカーなんだ」
「他世界から……ようこそ。なぜ混沌に来た」
「……それは僕も聞きたいかな……!?」
 リオンと話していると、どうやらちょっと不自然に大人びているが、シャルティエと気が合うくらいには楽しく会話が弾んでいく。
 どうやらリオンは幻想国の小規模ではあるが貴族の家の生まれで、母は失くしてしまったようだが、父とリオン二人で優雅に過ごしているとかなんとか。しかしリオンはハーモニアだ。見た目に反して、年齢はシャルティエよりも何倍の上であるのだろう。
 ふと紅茶を置いて、シャルティエは聞いた。
「昨日はどうしてあんなところに?」
「嗚呼、母上の大事な指輪を魔物に盗られてしまって。追いかけたんだ、でも駄目だった」
「――え」
 シャルティエは思い出していた、魔物を倒した時、何か光るものが森の奥へ転がっていったのを――。
 それは、もしかして。
 シャルティエの胸の奥が掴まれたように切なくなった。胃の中がぐるぐる回っているように、それを吐きだしたいような気分に急激に落ちていく。
「また探しに行こうと思う。大事なものだからな」
「大事な、もの」
 そう言われると、益々罪悪感が出てくる。あの時、光り輝くそれを追いかけるべきでは無かったのだろうか。いや、あの魔物は一人では中々に強い相手だった。でも。
「……どうした?」
 顔を俯いて、真っ青に変えていたのを見て。リオンはシャルティエの肩に手を置いた。覗き込んでくる瞳が直視できない。
「僕、その、あの……」
 すぐに言葉にはならなかったが、シャルティエはもしかしたら――と付け加えてから説明した。長い説明になりつつ、何度か声も上ずっていたが、リオンは真摯に聞いてくれていたようだ。
 シャルティエがリオンの瞳を見た時には、リオンは面白いばかりに笑っていた。
「命を繋いでくれただけでも、こちらがお礼しても余るくらいだ!」
 その一言に、胸につっかえていたものが降ろされたような気分がした。歌詞として、物よりも命を助けられたことの方が、リオンにとっては大きい物なのだ。
「シャルティエと言ったか、それよりもだ」
 すると、耳の先を赤くしたリオンが片手を伸ばし、握手を求めてくる。
「あの……友達、に。恥ずかしいことだが、こんな俺に命をかけるような存在は乏しかったから、その」
「え……」
 貴族とは、恵まれている家系が多いのかと。そんな先入観はあった。しかし、貴族だからこそお高く見られて孤独なこともある。リオンはそう言いたいのか、言葉を選びながらシャルティエに片手を伸ばしたのだ。
「僕は」
 シャルティエは返答する。
 貴族のリオンではなく、ひとりの人間として見て。その先どうなったかは、ふたりのひみつ。
 
 
 
 
 
 

  • 救世の友に祝福を完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2019年11月18日 22時25分
  • 登場人物1人

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