PandoraPartyProject

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空が白むまで

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
ランドウェラ=ロード=ロウスの関係者
→ イラスト

●天候:晴れ
 今日は晴れている。
 そういうことになっている。
 より正確に言い表すならば、現在、この R.O.Oのフィールドに、天候は「快晴」と設定されているということである。
 ここだけに限って言えば、予測は正確に可能である。
 一見してランダムに見える天気は、数パターンほどしかない乱数テーブルによって決められている。

 朝乃が対峙している敵は、巨大な蝶。
 識別名――ジャイアント・バタフライ。これが、このあたりのボスエネミーらしい。
『朝乃。エネミーから軽微なバグを検出しました。いったん引いて……こちらで対処します』
「でも、あと少し。あと少しで倒せますよ」
『朝乃……無理は禁物です』
「大丈夫。任せてください」
 兄からの通信の音量を下げると、六逸 朝乃は刀を構えて大きく深呼吸をした。
 バタフライが羽をなびかせるたび、鱗粉が舞った。それから、小さな竜巻が巻き起こる。
(くっ……)
 データによると、相手はじぶんよりも格上だ。
 でも、それでも、朝乃は兄の役に立ちたかった。
(この敵は単なる使い捨ての汎用データ。おそらく偶然生成されたエネミー……ここで負けたら、データは手に入らない。そこにバグがあるというなら、今ここで勝って、少しでも白斗にデータを渡したい……)
『セフィロト』の研究者であり、R.O.Oを管理している兄が、この世界でいったい何を探しているのか朝乃は知らない。けれども、大好きな兄のことだから、きっとこの世界のためになることをしているに決まっている。
(だって、白斗は人のことばっかり考えてますから。……ほんとうに、わかりづらいんですけど……)
 勝機が全くないわけではない。
 このボスはレイド――多数のプレイヤーが協力して、一体の敵を倒す仕組みになっている。
 だから、いままでの、ほかのプレイヤーからのダメージは蓄積されている。
……もっとも、居合わせた者たちは、すでにリタイアしてしまっていたが。
 1回、あと1回攻撃を当てればいい。

 朝乃は踏み切った。捨て身のまっすぐな一撃。
 これが「本当の戦い」だったら、きっとそんな捨て身の決断はしない。でもこの世界は、Rapid Origin Online――仮想の世界なのだ。
 狙いはうまくいった。
 朝乃の一撃は、バタフライの羽を貫いた。
 舞い落ちる鱗粉に咳き込みながら、朝乃は勝利を確信していた。けれども、確かに倒したはずのバタフライは身を震わせながら、その場からゆっくりと舞い上がった。
(だめ、倒せない……見た目上のHPバーと……実際の値が一致してない?)
 自分のほうは、もう動けない。油断した。
 バタフライは、こちらを向いて、最後の一撃を――。

 覚えているのは、白い閃光。
 まるでまっすぐな流れ星のようにやってきた少年は、いともたやすくバタフライを斬り払った。
 距離があった。届かないはずの一撃は、コードをまとって伸縮し、伸びた文字列がバタフライをからめとる。
(っ……誰?)
 朝乃の目の前にふわりと降り立った少年は――ほんの十にも満たないように見える。けれどもここでは外見は飾りだ。
 少年はぽそりとつぶやいた。
「違った」
(え?)
 それから、嵐のように去っていった。ドロップアイテムもそのままにして。

●現実世界のめぐりあわせ
 NPCなら『白』。NPC以外なら『黒』。
 視認したくない存在は『赤』だけど……おっと、いまはR.O.Oじゃない。
 ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)は目の前を行き交う人々に色が見えないことを、ほんのわずかに不思議に思い、それから、すぐに思い出す。
(ああ、こっちがほんとの世界か)と。
 それでも、誰かが耳元でささやいているような気がした。
 ほんとってなんだろうね、と?

 どうやら、最近少し働きすぎたみたいだ。
 こっちの世界は少しぼやける。ランドウェラの白い瞳はあまり良くものが見えないし、紅い瞳の色は曖昧だった。
 ランドウェラは、六逸 白斗からの依頼でレアエネミーを追いかけているのだった。
(レアエネミーは、どうしてきらきらしているのが多いんだろう)
 宝箱だって、ドロップアイテムだって……。わかりやすく、きらきら、貴重なものはそうやって輝いているものなのだろうか。そうしたら見つけてもらえるのだろうか。
 ランドウェラはレアエネミーに遭遇しやすい、と白い研究員さん――白斗が言っていた。そうだといっても、偶然の出会いはなんと難しいものだろう。

「根を詰めすぎないでって……大丈夫ですよ。え? 話? ううん、でも今、忙しくて……」
 希望ヶ浜学園の生徒だろうか。誰かと話している。通信機を持っている様子はないが、独り言ではないらしい。
 よく見たら金色のヘアピンがそうなのだろうか。
 そっか、と思って、ランドウェラは通り過ぎようとしたのだ。
 でも、偶然にも、それが、目に入った。
 刀だ。模造刀っぽくはない、直感的に分かるのだ。それは日本刀であると。
「あの……」
「は、はい!?」
 少女のことを、ランドウェラはじっと見つめる。
「ええと、あの……」
 武器を持っている。けれども、不思議とおっかない感じはしない。ぎゅっと、大切なものを抱くようにしている朝乃は、ランドウェラを見つめ返した。
 見覚えがある……そう、色彩が似ている。六逸 白斗とそっくりだ。
「もしかして……」
 なんとも不思議なことではあるが、ランドウェラ……ロードを探していたはずの朝乃よりも、ランドウェラが朝乃を見つけ出すほうが早かった。

●教えて、ロード
「知っていたら、教えてくれたっていいじゃないですか!」
 六逸 白斗……朝乃の兄曰く。紹介しようと思っていたけれどもタイミングがわからなかっただとか……。楽しそうだから言いそびれてしまった、だとか……。
「でも、ほら、気が付いたよ」
「そうですけれど、そうですけれど!」
 兄が教えてくれさえすれば、じぶんが恩人を探すのに苦労することもなかったのに、と、朝乃は形ばかりむくれてみせた。
(そういえば、イヤリングがおんなじですね)

「見てみて、こうやってこう!」
 ロードは、朝乃からは大人びてみえるランドウェラと同じ人物なのだろうか。
 知らないで見るとわからないが、知っていて見るとなるほどな、と思う部分もたくさんある。よく見ると、ランドウェラには、まるで少年のようなところがある。きらきらと輝く好奇心のまま、どこへでも行ってみれそうなところは朝乃とずいぶんと気が合った。
「えい! こうですか? どうでしょう?」
「悪くはないけど、ちょっとまっすぐすぎるかな。こうやってみたら、楽しいよ」
「楽しい?」
「うん、自由で楽しい!」
「! そうかも、そうかもしれません」
 知らないことを取り入れようとする朝乃は、まだまだ成長過程なのだろう。
「できました、できました!」とはしゃぐ様子を見ると、ランドウェラはなんともなくこちらまでうれしくなるのだった。
 ありがとうございました、とぺこりとお辞儀をされたのでお辞儀を返す。
「白斗にも報告をしないといけませんね、これは」
「よし、だいぶ頑張ったから休憩だ!」
「はい、疲れた時は」
「こんぺいとう!」
「よし」
……お兄ちゃんやお兄さんになったみたいだ。
 琥珀糖などもおいしい、と付け加えると、朝乃はにこにことうなずいたのだった。

おまけSS

「ランドウェラさん……ええっと、ロードはすごいです。何でも知ってて、お兄さんみたいです」
「仲良くなれたみたいでよかった」
 白斗の口ぶりは、少しばかり自慢げな様子だった。
 単なる依頼人とお手伝い、というわけでもなく……ほんとうに友達なのかもしれない。なかなか人と仲良くならない兄にしては珍しいな、と思うのだが、ランドウェラならうなずける。とてもいい人だな、というのが朝乃の実感である。
「でも、家族のことを聞くと、あまり答えてくれないんです。ウォーカーのみなさんってそうなのでしょうか」
「いろいろな事情がありますからね。……」
 珍しく歯切れの悪い様子の兄である。
「別に、その、……朝乃に会わせたくなかったとか、そういうことではないんですよ。本当にタイミングを逃していまして……」
「そりゃあそうでしょうけれど。でも、もっと早く紹介してくれてもよかったじゃないですか」
「……」
「まさか……数少ない友達をとられるのがいやだったとか、そういうことではないですよね?」
「はい。いや、そんなことは……」

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