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デイジーのおかげで宝くじが当たりました!
登場人物一覧
デレデレデレ↑(デイジーがドカンから上向きに出てきた音)
「ひょーっひょっひょっひょ! 間違えたのじゃ、はっはっはなのじゃ~!
画面の前の幻想ぱんぴーよ、毎日を楽しんでおるかの?
……ほほう、毎日がグレーでドンゾコで楽しいことなどな~んもないとな?
任せるのじゃ! 今からこの妾がお主の日常を征服してやるのじゃ~!」
フォッフォーウ! とか言いながら拳を突き上げて土管からジャンプするデイジー。
さあ始まるぜ、いろんな常識をぶっ壊して進むデイジー日常ショートショートだ! 振り落とされねえようにしがみついてろよ!?
●45歳幻想コンビニ店長
マジックフライヤーで鳥のもも肉を揚げる。
カウンターにやってきた横柄な客にいらっしゃいませと言いながら振り返る。
投げるように置かれたコインを拾い上げ、そろばんつきのレジスターボックスに通す。
のり弁ひとつとタバコを買うためだけに無言でやってきて、無言で帰る客。
一通り店内を歩いて好きあらば文句をつけてくるだけの客。
そして好きあらば棚の菓子を万引していく盗賊。
上位オーナーの貴族は無駄な仕入れを強要し、売れもしないオリジナル商品を棚へ勝手に並べていく。もちろんどちらも売れなければ自費負担。
夢を見て田舎から王都メフ・メフィートに上京してきた俺を待っていたのは、深夜に大量の弁当をごみ袋詰め続け朝までカウンターに立ち続け人に怒られ続けるだけの日々。
俺の人生、所詮こ――。
「テレテレテレーレテレテレレー!!」
ウェスタンドアを両手でバーンして突入してきたのはそう我らがデイジー!
オリジナル(誰がなんと言おうとオリジナル)の入店音をセルフで流すとくるくる回転しながら『オーナー貴族モンドモンのオススメラインナップ☆』とかいうゴミ棚にデイジーパンチ!
粉砕した棚から飛んでいった謎フィギュアがポテチを万引しようとしていた盗賊の後頭部にスパーキング!
無言でタバコの棚を指差して忖度を要求する横柄な客の後頭部にもスパーキング!
もっと弁当仕入れて俺の儲けを増やせよ損失が出るのは現場努力が足りないとかいうオーナー貴族にはタコ足スニーク移動からのデイジーバックドップ!
バックドロップ姿勢のまま振り返り、店長へデイジースマイルを浴びせた。
「のう店長よ。お主の人生が灰色なのはお主のせいではない」
「あ、あなたはデイジー! 『縁の下の力うどん』デイジー!」
「そう――妾に出会わなかったからじゃ!!!!」
ぴょいーんとジャンプするとデイジーが突如コンビニのフライドチキンをもぎ取って店頭駐車場へGO!
「みるがいい。いろんな都合からリミットされていた妾の本気!
道行くお主らよ! 妾はチキンが食べたいぞ!」
「「あ、あれはデイジー!?」」
「「『百人斬り斬り』のデイジー!!」」
「「買います!」」
「「チキン買います!!」」
コンビニの在庫にあったチキンが嵐でもきたのかってくらい唐突かつ大量に売れ尽くしていく。
とりまデイジーの前に俵積みされたチキンを見下ろし、デイジーは両手を広げた。
「よい行いじゃ、褒美をとらす! みなこのチキンを食うのじゃ!」
「「やさしい!!!!」」
実質自分で買って自分で食っただけだコレ! けどなんだろうデイジーを通すことですげー貢いだ気分がする!
「次は弁当じゃ!」
「「買います!!」」
コンビニの在庫を急にスッカラにした後、デイジーは貴族の懐から権利書をスッと抜き取ると店長のポケットにスゥっと差し込んだ。
「これからも妾を心の糧に生きるがよいのじゃ」
「イエス・マイ・デイジー!」
●31歳幻想漫画家志望
ホコリを被った原稿用紙。
長い間削られていない鉛筆。
四畳半の狭苦しい下宿の真ん中で毛布にくるまって小さくなっている。
若い頃は親からすごいかしこい天才だとおだてられ、絵の賞もとりクラスメイトに自慢もした。
大きくなったら漫画家になって新聞にも練達テレビにも出るとばかり思っていた。
夢のために王都へ出て、夢のためにアルバイトをして、夢のために漫画を書いて、夢のために出版社に持ち込む。
そんな日々は、一週間も続かなかった。
気づけば毎日バイトして、帰って、タバコを吸って寝て、またバイトに行くだけの日々。
原稿用紙に向かう時間は少しずつ減って、今は机のうえでホコリを被っている。
夜、真っ暗な部屋の中心で毛布にくるまると思う。
こうやって誰からも愛されずに終わるのか。
夢のふりをして、自分はただ怠けていただけじゃないのか。
こんな自分、生きている価値なんて――。
「サンタクロースなのじゃー!」
窓をクロスチョップでかち割って、デイジーがアパートの四畳半にリングイン!
「あなたはデイジー!? 『逆サンタクロース』のデイジー!?」
悪いけど明日のシフトあいちゃったからすぐ来てよとかいう手紙を持ってきた伝書鳩をデイジースローで投げ返すと、部屋の真ん中で丸まっていた男を掴んで窓からダイブ!
「お主の夢が叶わなかったのはお主が怠けていたからではない」
男を柱にくくりつけ、資本主義豚馬車で夜の街を爆走しながら、デイジーは両手を振り上げた。
「妾に出会わなかったからじゃ!!!! のう店長!」
「イエス・マイ・デイジー!」
吹き抜ける風!
振り返る人々!
鮮烈な存在。経験。そして輝き。
特別な能力や才能じゃない。
自由さと奔放さと、それを実行するという決断だけ。
その3つだけで、男の人生にかかっていたモヤが吹き飛んでいった。
「今日から妾の漫画を書くのじゃ。今22人の漫画家志望が妾を書いているから、今日からレースなのじゃー!」
「う、うおおおおおお! イエス・マイ・デイジー!」
自分をくくりつけていた縄をフンッつって引きちぎると、その場で男は漫画を書き始めた。
誰にではない。デイジーに届けたい。デイジーを笑顔にしたい。その方法はなんだ。どうすれば笑う。なにを感じれば笑う。集中しきった男は馬車に踊るデイジーの漫画をナイフで書き付けていた。
「夜は長いぞ! 今日は港をドライブじゃー! のう店長、漫画家、豚ァ!」
「「イエス・マイ・デイジー!」」
箱馬車の屋根に飛び乗り、踊りだすデイジー。
夢を載せているんじゃない。
乗っているデイジーこそが夢なのだ。
いや、人はみな、本当は夢そのものなのだ。
デイジーを鏡にすることで、それに気づけるだけのこと。
「走れぃ!」
明日の空を指差すデイジー。
軽快なギターソロが始まり、止め絵が引いていく。
両脇を走るベースとドラムが演奏に加わった途端、柱にくくりつけられたボーカルが歌い出す。
さあみんなも一緒に歌おう!
アスファ――(文字数)