PandoraPartyProject

SS詳細

黄金蟲。或いは、レアエネミーを求めて…。

登場人物一覧

ロード(p3x000788)
ホシガリ

●黄金蟲
 深い深い森の奥。
 1歩、1歩と少年が進む。
 褐色肌に灰色の髪、サングラスで瞳を隠した少年の名はロード。
 レアエネミーを求め、彼が単身森へと乗り込んだのは、今から数時間ほど前のことだ。
「これじゃねぇ」
 そう呟いて、ロードは手にした虫を見る。
 翅を摘まれ、バタバタと藻掻いているのは黄色と黒の体色をした大きな蜻蛉だ。じぃ、と蜻蛉を細部まで見て、ロードは1つ、溜め息を吐いた。
 翅から指を離した途端、蜻蛉はばたばたと飛び上がる。ひと際大きな、それを捕まえて帰れば子供たちから羨望の目で見られることは間違いのないサイズの蜻蛉ではあるが、生憎と今回のターゲットではない。
 風を切って、空高くへと飛び去っていく蜻蛉を見送り、ロードは足を先へと進めた。

「……み、見つからねぇ」
 額に滲んだ汗を拭う。
 ここ数十分ほどは、レアエネミーどころか通常のモンスターにさえ出くわしていない。ただ移動するだけというのは、存外にストレスが溜まるのだ。
 サングラスを外し、近くの岩へ腰を下ろした。
 それからロードは顔の前で手を振ると、ステータスの画面を開く。
 空中に素早く指を走らせ、今回のターゲットについてを検索する。
 ターゲットの名前は“黄金蟲”。
 暗い森の奥に住む、拳サイズの蟲のモンスターである。
 黄金蟲の戦闘力は非常に低く、移動速度も並み程度。しかし、生命力、防御力に長けた非常にタフなモンスターだ。そして、何よりドロップアイテムである“黄金蟲の亡骸”は、同重量の金塊よりも高く売れる。
 しかし、その入手難度は困難を極めるとされていた。
 黄金蟲を倒しあぐねている間に、付近のモンスターが集まって来るという性質を持っているため、ドロップアイテムの回収が難しいのだ。それでも欲をかいて黄金蟲を捕えようとすると、いつの間にか自分の方がロストする。
 そう言った事例が相次いだこともあり、ついたあだ名が“金色の死神”。または“欲深滅殺装置”である。
「そして何より、詳細な姿形も不明……と」
 モンスター図鑑に掲載されている黄金蟲の姿は「?」となっている。つまり実際にエンカウントしない限り“黄金蟲”がどのような見た目をしているのかを、知ることは出来ないというわけだ。
 そういった情報の少なさも、捕獲難度の高さの一因となっていることは想像に難くない。実際、ここしばらくの間に黄金蟲を捕獲したという話は聞かないし、ドロップアイテムにしても、運の良いプレイヤーが“偶然”に手に入れることがほとんどだという。
「たぶん名前の通り金色の蟲なんだろうけど……もしかして“金色の蟲”ってだけで、決まった姿形は持っていないのか?」
 奇妙な話だが、何しろ相手は生命体の枠組みに収まらぬモンスター。常識で考えることが、そもそも間違っているとも言える。例えば、先ほどロードが捕まえていた蜻蛉にしたって、あれは小鳥程度なら、襲って捕食するほどに狂暴な小型の魔物だ。
「頑丈とは聞いているが……」
 思い出すのは、道中に遭遇した芋虫の魔物。見た目は巨大芋虫といった体だったが鋼のように硬かった。
 非常に頑丈ということで、てっきりカブトムシのような甲虫をイメージしていたが、必ずしもそうとは限らないのかもしれない。
 ここまでの道中、ロードはずっと樹の幹を調べながら歩いて来ていた……ともすると、それがそもそも間違いだったのだろうか。
 例えば“黄金蟲”が百足のような姿をしているのだとすれば、視線は樹上では無く足元へ向けるべきだろう。
 蜻蛉のような姿であれば、見るべきは空だ。場合によっては、そこらに転がっている石や倒木の下に隠れているということもあり得る。
 なるほど、レアエネミーというだけあって発見するのも一苦労だ。
 持参した水を口に含んで、ロードは岩から腰をあげる。水と食糧の備蓄はまだ幾らか残っているので、補給に戻らなくてもあと半日か、上手くすれば夜明けぐらいまでは探索を続けられるだろう。
「っし、行くか。捜査の基本は足って言うしな」
 地図を開いて現在地を確認すると「よし」と一言、森の奥へ向かって歩き始めたのだった。
 そんなロードの頭の上を、大きな蝶が飛んでいく。
 黒い鱗粉を撒き散らす、闇色をした蝶だった。
「……見たことのないモンスターだな。まぁ、襲って来ないなら倒す必要もないか」
 未確認のモンスターに迂闊に手を出したことで、酷い目にあったという話はよく耳にする。対抗手段も不明な敵には近寄らないのが賢明だ。
「これ見よがしに鱗粉を撒き散らしやがって。あれ、毒とかそういうのだろ」
 なんて。
 そう言って、ロードは蝶から視線を逸らした。

 その背後では、すべての鱗粉を撒き散らし終えた蝶がひらひらと舞っている。
 黒い鱗粉をすっかり失ったその翅の色は朝日よりも眩い“黄金”。
 “黄金蟲”はその名の通り金色だが……いつ何時でも、そうであるとは限らない。

  • 黄金蟲。或いは、レアエネミーを求めて…。完了
  • GM名病み月
  • 種別SS
  • 納品日2022年10月16日
  • ・ロード(p3x000788

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