PandoraPartyProject

SS詳細

進む時の音色

登場人物一覧

ギルオス・ホリス(p3n000016)
ハリエット(p3p009025)
暖かな記憶


 ――時は進む。砂が、滑り落ちる様に。


 ギルド・ローレット。此処には数多の情報が集まってくる。
 連日連夜の依頼に対応する為だ――
 あれは正か。それとも誤か。
 それらを情報屋は精査せねばならぬ。
「……大変だね、情報屋って」
「でも今の内に慣れておかないとね。なぁに一人で全部やる訳じゃないんだ――
 少しずつ。一件ずつ片付けていくとしよう」
 語るはギルオスとハリエットである。
 ローレットの一室で資料を片付けている二人――ハリエットは情報屋見習いとして時折ギルオスと共に動く事があるのだが今日もまたその一環だ。多くの字が書かれている資料と睨めっこを続けるハリエットは額に熱が溜まりそうだが頑張っている。
 一刻、二刻――時計の針が過ぎて往く。
 次なる紙に目を通し。把握し別けてを繰り返し、そして。
「――よし。ひとまず届いてる情報はこの辺りかな……
 でもこの『猫探し』の依頼はもう少し詳しく調べておく必要がありそうだね」
「うん。パッと見は普通の、迷子になった猫探しだけど。
 目撃情報の場所って魔物が出るって話があるよね」
「お。よく覚えてたね――うん、その通りだ。もしもその辺りの区画に迷い込んでいるのだとすれば、イレギュラーズに案内する時に準備やらが必要になりそうだからね。この辺りがどうなのか……明日にでも調べに行こうか。そうだな朝の10時ぐらいにでもどうかな」
 ギルオスは一つの依頼情報の、より深き調査を決めるものだ。
 それは幻想のとある貴族からの依頼――大事に育ててる猫ちゃんが突如、お屋敷から脱走してしまったらしい。だから探してくれと、それだけならまぁ普通の捜索活動に留まるのであろうが……しかし情報屋の活動として数多に触れている者からすると別。
 猫の行方が完全に不明になった地点のすぐ傍には――幽霊屋敷と呼ばれる場所があるのだ。もっぱら魔物が出ると噂の……そこに迷い込んでいる可能性が高ければ戦闘も必至。
 只の猫探しか。それとも危険地帯へも赴くのか。
 情報屋として適当な情報は出せぬ――故にまずはハリエットと共に調査へと往こうか。
「えぇと……朝10時だね、うん。分かった」
「――うん? どうしたの?」
「えと、いや、その、ね」
 が、ハリエットがどこか口ごもる。
 どうしたのか。疑問に思ってみれ――ば。

「ないんだよね、時計」

 一拍。間を置いてからハリエットが――紡ぐ。
 時計が無い、と。どこか申し訳なさそうな、表情と共に。
「えぇ、ホントかい? 今まではどうしてたの?」
「ローレットの備え付けの時計とか……後はお日様とか見てればなんとなく、分かるし」
 今までは持っていなかった。おおよその時間さえ分かれば十分だったから。
 だけど明確に時間を意識するとなればそうはいかない。
 時間厳守。守れないとは思えないが、万が一を考えると――彼女の心中のどこかに不安の種が芽生えるものだ。『誰か』ではなく『彼』との約束であれば、こそに。
「そっか――持っていた方が便利だけどね。
 いや待てよ……そうだ。なら僕のをあげようか」
「――えっ?」
「はい。これ、懐中時計だよ。知ってる?」
 と。困惑気味のハリエットに差し出されたのは懐中時計。
 手回し式のハンターケース――つまり風防(蓋)があるタイプである。竜頭を押せば開きて文字盤と共に、針の動く様もしかと窺えるものだ……外面を観察してみれば長年使っているのだろうか、時計を覆う黄金色には鈍りがある。
 だがそれは時の重なりによる当然の劣化であって粗雑に使った結果ではなさそうだ。
「これは練達で売ってる様な電池じゃなくて、手回し式ってタイプでね……大体一日に一回ぐらいかな、この竜頭の所を回してやる必要があるんだけどね、慣れてくると日常の一環になるよ。今から回せば明日までは余裕で持つだろうから、試してみるといい」
「いいの? でもこれ、ギルオスさんが使ってたんじゃ……」
「いいんだよ。きっと、僕よりも君の方が必要になるだろうしね」
 耳を澄ませば聞こえるは、中に仕掛けられているゼンマイの音色か。
 電池式と手回し式が異なるのはソコにある。電池式は電池が切れるまで一定で動き続けるが――手回し式はゼンマイの巻き具合で微妙に異なるのだ。巻かねば微妙に速度が弱くなり、やがては動かなくなる。まるで生き物のように。
 ……だからこそ懐中時計には日常的に意識を向ける度合いが、通常のよりも強くなる。
「時計を見る事に習慣付くんじゃないかな、きっとね」
「うん――ありがとう。大事にするね。でもこれって、元々はどこで?」
「あぁ。それ自体はね、僕がこの世界に来る前からの持ち物なんだよ」
 と、刹那。
 ハリエットがなんとなく問うてみれば――これは、彼の世界からの持ち物?
「まぁ。よっぽどの貴重品と言う訳じゃないけどね。
 市販品の一つだよ。混沌の世界でも似たようなのがあった気がするなぁ……
 だから、あまり気にせず君の儘に使うといい」
「でも本当にいいの?」
 彼は、そう言うけれど。いいのかな、と。
 そんな大事なものを――貰ってしまって。
 似たようなモノがあるといっても全く同じモノはない筈だ。
 過去の、想い出などがあるのではないか――と。
「時計は必要な人に使われてこそ、だよ」
 だけれども。ギルオスはハリエットに託す事に躊躇はない。
 ずっと使い続けていた懐中時計。一日に一度程度、ルーティンの様に手入れしていた。
 竜頭を回す度にそれだけ時間が進んだのだと感じれば。
 自らの成長をも――どこかに感じたものだ。
 瞼の裏にすら思い出す景色が幾つかある。竜頭を回す感覚と共に。
 ……だからこそ彼女に託そう。
 情報屋を目指すのならば。君にもいつか、僕と同じ感覚を知ってほしいから。
 大事なモノだからこそ託すのだ。
 君の中にも確かなる過去が蓄積されているのだと――いつか知ってほしい。
 僕はもう、十分以上にその感覚を味わったから。
 次は君の番だ。
 僕の後ろをずっと付いて来てくれる君への、祝福になればいいのだけれども。
「君ならいいよ。きっと大事にしてくれるだろうしね。
 ……あっ。そういえば誕生日が近いんじゃなかったかな?
 はは。なら――ちょっと早いけれど誕生日プレゼントになるのかな」
「――覚えててくれたんだ」
「そりゃあハリエットの事なら、ね」
 『わっ』と。ハリエットが声を零したかと思えば、ギルオスが彼女の頭に手を重ねて撫ぜていた。自然なる行為。『時計の価値とかは気にしなくていいんだよ――』という意味だったのだが、どこかハリエットの頬に熱がこもった気もする。
 ……あぁ。君はその音色と共に、何を知るのだろうか。
 確かな事は一つ。この時計の音色を知るのは、彼と貴女だけ。
 立派に夢を叶えてほしいと貴女に託された想いが――其処にあるのだ。

 ……時は進む。砂が、滑り落ちる様に。

 だけれども砂は無為に帰す訳ではなく溜まり往くのだ。
 縁(えにし)の色が混ざり合い、色が付いて。
 蓄積されゆく砂の色が――人生を彩っていく。
 人々は生きている。
 逆しまにならない、砂時計と共に。

 あぁ今日もまたゼンマイが回る。

 君の世界が彩られていく。その一助になる事を――願っている。

  • 進む時の音色完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2022年10月13日
  • ・ギルオス・ホリス(p3n000016
    ・ハリエット(p3p009025

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