PandoraPartyProject

SS詳細

求めよ、さすれば――。

登場人物一覧

ロード(p3x000788)
ホシガリ

●おにごろし。
 そのエネミーが出る、と聞いたのは、どれほど前だったか。
 各所で時折遭遇できる、ちょっぴり珍しいNPCからの話をつなぎ合わせて謎解きした結果
「決まった時点にとあるエリアに出向くと、エリアボスが出てくるらしい」
「そのエリアボスの中に、ごく低い割合で、レアエネミーが混ざっている」
 という結論にたどり着いた。
 だが、その割合というのがどうやらかなり絞ってあるらしい。何度討伐しても、レアエネミーは出現しない。
「あー……もー……」
 ロードは深い溜め息をついた。
「やってらんないよ」
 幼子よろしく足をぶらぶらさせて、岩の上で溜息をこぼす。石像たちがぐるりと円を描いた「いかにも」ボスが出てきそうなエリアだ。
 討伐で得られる報酬は美味しいものだが、周回するには骨が折れるのも事実だ。
「レベリングすればいいのかな……でも推奨難易度はそこまで高くないし……」
 立ち回りを工夫すべきなのか。それとも積むスキルを考え直すべきなのか。刀に乗せたプログラムを何度も組み直し、あるいは、ちょっとしたアイテムを交え。ロードの試行錯誤は研鑽となり、来る日も来る日も鬼を切り倒す少年の姿は、やがて、プレイヤーの間で、ちょっとした話題に登ることになる。
「毎日エリアボスを倒すプレイヤーがいる」「RTAでもしてるのか、少しずつ達成時間が短くなってるんだ」「次は何をする気なのか見てて面白い」「アイテムの使い方も独特だ。あんな方法があるんだって気付かされた」
 噂が噂を呼び、いつの間にかロードは『孤高のRTAプレイヤー』となってしまっていた。だが、本人の目的はあくまでレアエネミーだ。自分が見かけた人間が何を言おうが何を考えようが、ひとまずは一旦、右においておくことにする。
(暗号の解読が違った? それとも、座標がずれてる?)
 ロードがあれこれ試し続けるうち、とうとう、ロードと鬼の戦いを見に、ギャラリーが集まるようになった。初めは物好きなプレイヤーが数名。翌日は、そのプレイヤーたちが噂を広め、別のパーティーが数組。その翌日は……、といった調子で、ねずみ算よろしく増えていく。
「……いや」
 集まった外野の数に、ロードはさすがにひくりと頬を引きつらせた。困惑するロードに構わず、元気なエールが飛び交う。
「頑張れよボウズ!」
「昨日は良かった! あれならあと3秒は縮むぜ!」
 目的も知らずに好き勝手に、だが暖かなエールを送られて、ロードは困ったように頭をかいた。
「んー……まぁ、悪い気はしないけど」
 今日も今日とて、鬼が現れる。見慣れた演出、いつもの効果音と、硬直。同じものを何体も何体も斬り伏せ続けてきたせいか、ロードの身体はもはや思考の域を出て動くようになっていた。予備動作を完全に読み切り、エネミーの背後を取る。範囲攻撃はうまく退避してかわし、攻撃後の硬直を見逃さずに急所を狙っていく。
「いいぞ!!」
「やっちまえ、そこだ!!」
 ギャラリーから歓声がわく。こうなると、ちょっぴり楽しくなってきてしまうのが気まぐれ人間だ。熱しやすく冷めやすい。降りやすい分、乗りやすい。
「ふはっ」
 小さな笑みをこぼすと同時に、身体がふわりと軽くなるのを感じた。ただの作業に思えていた討伐に、手応えすら感じるようになってくる。
 討伐を終えると、観客から歓声が上がった。タイムがまた縮まったらしい。
「今日もすごかった!」
「なんだかやる気出ちゃった〜!」
 ギャラリーのエールに、ロードは少し照れた様子で、手を振って応える。レアエネミー探しの旅で、ここまで称賛されるなど思ってもみなかった。
(変な感じだけど悪い気はしない……)
 そんなロードの肩を、ぽん、と、とあるプレイヤーが叩いた。
「もしかして君って、レアエネミー探しの子?」
「え、俺を知ってるの?」
「まぁ風のうわさ程度にね」
 人の良さそうなプレイヤーは、少し眉根を寄せた。
「ここから出るエネミーとエンカウントしようとしたんだろ?」
「そう、そうなんだよ!」
 初めて得られる情報に、ロードは目を輝かせた。
「俺の攻略、合ってる? 何度も挑むのに全然出ないから不安になってきて……」
「あー……」
 プレイヤーは、気まずそうに頭をかいた。
「実はあの謎解き、まだこのゲームが運営されてた頃期間限定イベントで実装されたNPCが、バグで恒常化しちゃったものでね……。ここのレアエネミーは、とっくの昔に排出が0になってるんだ」
「……え?」
「君みたいなRTA勢が、時々来るぐらいで」
 ロードは耳を疑った。プレイヤーは、ぽんぽん、と、ロードの肩を叩く。
「あぁでも、もう何体か倒したら称号が手に入るかも知れないから、頑張ってみるのも良いかも……しれないね……。はは」
 それじゃあ、とその場を去るプレイヤーに、『おにごろし』の称号が付与されているのを見て、ロードは思わず、天を仰いだのだった。

  • 求めよ、さすれば――。完了
  • GM名三原シオン
  • 種別SS
  • 納品日2022年10月14日
  • ・ロード(p3x000788

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