SS詳細
エンカウントチャレンジ~強敵の真相~
登場人物一覧
木々の生い茂る森の中を、ロードは飛行を駆使して動き回る。ロードめがけて飛んできた攻撃が頬を掠めるのを気にせず、敵へと接近すると、ロードは得意の斬撃をその首に浴びせる。しかし、敵の皮膚は思いのほか硬かったらしく、刀は途中で止まってしまった。
ロードはすぐさま敵から距離を取ると思考を巡らせる。倒せば膨大な経験値が入るというレアエネミーの捜索、それが今回の目標だった。そして、目の前の敵は今まで見たことがなく、尚且つ強い。こいつこそレアエネミーだと判断するのに数秒もかからなかった。
まるで岩のような皮膚を持つ巨大な獅子。その鬣は思わず目を奪われるほどの金色だった。攻撃においては、その体躯を使った接近戦と高音のブレスによる遠距離攻撃を合わせ持つ。
まさしくレアエネミーにふさわしい強さだとロードは一人頷く。サングラス越しに敵を見るその目はやる気で満ちていた。
敵は前足を上げるとロードに向かって叩きつける。固い皮膚は防御だけでなく攻撃においてもその真価を発揮する。直撃すれば巨大なハンマーで叩き潰されるような衝撃が襲い掛かるだろう。
ロードは素早く足の下を潜り抜けると、真上に来たその腹へ向かって刀を突き刺した。腹などの部位は守りが薄いのはよくあること。ならば試さない手はない。
しかし、その読みははずれ、刀はやはり途中で止まってしまう。
「硬いな!」
背の低いことが幸いし、小回りが利くため敵の攻撃を避けるのは簡単だ。しかし、相手の防御を崩さなければ勝機はない。勝負をかけるならば体力のある今だ。
ロードは敵に接近しながら細かな傷を与えていく。予想通り敵は痺れを切らしたらしくブレスの予備動作に入る。それこそがロードの狙いだった。
ブレスを吐くまでにはタイムラグがある。その隙をついて、ロードは最初に攻撃を当てた首に再び迫る。一度で切れぬならば同じ場所をもう一度切る。プログラムを乗せた白い刀がとうとう敵に致命の一撃を叩き込んだ。
「よし!」
ロードは手を握りしめると、メニューを開いて自身に入った経験値を確認する。噂通り大量の経験値が入っているのを確認し、ロードは歓喜する。
今まで何度もレアエネミーを倒そうと足を運んできた。しかし、その度に見逃しを繰り返し、悔しい思いをしてきたのだ。そんな中でのレアエネミーとの戦闘と討伐。この念願の討伐でロードが上機嫌になるのはもはや必然と言えた。
ロードは満足感と共にその場を後にする。だが、それがロード一番の失敗だったといえる。
ゲームでの定番、ドロップアイテムの回収。上機嫌になり満足してしまったロードの頭からその言葉は完全に抜け落ちていた。
ロードがその場を去って数秒後、レアエネミーだと思われていた敵から煙が立ち、しだいにその姿が縮んでいった。そして硬い皮膚を持った獅子はよくいるネコ系のエネミーへと戻っていく。
その拍子に金の鬣は外れ、地面に転がっていった。ロードは知る由もなかった。レアエネミーの正体がとあるアイテムであることなど。
●数日後
レアエネミー出現の情報が挙がってからしばらく経ち、討伐したと名乗り出る人もぼちぼち出てきた。
レアエネミーはロードが戦ったときと同様でかなりの強さであり、出会ったからと言って必ず倒せるわけではないらしい。
故にここ最近では討伐成功者が自慢話をする光景がよく見られていた。
ロードはそんな自慢話に意気揚々と入っていく。他がどうであったか興味があったのだ。
「いやぁ、ほんと強かった。亀みたいな見た目しておいて滅茶苦茶速いんだぜ!」
輪に入り聞こえてきた会話にロードは首をひねった。
話を聞いた感じ金色の鬣だけは共通していたが、他は何もかもが違った。見た目も攻撃パターンもまるで共通点がない。
「あれー?」
頭の中に一瞬疑問が浮かぶ。だが、その疑問は、レアエネミーなのだからそういうこともあるという答えに行きついてすんなりと奥に引っ込んでしまった。
ロードは手に持ったプリンにスプーンを入れると一口頬張る。
甘みが口の中に広がり、疑問を感じたことさえも頭からこぼれ落ちる。
「にしても、このレア装備すごいんだぜ! 着けてるだけで討伐した時の経験値が上がるんだよ」
どうやら途中で討伐から話が変わったようだ。男は自慢げな笑みとともに金色のブレスレットを聴衆たちに見せつけた。
「見たことないアイテムだな」
そんなアイテムもあるのかとロードは感心しながらは呟く。そしてまた一口プリンを頬張った。
やはり頑張ったあとのプリンは格別だ。次はあれをゲットするために頑張ろうか。
そんなことを考えながらロードは男の自慢話に耳を傾けるのだった。