SS詳細
男たちのレアエネミー物語
登場人物一覧
希少価値が高いほど、その存在を見てみたいと思うもの。
図鑑に記載され、誰もが見たことのないという記載があれば、その心はより一層深く落ちる。
アイテムや食べ物はもちろんのこと、エネミーだって会ってみたい。
これはレアエネミーに会いたくて会いたくて震える男達の物語。
冒険心が高まった彼らは、レアエネミーを探すべく森の奥へと突き進むのだ。
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「ということで、レアエネミーを探そう、エーミール!」
「そうですね。あんまり無理しないでくださいね、ロードさん」
ROO内のとある街で合流し、早速「キラキラヘビ」と呼ばれるレアエネミーがいると言われている森へとやってきたロードとエーミール。
2人はROOの外では共闘したり、お菓子(仮)を作ったりとそこそこ仲が良いため、今回の件もロード側から『手伝って欲しいんだ!』とお願いされてエーミールもお手伝いに来ていた。
「例の事件が終わった後、あんまりログインしてなかったのでお誘いいただけてよかったですよ」
「お、そうか? じゃあ、今回たっぷり手伝ってもらわないとな!」
「うーん、お手柔らかに。ところで今回の目的は?」
「っとと、そうそう。キラキラヘビっていうレアエネミーがいてさ……」
今回探し出す目標のキラキラヘビについて、ロードはエーミールにいくつか情報を提供しておいた。
キラキラヘビの情報としては『ゴールドや経験値ががっぽり稼げる』、『固くて武器が通らない』といった噂話程度が流れるぐらいで、目撃情報に関しては森でしか出会えなかったそうだ。
森の外に出ないというのは蛇の生態ではあり得るので解釈は一致するのだが、キラキラするという点だけはどうしても解釈がいくつも分かれてしまっていて正しい情報が流れてこないという。
「と、言いますと?」
「体積の表面を粘液で纏うからキラキラなのか、それとも鉱石か何かがくっついてキラキラなのか……。実際に出会った人ってのが少なくて、モンスター図鑑にもあんまり載ってないんだ」
「ふむ……。確かに名称だけではどうキラキラしているのかわかりませんし、どの解釈も当てはまるという形ですねえ……」
ちらりとエーミールの白眼がロードから外れ、大きな蛇に移る。大蛇は通行したいのだけど、2人がいるからと通れずに首をうろうろさせていた。
その様子に気づいたエーミールはロードに声をかけ、大蛇が通れるように道を少し逸れていく。通れるようになった事に気づいた大蛇は首を上下に動かし、お礼を言うような仕草をして先へと進んでいった。
「あのヘビもキラキラしているよなぁ」
「キラキラしていますねえ。でもこんな森の入口付近に現れるとは思えないんですよね」
「レアエネミーだもんな」
「レアエネミーですからね」
希少価値が高いからこそ、絶滅を防ぐために奥まった場所でひっそりと暮らしているほうがよりそれっぽいよね、というちょっと冒険心がくすぐられる考えが2人に広がる。
むしろキラキラヘビという名前だからこそ、宝物のように扱っていて欲しいとはエーミールの言葉。人々に認知されながらも、でもちょっと宝物っぽい感じがそれっぽさもあると。
右へ左へ、そんなことを語りながら森の中を進む2人。道中いくつかの動物が襲いかかってきたので、2人で揃って倒してドロップ品を目印に先へ進んだ。
●
「あだっ!?」
突然、エーミールが小さく悲鳴を上げて地面とキスをする。
何事かとロードが振り向いてみれば、彼の頭の近くには硬そうな木の実が転がっており、どうやら彼はこの木の実が落ちて頭を打ったようだ。
こんなに硬い木の実が勝手に落ちるなんて……と頭上を見上げてみると、わずかにキラキラと輝くヘビが木に巻き付いている。木の実を取ろうとしたが、取ろうと齧った瞬間に木から外れてしまい、エーミールの頭の上に落ちたのが真相のようだ。
「エーミール、あれ見て」
「うう……って、あれもキラキラしてますね? もしかして……?」
「でも、エネミーってほどの大きさが威厳がないよね。動物かな?」
「そうですねぇ……先程の通りがかりの大蛇のほうが、よっぽどエネミーっぽさはありましたよね」
流石に木に巻きつけるほどの大きさなら、エネミーと呼ぶほどではないだろうと2人はその場を後にする。
2人が考えるキラキラヘビは自分達ほどの大きさがあって、もう少し獰猛な感じを想定しているようだ。
そんな獰猛な大蛇が出たら間違いなくクエスト討伐対象になるはずだが、まあ、レアなので誰も見つけられてないから討伐対象にならないんだろうぐらいにしか考えていなかった。
あっちこっち、そっちどっちと森の中を歩いて1時間が経過。ROOログインのメッセージにも、1時間経過の知らせが出てきているが……キラキラヘビは見つからない。
もうそろそろ出てきてもいい頃だが……と考えている矢先に、目の前に大きな蛇が現れて2人に攻撃を仕掛けてきた。
「うわっ!?」
「わぁ!?」
大きな口を開けて噛みついてこようとする大蛇をよく観察してみる2人。
先ほど出会った大蛇とは違い、獰猛で、少し表面がキラキラしていて、奥地に住んでいるヘビだ。
まさしく2人が考えるにふさわしい、キラキラヘビの様相。とうとう出会えたんだと感動する反面、生きて帰るためにはこのヘビをどうにか気絶させて離脱する必要がある。
「出会えたのはいいけど!」
「戦うのは想定外ッ!!」
「エーミール、脱出の準備は!?」
「いつでもOK!!」
2人は得物を構え、大蛇に立ち向かう。
せっかく出会えたレアエネミーだが、ここで死ぬのはちょっと勘弁してほしい。ということで倒さない程度に戦って、隙を見て逃げ出した。
●
「あ、あぶね~……」
「エーミール……大丈夫……?」
「な、なんとか……ロードさんは?」
「HPが結構削れた……」
森の入口までなんとか逃げ切った2人。これで未発見のモンスター図鑑にキラキラヘビが埋まったことだろうと、ちょっとプログラムを開いてモンスター図鑑を開いてみる。
このモンスター図鑑は出会っていないモンスターは真っ黒に表示されるため、キラキラヘビと出会ったかどうかがわかる仕組み。
先程出会って死闘を繰り広げたヘビを探していみると……。
「……あれ?? さっきのヘビの名前、違うんだ……」
先程死闘を繰り広げたヘビはキラキラヘビとは違った別のヘビだったようで、がっくりと肩を落としたロード。
その中身を隣で見ていたエーミールも、少しだけ残念そうな声を上げていた。
「うーん、やっぱりレアだからかなぁ。もうちょっと範囲を広げる必要がありそうだよね」
「そうですねぇ……ここまで来ると私も、どんな姿なのか見てみたくなりました」
「じゃあもうちょっと付き合ってよ。時間あるよね?」
「大丈夫ですよ。暇ですし、眠くなるまでお付き合いします」
「よしきた」
一時休息を取り、再び2人は森へと歩き出す。
今度はその姿をこの目に焼き付けてやると、闘志を燃やして。
……しかし後日、彼らは真実を知る。
ちょっぴり残酷だけど嬉しい真実を。
おまけSS『実は……』
数日後。
エーミールとロードはもう一度気になって、情報を調べて回ってみた。
いくらレアエネミーだからといっても、エーミールのアクセスファンタズムがあると言っても、出会わないわけがないだろうと。
もう一度モンスター図鑑を調べ直したロード。
ふと、以前見られなかったページも見れるようになっていることに気づいたので、見れるようになったページを一気に読んでいく。
「……んぇっ!?」
変な声を上げて驚くロードの視線の先には、キラキラヘビの詳細情報。
実は彼らが森の入口で出会った大蛇こそがキラキラヘビだったというのだから、驚きが隠せない。
「うわぁ~……やっちまったぁ……」
あの日なんでちゃんと見ていなかったんだろうと後悔を頭に抱えたロード。
自分達のレアエネミー像を押し通さず、もうちょっと大蛇を見ていればよかった、と。
この情報をエーミールに伝えた時、彼も同じように頭を抱え込んでしまったそうな。