PandoraPartyProject

SS詳細

オアシスのみずあそび

登場人物一覧

ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
ソア(p3p007025)
無尽虎爪

 『雷精』ソアは徒歩で進んでいた。
 普段ならぴょこぴょことはずむように歩けるのに、今日はほんのちょっとだけ足取りに元気がない。長いしっぽも垂れ下がりぎみだ。
 なぜかというと、とっても暑かったのだ。
 ここはラサの砂漠。一応村に近いので、熱砂というほどの暑さからは抜け出している。しかし、そもそもが焼け付くような暑さの土地。日影になるようなものがあまりない。更には空に雲ひとつもなく、太陽はまばゆく輝くみごとな晴天の日だ。
 これはしっぽだけではなく、三角形のふわふわ耳も垂れ下がるしかない。
(やっぱり暑いなあ)
 う~んとうなっていると、優しげな声がかけられる。
「大丈夫?」
 話しかけて来たのは金色の髪を編み込んだ華奢な少年。彼は『未知の語り部』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ。今回ソアが参加したネクベト討伐戦のメンバーだ。
「大丈夫! でも暑いのは暑いよ!」
 はは、とウィリアムは笑った。
「ほんとうに暑いよね。でも、無理はしすぎないで。倒れそうになる前に絶対僕に声をかけて」
 年不相応な穏やかな声。それもそのはず。彼はハーモニアの青年で見た目こそ十代後半といったところだが、実際は年齢を忘れるほど長く生きているらしい。
 しかしそれはソアの方も同じ事。ソアは虎のグリムアース、若い娘の姿をしているが実際はとても長い時間を生きていた。
「でも、今回は大成功でよかった!」
 今回――それは二人が今砂漠を進んでいる理由だ。ラサの砂漠にて魔物ネクベトの討伐と発生原因の調査。仕事はすこぶる順調に進み二十五体ものネクベトを討伐したばかりか調査も成果を上げた。イレギュラーズは馬車に乗った。
 ソアもウィリアムももちろん乗りこみ、行きと同じような、しかし成功に満ち足りた雰囲気の馬車で帰路についていた。
 ところが行きより荷物が多くなるのが帰りというもの。
 なんだかんだと詰め込んだら馬車は一杯になり、更にはその速度も落ちていった。
 そこでソアは、
「あ! じゃあボクが歩いていくよ! あとちょっとなんだろ。砂漠、もっと歩いて見てみたいなーって思ってたんだ!」
 と言うが早いが馬車を飛び降りたのだ。村までは残り少し。歩いてもそう危険なことはない。
 そして放浪癖があるウィリアムが追従した。彼は清潔な水を取り出すことができるので、日干しになることもない。
 二人は仲良く砂漠を歩いていた。
「暑いけど、砂漠も面白いんだ! ボクは森と人がいっぱいいるところが好きなんだけど、普段見れないものが見れて楽しい」
 暑さを避けるための布をぎゅーと掴んで深くかぶり直した。日差しが強いので直接当たるのは危険。でも、こうしていると少しだけ涼しくなったようだった。
「いろいろな土地をみれるのが旅の醍醐味だよね」
 ときどき興味深げに足を止めながら二人は進む。
 そんな時だった。
「ねえねえ、木があるよ!」
 ソアの目に木が映った。一本だけではなく、複数。
「ほんとだ。村にはもう少し距離があったと思うけど」
「来る時はあんな場所なかったよね?」
「行くときは砂漠を突っ切って行ったからかな。ソアはよく見つけたね」
 えへへ、とソアは照れる。
「ねーねー、行ってみようよ!」


 近づくにつれてその場所はきらきらと光った。
――オアシスだ。
 周りには木が生え、まばらながらも草におおわれている。もちろんその中心には水が溜まっている。
「すごーーい! お水だお水だ! やっほー!」
 その言葉が言い終わるかどうかの間に水しぶきが上がった。ソアがじゃぶじゃぶとオアシスに入っていたのだ。ちなみに水の深さは膝上だ。
「は、はやいですね」
 灰色の瞳を丸くして、ウィリアムはソアを見た。
「ねえねえ! 見てて!!」
 と、ソアが飛び跳ねる。
 しなやかな虎の足が水面から飛び上がる。そしてソアは両足をそろえ降り立った。大きな波紋が広がる。
 パチパチ、と拍手が上がる。
「えへへ、ウィリアムくんも入ろうよ! すごい冷たいんだ!」
 ソアの両耳がぴょんぴょんと揺れた。
 愛らしいスカート――ソアは人間の作る服をこよなく愛していたので、今日ももちろん動きやすい範囲で着飾っている――をたくし上げて水浴びをしている。
 一歩踏みしめるたびに水にさらされた砂の感触が気持ち良い。ふわふわの毛でおおわれた足が水まみれになっている。
 と、ニコニコと楽しそうに返事をした。ウィリアムの編み込まれた長い髪がオアシスの風にそよいでいる。
 陸地にいたウィリアムも等々靴を投げ出す。被っていた日除けのコートも草の上だ。
「あ、ホントだ。裸足だとすごい冷たいな」
「でしょー!」
 ソアはにこっと白い歯を見せて笑い胸をはる。
「よし、何する? 水掛け合戦?」
「えっ、それはまだちょっと自信がないな」
 と、ズボンの裾を一生懸命まくりあげてウィリアムが答える。
「仕方がないなー。それにしてもきれいな場所だねっ!」
 ソアは銀の森に長い時間、それはもう信じられないくらい長い時間暮らしていた精霊だ。
 だからだろうか。
「ボク、木があるとなんだか落ち着くんだ!」
 うーーんと、オアシスの空気を吸う。
「わかるなあ。僕も森育ちだから木があるとやっぱり落ち着くよ」
 ウィリアムも追従する。
「ウィリアムくんも?」
「うん。深緑西部の方の出身なんだ」
「でも、人が一杯いるところも大好きだ。家がいっぱい並んでたり。複雑な模様の布がきれいな服になるのも好きだ。それに、美味しいお料理! お菓子!」
 ソアの頭の中をよく焼けたお肉や、ふわふわのパンや、真っ白いクリームが浮かんだ。
(いけないいけない、お腹がなっちゃう!)
 ふるふるとソアは頭の中から食べ物を追い出した。
――きらり。
 頭上で何かがきらめいた。
 手をひたいに当て、そっと空を見上げるとそこには宝石のような――小さな水の塊が浮いていた。
「ウィリアムくん?」
 同行者を振り向く。
「せっかくだからね」
 にこにこと穏やかな、いっそマイぺースな笑顔でウィリアムがいる。
 そうこうしているうちにも彼の指先から次々と小さな水球が浮かび上る。
 小さいの。
 大きいの。
 大小様々の水球は太陽の光を透過して輝く。その結果、二人の周りはウィリアムが出現させた水球で一杯になった。
 これがウィリアムのギフト。
 彼は水の使い手だ。その魔法に今回のネクベト討伐で何度もお世話になった。
 幻想的な光景にソアの大きな目がより大きく見開く。
「きれいだ!」
 ソアは水球に手を伸ばした。水球は触れた瞬間に弾けて指先を濡らす。手を振ればぱちん、ぱちんと、軽やかな音をたてた。
「ウィリアムくんはすごい!」
「ふふ、これだけじゃないよ」
 にっこり笑うと大きめの水球に指先を近づける。触ったか触らないか。次の瞬間、水球の中にもう一つ水球が生まれた。
「えっ!?」
 二重になった水球は少しの間浮遊して、他のと同じようにはじけ落ちた。落ちた先にはなにもない。ただ水面が揺れているだけだ。
「も、もう一度!」
「いいですよ」
 ウィリアムがうなずき、水球を発生させる。そして先ほどと同じように指先で二重にしてみせた。
「水球の中に空気を巻き込んでやってるんです」
「すごいなあ!」
 ソアはきらきらと金色の"虎目”を輝かせる。風が吹けば肩まで伸ばされた金色の髪が柔らかに揺れている。
「いっぱい喜んでもらえると嬉しい」

 幻想的な光景を、二人は静かに見ていた。
(うう~~ん、ボクもナニかお返しがしたいな)
 素敵な光景を見せてくれたお礼に。
「やっぱり水掛け合戦……かなあ?」
「え?」
「ウィリアムくんの、さっきのすごかったら、ボクも今なにかしたい! けれど、ボクのギフトはみんなとおしゃべりする力だし。そしたら元気なのが取り柄かなって。でもこれはお礼にならないなあ」
「……やりましょう、ソア」
 ウィリアムが腕まくりをする。
「!」
「よく考えると二人以上居ないと出来ませんからね。水遊びとか久しぶりです。ソアが相手をしてくれると言うなら受けてたちます」
 何年、いや何十年だっけかな、とウィリアムが言う。
「うん!!!!」
「じゃあ早速」
 と言うが早いが両手ですくえるだけ水をすくってソアの方に向ける。
 ソアはすいっと片足からで跳ぶ。
「お返しだよ!」
 ぱしゃんっ。
 と、降り立った水しぶきが上がる。ウィリアムもまた軽く体をそらして避けた。
「やったな!」
「負ける気はないので」
 と、言うと更に水をすくってソアの顔に向かって水を掛ける。
「あ、でも雷光をまとうのは無しで」
「もちろん! 危ないことはしないさ!」
 どんと小柄でありながらそのナイスバディな体をそらして胸を叩いた。大きな胸が揺れる。
「だーけーどっ!」
 ソアはぴょんと跳んだかと思うと完全な虎の姿になってみせた。ソアのもう一つの姿だ。
 その変化に大きな波が起きる。
「へへーん!」
「……やりましたね」
 頭から水をかぶることになったウィリアムが少しだけ悔しそうに言う。
「ソアがそうくるなら、僕も本気を出させてもらいます」
 改めて気合いを入れたウィリアムの返事がかえった
「こうなったら勝つまでやるぞ!」
「もちろん。どこからでもかかってきてください」

 その後、日暮れ間近に二人が村に向かって急ぐ姿が見えたのはここだけの話。

  • オアシスのみずあそび完了
  • NM名CO2
  • 種別SS
  • 納品日2019年11月14日
  • ・ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562
    ・ソア(p3p007025

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