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No Longer Human.
登場人物一覧
●Mine has been a life of much shame.
俺の部屋には物が少ない。
例えば、子供なら与えられて然るべき玩具も。況してや、称賛と慈しみの言葉に溢れた賞状も、ぴかぴか耀く
同い年の少年達が夢中になった物は手に入らず。代わりにあったのは教科書と
幼い時はピアノを弾いてみたいと思った事もあるし、サッカーだってしたかった。習字をする様になった頃には習字教室だって興味が有った。けれど全ては『勉強に必要ない』と一笑に付され、指を咥えて見ているだけだった。
一つのケアレスミスも許さない
高校受験が終わり、冬の重苦しい鈍色も冷め春に逢ひたる或る日。母親に叩き起こされては掃除用具を持たされ、部落が管理する神社の清掃に向かわさせられた朝の事を、忘れたいのに今でもよく覚えている。『社会福祉の心を持つ立派な少年』を演じる事は勿論だが――『
高校に入ってみて、ゾッとした。学業に身が入らないどころでは無く――簡単だった筈の中学迄のおさらいは疎か、新しい数式も、漢字も、何一つとて
其処から先はと云えば、お見事と手を叩きたくなる程に只管、転落を続けるのみである。其れは周りを取り巻いて来た大人達への復讐であり、
誰彼顧みず拳を振るい、貶めて、そうやって人の上に立つのは気持ちが良かった。其の頃には両親の関心はすっかり弟に移っていて、擦れ切った
併し、悪さを働いたしっぺ返しと云うのは必ずあるもので――ある時、何時もの様に拐かした女がヤクザの手が掛かっている者だったというのが一点目、そして当時すっかり気の大きくなっていた俺は『誠心誠意の謝罪』をするでも無く、あろう事か思い付く限りの罵声と数発のパンチを浴びせたのが二点目、三点目に其の後怖くなって尻尾を巻いて逃げたなんて
本当に詰まらない人生だった、と逃げるのにも疲れた
――『なんで俺が見ず知らずのガキを助けなきゃなんねえんだ?』
――『おうおうおう、如何にもこうにもガキが喧嘩売るには分不相応な相手だろ、何したの? お前』
――『うわ、擁護しようが無いな』
「いいから助けてくれ! アンタ、大人だろ!!」
――『はあぁ……こんなんこれきりだからな、クソガキ』
其の男、胡乱を内包した鮮紅色の目見は艶やか。しなやかな四肢、手足の捌き、『
――『で、少年。お前何人相手ならイケる?』
「無理っすね、俺、喧嘩弱いんで」
――『マジかよ、本当しょうもな、帰りたい』
「まあ帰るにゃ、此奴等如何にかしませんと」
――『俺がお前さんを奴さん共に突き出せば終わるだけの話じゃねえか』
「そうしたら、……枕元に立って毎晩呪います」
――『調子出て来たじゃない、クソガキ』
――『臆、じゃあ』
――『これっきりだ』
――『もう、そんなやんちゃすんなよ』
見惚れる程の黝くみだらな
――大人に助けられたのなんて、此れが初めてだ。
女子供にするみたいに俺の頭を撫でて去って行く其の人の名前すら訊けぬ儘、心に沸き上がったのは先ず『井の中の蛙』か、或いは『お山の大将』だった俺への『怒り』だった。クソ、クソ、クソ! やってらんねぇ。自分がダサくて堪らなくて、其れで、どうせこんな所に居てあんな身なり。同じ『ろくでなし』な筈なのに不覚にも『格好良い』とすら思ってしまった、彼の男への『怒り』。十七歳の行き場の無い其の感情は、富める者は富み、落ちる者は何処までも落ちぶれるこんな世の中であるとかにも及んで。訳が判らなくなって、もう滅茶苦茶に怒って怒って――悩んで、苦しんで、惨めで、許せなくて、ぐちゃぐちゃだった。
唯、今迄の場所に戻ろうとは思わず、落ち零れなりに前へと突き動かす要因となったと云える。
――
―――
「嘉六さん、また女の家行くんすか?
情けな……。行くとこないならうちに来ればいいって俺何時も云ってますよね?」
「お前さんなんか怖いからヤダ」
「かーろーくさーん」
「何だよ!」
「いえ、何となく、其の」
「何ニヤニヤして、やっぱり怖い」
「昔の事を思い出してたんですよ」
やっぱり、そうだ。
今となって思い返せば、此の感情の始まりは正しく『怒り』だったに違いない――……。