PandoraPartyProject

SS詳細

キラキラを食む

登場人物一覧

ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)
黄昏夢廸
武器商人(p3p001107)
闇之雲



 サヨナキドリ商店街をブラブラと歩いていた昼下がり。ふと、見覚えのある長い銀の髪を目にして思わずランドウェラは声をあげた。

「あ。武器商人」

 ゆっくりと振り向いたソレは長い前髪で両目を隠した、男とも女ともつかぬ端麗な容姿。おや、と中性的な声を漏らすとランドウェラを見遣る。

「キミは……そう、ランドウェラ=ロード=ロウス。大地のコ、死腕のコだ」
「こんにちは」
「はい、こんにちは。礼儀のあるコは好ましいよ。何か探しにきたのかい?」
「僕はこんぺいとうを探しに。武器商人は?」
アタシは此処の顔役だからね。たまに商店街の中を見回りしているのさ」
「そうか、この広い商店街を……すごく大変だね、お疲れ様。こんぺいとう食べる?」
「供されるならいただくとしよう」

 ランドウェラの取り出した小さな瓶からカラコロと溢れ出した色とりどりの星の欠片を、武器商人ソレは一粒ずつ摘んで愛おしそうに眺めてから口に含んだ。なんだか美味しそうに食べてくれるので、ランドウェラも嬉しくなってその様子をじっと眺めてしまう。

「甘いね」
「武器商人も甘いもの、好き?」
「嫌いじゃあないよ。どれ、親切には素敵な対価がなくてはね。こっちにおいで、大地のコ。そのままこんぺいとうを返礼するのは味気ないから、少し変わった品を贈るとしよう」

 そう言って手招く武器商人ソレに、ランドウェラはすぐに興味を持って着いていくことにした。はぐれない様に2人で並び立ちながら食料品店、手芸店、武器屋、和菓子店、服屋……さまざまな店を通り過ぎていく。それら1つ1つを興味深そうに眺めながらランドウェラは口を開いた。

「どこに行くの?」
「食べる宝石があるところ」
「食べる宝石!?」

 もしかしてそれはサヨナキドリで売っている特別な宝石なのだろうか。どんな味がするのだろうか。とランドウェラが思わず瞳をきらきらと輝かせて想像を働かせていると、武器商人ソレが自分をジッと見ていることに気がついて再び視線を向ける。

「その腕、随分と不便そうに使っているね」
「ああ、右腕? あまり上手く動かないんだ」

 動かすと痛みを伴うせいか、つい庇うように隠してしまう黒い右腕を武器商人ソレに見せながらランドウェラは苦笑した。最近始めた料理もこの腕のせいで手際良くできないのだ、と話すと、ふむ……と武器商人ソレがじっくりと右腕を視つめる。

「……今度、時間がある時にアタシのところにおいで。力になれるかはわからないがその腕、視てみるよ」
「武器商人って、実は武器商人じゃなくて医者だったのか」
「まさか。手術なんて細々したのは出来ないよ。大雑把に似た様なのはするけど」
「十分すごいと思う」
「そぉ? ありがとねぇ。可愛らしいこと、キミは」

 そんなこんなで話しているうちに目的地に着いたのか、武器商人ソレはある店の前でぴたりと止まる。ランドウェラも倣って店の前に止まり、上に掲げられた店の看板を読み上げる。

「『水澄堂』?」
「ヒヒ……入ってごらん」

 武器商人ソレに促され、豊穣の店構えによく似た建物の中におそるおそると入ると──ランドウェラを迎えたのは、色とりどりの淡い"色彩"だった。店の棚一面に並べられた、色の付いた磨りガラスの塊の様な小さい"何か"は甘い香りを放っている。それが大好きなこんぺいとうを思わせてランドウェラは後に続いて店に入った武器商人ソレにパッと振り返った。

「武器商人。これは? これが食べられる宝石?」
「その通り、琥珀糖だね。この店は色んな味と、色と、形で売ってくれるんだ」
「こはくとう……」

 夢心地で店内を回るランドウェラ。空を閉じ込めた様な青い琥珀糖はソーダ味。オレンジ色はみかん味、黄色はレモン味……菫の香りを移した紫色の琥珀糖なんてのもある。形も何故か趣を感じてしまう不揃いな形とか、花の形を模ったものとか、星の形とか様々だ。暫く何もかも忘れて琥珀糖に見入っていると、上品な着物を着た老年の店員が話しかけてきた。

「試食されますか?」
「いいの?」
「はい、はい。ぜひとも」

 ぜひ試してみてください、と穏やかに笑う店員からランドウェラの手にころんと青いソーダ味の琥珀糖が1つ乗せられる。不揃いな断面が店内の光を反射してキラキラと光り、それがあんまりにも綺麗なものだからランドウェラは食べるのを躊躇ったが、武器商人ソレの「試食だから」という言葉に勇気を出してそっと口に含んで咀嚼してみる。

 ぱきっ、しゃくっ、ざく、ざく、じゃくっ……。

「……!」

 琥珀糖の表面は意外に硬質で甘く、噛み締めると中からぷるり、とろりとしたソーダ味のゼリーの様なものが飛び出してきてなんとも爽やかな味わいだ。ちょっとだけ見た目はこんぺいとうみたいなのに、こんぺいとうとは全然違う。それがまた──

「すごく美味しい……!」
「気に入ってくれた様だね。連れてきてよかった」

 どことなく幼く笑うランドウェラに、武器商人ソレも微笑ましそうに笑い返した。実際、武器商人ソレの視た限りでは外見と年齢が釣り合っているふうに見えないため、『幼い』という印象も間違ってはいないのだろう。

「好きなものを選ぶといい。代金はアタシが持つからさ」
「………………全部!」

 うン。間違ってはいないのだろう。武器商人は苦笑した。

 この後。お店で販売されている琥珀糖をちょっとずつ詰めたセットがランドウェラに贈られた。暫くの間、いつものこんぺいとうの瓶の他にも琥珀糖を詰めた瓶を持ち歩く珍しいランドウェラの姿が見られたとか。

  • キラキラを食む完了
  • NM名和了
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月29日
  • ・ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788
    ・武器商人(p3p001107

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