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自ず覇竜に導かれ

登場人物一覧

レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)
騎兵隊一番翼

●執務机にて
 結局のところ、あの遺物は何であったのだろうか? あれからかなりの時間が経つというのに、『風来の名門貴族』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)のしたためた研究ノートには、纏まりきらぬ思考がただ綴られたままだった。
 深い緑青色をした、ほのかに暖かみを帯びた謎の球。“龍顎遺跡”と人呼ぶ遺跡で繰り広げた冒険の記憶は、今も彼の思い出の中で、重要な地位を占めている。願わくは、その秘められたる領域の初探索者が、自分であれたならよりよかったのに……嫉妬にも近しいそんな感情を、レイヴン自身も否定しきれぬほどに。
 しかし……たとえその感情自体こそ否定できずとも、感情に支配されることまで是となどすまい。そもそも、彼には妬んでいる時間などありはせぬ……この無辜なる混沌における最大の神秘──竜種。彼らを覆うヴェールの内を、ほんの僅かでも垣間見ようと思ったならば、レイヴンの──常命種の寿命など、その全てを費やしたとしても足りるか判らぬのだから。

 それを思えば彼が今、竜信仰の古代民族が遺した宝を研究できていることでさえ、あり得ぬ幸運と呼んで差し支えないに違いなかった。彼は今、いつの間にかとっぷりと暮れた空に浮かぶ月に照らされる研究室の執務机にて、昼間に面会にやってきた人類学者のレポートを改めて読み返していた。前々から依頼をしておいた、遺跡の主人であった人々に関する調査報告書……それによれば彼らの正体は依然として不明であるとのことではあったが、それでもレイヴンの竜種探究にとって、多少の手掛かりになったことだけは確かであろう。

●竜信仰の民族について
 彼らが無辜なる混沌に痕跡を残し始めた時期は、もしかしたら数千年も前のことであるかもしれない。かもしれない、というのは彼らが深い山奥の住民であって、他の文明に記録が残されていないためだ。
 彼らは人知れず現れて、人知れずどこかに消えてしまった。彼らの営みを今に残すのは……数は少ないながらいずれも巨大で精緻な、“神殿”とされる遺跡のみ。その目録にざっと目を通したならば……レイヴンらが遺物を回収した通称“龍顎遺跡”の名前と、保存状態を示す『稼働中』の文字も見てとれる。
 精緻な入口スケッチは、記憶と寸分違わなかった。けれども遺跡の隅々にまで満ちていた魔法の感覚までは、紙肌は決して与えてはくれない。
 そうだ……魔法だ。
 余計なちょっかいを出した仲間を恥ずかしい目に遭わせた罠も、レイヴンらを苦しめた守護ゴーレムも、何もかもが見事な魔法の産物だった。昼間の人類学者もオーブを観察し、感嘆の声を上げたっけ……この遺物は彼らの高度な魔法技術を裏付けるものであり、必ず目録に加えられるべき品だ、と。

●覇竜の導き
 では結局……かの民族と竜種との関わりは、はたして何であったのだろうか?
 彼らが竜種を信仰するということ以外、報告書は何も語ってはくれなかった。むしろ報告書は彼らと竜種の関係について、懐疑的な論調で結論付けてさえもいる……彼らは勝手に竜種を神聖視し魔法文明を発展させたのみで、実のところ何も知りはしないのだ、と。
 が……はたしてその結論は、真に正しいものであるのだろうか?
 いいや違う。執務机の傍に佇んだまま、レイヴンは首を振ってみせた。オーブは彼が手をかざしたならば、ほのかな暖かみを帯びはじめる。オーブが幾人もの研究者の手に渡る中、彼だけには確かに言えることがある……オーブが暖まる時は、レイヴンのような、覇竜に導かれし者が近付いた時だけ反応をする。
「……覇竜の導き、か……」
 その“素養”の正体が何か、どうして闇市に流通しているのかさえ彼には――そればかりかおそらく誰にも――与り知らぬことだった。しかし――それが作り出す何らかの資格が、オーブにある種の力を与えていたに違いない。その仮説にだけはレイヴンは、確信に近い手応えを感じている……その直感に頼りきることがどれほど研究者にとってあるまじきことか、彼自身にだって解っているはずなのに!
「今の段階で断言できることがあるのだとすれば……その正体は、知る限りの手段を用いてもを掴めない、ということくらいだろうか」
 結局のところ何も判っていないというのに、レイヴンの口許はおのずと弛み、心はどこか躍動していた。いいや、『何も判らなかった』んじゃない、『今考えつく限りのどれでもなかったという事実が判明した』んだ。ああ……それでこそ竜種というものじゃないか! 圧倒的な力と知識、そして浪漫を兼ね備えた存在!!
 だからレイヴンの熱は冷めやらず、そればかりか次は何を試そうかとますます加熱する。だから――。

 人智の届かぬ竜種を前にしてなお挫けることなき意志。もしかしたらそれこそが、竜種に興味を持たれる素質――覇竜の導きであるのかもしれない。

  • 自ず覇竜に導かれ完了
  • GM名るう
  • 種別SS
  • 納品日2019年11月09日
  • ・レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066

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