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森の恵みは血抜きが大事
登場人物一覧
幻想国内の森の中。時刻は夕方、陽はだいぶ傾いてきている時分。
『黄昏夢廸』ランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)と『挫けぬ魔弾』コヒナタ・セイ(p3p010738)の二人は、森の中での木こり仕事を終えて、互いに一息ついていた。
「疲れたー」
「だいぶしっかり働きましたネ。これだけやれば十二分でしょう」
切り倒して細かく切り分け、積み上げた木材を横目に見ながら、ランドウェラが切り株に腰を下ろす。それを見守りながらセイもほうと息を吐いていた。
随分と仕事に精を出した。昼食を取ってから時間も随分と経っている。当然、二人ともが空腹だ。
「お腹すいたね。今から帰るんじゃ夜になっちゃうかな」
「ふむ……そうですネ」
ランドウェラが切り株に座ったまま言うと、セイが視線を周囲に巡らせながら口角を下げた。
ここは森だ。これから夜になる。
思案してから、セイは自分の愛用する愛用の銃を担ぎ直した。
「ランドウェラ、もう少々この森に留まりましょう。狩りをします」
「やった、新鮮なお肉でバーベキュー!」
セイの言葉にランドウェラが両手を突き上げた。森の中で狩った獲物を血抜きし、捌いて、森の中で調理して食らう。なんとも贅沢で、得難い食事だ。
そこからしばらく、獲物を探しながら歩くランドウェラとセイは、二人同時に足を止めた。身をかがめながら見つめる先にいるのは、一頭の大きな鹿だ。
「いた……」
「鹿ですね、ちょうどいいサイズです」
草を食んでいる鹿はこちらには気づいていない。距離を保ったままセイが銃を構え、引き金を引いた次の瞬間には、首を穿たれた鹿がどうと地面に倒れ伏していた。
「よし」
「いつ見てもすごい腕前だよね、セイの射撃」
愛用の銃を下ろして頷いたセイへと、彼を後方から見ていたランドウェラが息を吐きながら声をかけた。相も変わらず、銃を扱わせたら間違いのない男だ。
関心しきりのランドウェラへと、にっこり笑ってからセイは手を動かす。
「これが生業ですからネ。さあ、都合のいい場所まで運んで解体しましょう」
セイの言葉に、ランドウェラも動きだした。二人で協力して鹿を運び、やってきたのは森の中の開けた場所、先程木こりをしていた場所にほど近い場所だ。
「この辺でいいかな?」
「いいですネ、それじゃ、まずは血抜きからです」
ランドウェラが鹿を地面に下ろしながら言うと、頷いたセイが鹿の足にロープを結んだ。それを木の枝に引っ掛けて鹿の身体を吊るすと、首元をナイフで裂く。ドバッと体内の血が溢れ出し森の地面を濡らした。
5分も経っただろうか、滴る血が僅かになったのを、ランドウェラが覗き込む。
「抜けましたかネ?」
「うん、大丈夫。下ろすよ」
後方のセイに頷いたランドウェラが、木の幹に結んでいたロープに手をかける。ゆっくりと鹿の身体を下ろして地面に横たえると、ランドウェラが懐からナイフを取り出した。
「解体は任せて」
「大丈夫ですか? 二人で一緒にやってもいいんですよ」
ランドウェラの言葉にセイが目を見開いた。解体はむしろ自分のほうが長けている認識だ。と、ランドウェラが振り返って左手をぐっと握る。
「どう解体すればいいか
自信満々に言ってきたランドウェラに、セイは小さくため息を吐いた。自信はあるんだろうが、やっぱり不安だ。
「はあ……しょうがないですね、やっぱり手伝いますよ」
そう言ってセイもナイフを取り出す。二人で協力しながら皮を剥ぎ、筋を切り、肉を切り分けていく。大きな塊の肉がいくらか取れたところで、セイが額の汗を拭った。
「これだけ取れれば二人分の肉には十分でしょう。さて、調理しましょう」
言いながらセイは腰を下ろして、地面が露出するそこに転がる石を積み上げ始めた。そうして即席のかまどを作り、かばんから鍋を取り出す。確か近場に泉があったはずだ。
セイが水を汲んでくる間に、ランドウェラは肉の下ごしらえ。セイに言われたように、肉に塩と胡椒を擦り込んでいく。
戻ってきたらセイはランドウェラと交代で肉の処理だ。ランドウェラが枯れ枝を集めて火を熾す横で、下ごしらえした肉をカットし、一口大に切り分ける。
今日作るのは鹿肉のケバブと鹿肉のスープだ。火が熾り、鍋の水がふつふつ言い出すのを確認して、細かく刻んだ鹿肉を根菜と一緒に鍋に入れたセイが、まな板の上の肉を指さしながらランドウェラへと言う。
「ランドウェラ、そっちの切り分けた肉を串に挿して、串焼きにしてくれますか」
「えっと……これを、こう?」
言われて、ランドウェラはまな板横の金串を手に取った。それに、無造作に鹿肉を突き刺していく。その様子を見たセイがニッコリと微笑んだ。
「そう、上手ですヨ」
「よかった……ここの肉、全部使っていいの?」
安心したように息を吐いたランドウェラは、不安そうに肉の塊を見た。肉はそこそこ量がある。これで使い果たして、別の料理が作れなくなったら困る。
対して、セイは安心させるように頷いた。
「いいですヨ。スープ用の肉はこっちで既に煮てありますから」
「分かった」
頷いたセイに頷き返して、ランドウェラはセイに言われたように肉を串に刺していく。十数本の肉串が出来上がったところで、ちょうど肉は全てなくなった。
「よし……あとは串焼き用の火を熾して」
ここまで来たら先程同様、地面に枯れ枝を集めて火をつけるだけだ。火を灯し、燃え上がらせて、その炎の周辺に肉を並べるように串を挿していく。炙られた肉が、ふつふつと表面に脂を浮かべながらいい色に焼けてきた。
「えへへ……」
「いい香りがしてきましたネ」
肉の全面を焼くように串を回転させつつ、笑みを見せるランドウェラ。セイもスープの灰汁を除きながらホッとした表情だ。
程なくして、いい色に肉串が焼き上がる。
「出来たー!」
「お疲れ様です。スープも出来ましたから、食べましょう」
ランドウェラが嬉々として焼けた肉串を取り上げると、セイも木の器に盛り付けたスープを持ってきた。切り株に置いた器とスプーン、木の葉の上に並べた肉串を前にして、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
手を合わせてから、二人は焼きたての肉串に手を伸ばした。脂の滴るそれをがぶりと一齧り、すると溢れ出る肉汁と脂、鹿肉の旨味が口の中いっぱいに広がった。塩と胡椒もいい塩梅だ。
「んんっ、新鮮なお肉、美味しいー!」
「やはり獲物は穫れたて、捌きたてに限りますネ」
がっつくように肉串を食らうランドウェラが、セイに屈託のない笑みを見せながら言葉をかける。
「あー、セイと一緒に仕事に来てよかった。こんなに美味しいお肉にありつけたんだし」
「私もです。ランドウェラとご一緒できて何よりでした」
セイもセイで、ほっこりした笑みを浮かべながら頷いた。やはり、肉は新鮮なうちに食べるのが一番旨いのだ。
肉串を大口を開けて食べながら、セイはふとランドウェラに視線を向けつつ鞄をまさぐる。
「ああ、この肉を食いながら酒が飲みたいですネ。どうですか?」
「飲みません、10歳だし」
大人の誘いに、自称10歳のランドウェラはきっぱりと。それなら仕方ない、と苦笑しながら、セイは酒瓶の蓋を開けるのだった。