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夏の終わりの
夏の終わりの
登場人物一覧
手を離す。
温もりはこの手からこぼれ落ちた。
大切な鹿ノ子の笑顔が、もう傍で見られない事実に打ちひしがれる。
受け止めきれない衝動だ。認めたくないもの。
どうして、どうして私の元から離れ往くというのだ。
あんなに私の事を好きだと言ったその唇で。
別れを告げるというのか。
ああ、憤りが身体を駆け巡り、どうしようも無く溢れ出す怒りが収まらない。
達者でな、などと絞り出した声は納得して出したものではない。
あの場を離れなければ、未練がましく縋っていたからだ。
離れて行く鹿ノ子へ置いて行くなと浅ましく縋っていた。
あの手を離さなければ、鹿ノ子は遠くへ行かなかっただろうか。
今でも傍で笑っていてくれただろうか。
怒りの先にあるのは深い悲しみだ。
行かないで。
行かないで。
私を置いて行かないで。
何度、別れを知ろうとも。
慣れる事なんて出来ない悲しみだ。
姉上も義兄上も忠継も私の前から居なくなった。
強い鹿ノ子なら、ずっと傍に居てくれると思っていた。
それは私の驕りだったのかもしれない。
鹿ノ子がずっと傍にいて笑顔を向けてくれると思っていた。
純粋に信じていた。
失ってから気づく切なき胸の痛み。
悲しさで塗りつぶされていく。
終わりを告げた心の傷から止め処なく溢れる血が止まらない。
ひび割れて、もう直すことも出来ない。
渦巻く情動は行き場の無い闇へ沈んで行く。