PandoraPartyProject

SS詳細

夜告鳥とすごいとり ~在り方を探して~

登場人物一覧

イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
Uwe(p3x008868)
( ᐛ )


「それで、アンタはうちの館のどんな噂を聞いて来たんだ?」
 館のNPCはロンと名乗り、館内への侵入をあっさり許した。見ず知らずの人間を招き入れる事に慣れているのか、はたまたR.O.Oというゲームを円滑に進めるための仕様か――どちらにせよクエストが進むのは悪い事ではないと、イズルは館の廊下を歩きがてらクエストの内容を再確認する。

『しろいとりを さがして
 情報制度:D
 依頼人:噂好きな酒場の店主 達成条件:『しあわせのしろいとり』と会う
 伝承の東の森にロンっていう貴族が住んでるのを知ってるか? へんびな所に従者も雇わず、娘と2人きりで暮らしてる変人だが、
 最近そいつの屋敷で"しあわせのしろいとり"を見た! って冒険者がいてさ。本当か見てきてくれよ』

 このクエストが街中でポップした時、イズルは違和感を抱いていた。
(情報精度がDだって? これは危険な隠しクエストが潜んでいるかもしれないね。R.O.O.は理不尽な事が多いし、初心者が受注して危険な思いをする前に、はやく片付けてしまおう)
「私はこの屋敷に"しあわせのしろいとり"がいると聞いて訪れたのだけれど、心当たりはあるかな?」
「しらん」
 丁寧な質問にたった三文字だけで返したロンの口へ、イズルはよいしょと無理矢理ポーションをねじ込んだ。ちょっと強引な拷問に見えなくもないが、この程度なら無罪である。――そう、麗しきイケメンならね!
「私はこの屋敷に"しあわせのしろいとり"がいると聞いて訪れたのだけれど、心当たりはあるかな?」
「しらん」
 ぴかぴか身体が虹色に輝くゲーミングロンと化してさえ、家主の返答は変わらない。本当に噂を知らないようだ。
「俺は娘のミネアの世話で忙しいんだ。お前がどの部屋を探そうと構わんが、あの子の部屋には入るなよ」
「それじゃあ怪しそうな部屋から探してみようかな。こういう調査依頼では、最初にどの部屋から探すかが攻略の明暗を分けるものだからね。俺……じゃなかった。私は詳しいんだ」

 はみマデルうっかりするのも無理はない。なにせイズルは今、寝不足だ。原因は恋人が持ち出したTVゲーム。何だかんだで夜通し盛り上がり、睡眠時間はたったの2時間!
 ただでさえ思考がまとまり辛いのに、あっちの部屋からもこっちの部屋からもガチャガチャドンドン、ドアノブを回して扉を開けようとする音が何重にも聞こえて思考力を削いでいく。
「とりあえず、手前の部屋から黙らせていこうか」
 考えるのも億劫になったイズルは、近くにあった書斎の扉を開けてみる。外から様子を見た限りでは、よくある洋館の書斎。物音を立てていた何者かの姿は見えない。部屋に入って調べる必要があると判断し、イズルは中へと踏み入った。

 ギィィ、バタン!

 背後で突然、扉が閉まる。音に驚き振り向くイズル。もう一度、正面へ顔を向けると、そこに居たのは――

( ᐛ )

「……???」

 思考が止まる。
 ホラー映画あるあるな流れで唐突に現れたユルい顔の不思議生物。ギャップに脳が追いつく頃には不思議と口元が緩んでいる。

「ふふっ、何だこの紙。顔ふぬけすぎ……っ」
( ᐛ )<紙っぽいけど紙じゃないんだよ
「喋った……だと…」

 予想外の出来事にロールプレイを忘れかけていたイズルは、はっと我に返り咳払いをひとつ。イシュミルはそんな事言わないと、第二次はみマデル防ぐべく、ミステリアスな微笑みを浮かべてみせた。

「もしかして、君が噂に聞く"しあわせのしろいとり"かな?」
「どうなんだろう。噂って、噂される側が流すものじゃないから判断が難しいね」
(この紙、ふぬけた見た目で凄い正論を返してくる……)
「『この紙、ふぬけた見た目で凄い正論を返してくる』って顔をしてるけど、紙じゃないよ」

 考えが筒抜けで、イズルは当惑の表情を浮かべた。

「もしかして君もプレイヤー……特異運命座標なのかい? 自己紹介が遅れたけれど、私はイズル。今はただの現地調査員さ。宜しく、ね?」
「よろしくイズル。僕の名前はUweというよ。君のいうとおり特異運命座標で、この姿は種族『すごいとり』なんだ」
「すごいとり」
「すごいとりだよ」

 思わず聞き返してしまうイズルだったが、二度も念を押されたのだから疑いようもない事実だ。じっと見つめていたら、神々しく見えてきたような、そうでもないような。

「それで、そのすごいとりのUweさんは何故こんな場所にいるのかな?」
「よく分からないんだ。ひらひら空を飛んでたら不思議な模様を見つけて、触ってみたらこの場所に飛ばされたんだよ」
「プレイ初期に引っかかりがちなワープ系の罠だね。そのままこの部屋でずっと独りでいたのかな?」

 外に出ようという意思はなかったのかとイズルに問われ、円らな瞳をUweはぱちくり。雨の降る窓のまわりをぱたぱたぐるりと回ってみせた。

「この部屋にずっといた。雨でしわくちゃになったら、どういうロールプレイをしたらいいか分からなかったんだよ」
「……紙かな?」
「でも書斎なら乾燥剤いっぱいで、湿気を吸って縦目にたわむ事もないからね」
「やっぱり紙だよね??」

Uweのペースにのまれかけ、イズルは首を振って思考を切り替える。何はともあれ、クエストのクリア条件は満たしているはずだ。光る画面をポップさせてクエスト確認画面を見ると、確かに『クリア条件達成!』の文字。
「これで私の用事は済んだから、ようやく帰れ――」

 べた、べたべたべた!!

「!!」

 それは一瞬の出来事だった。
 子供の掌ほどの赤い手形がべたべたと画面を覆い、クエストクリアのボタンを塗り潰してしまう。
 あ、とそこでUweは思い出したように円らな目をパチパチさせた。

「さっきの話に戻るけど、独りではなかったよ。この部屋、時々子供のすすり泣く声が聞こえるんだ」
「そんな怪しい状況に身を置くなら、雨でふやけた方がマシじゃない?」

 イズルの呆れた声に重なり、しくしくめそめそ辺りに声が響き渡る。意識を集中させて辺りの存在を感じ取れば、その部屋は幼い子供が数人。みんな悲しそうに泣いている。

「私は『一翼の蛇の囁き』で霊を認識できるのだけれど、どの子も泣きっぱなしで話せる様子ではないね」
「元気を出しなよ。僕達でよければ話を聞くよ」

 子供のためにとUweは円を描きながら、ひらりひらひら部屋を飛び回った。すると子供達の視線は彼の方へと釘付けになる。やがて見えたふぬけた顔に、どの子もくすっとひと笑い。一笑千金――Uweだけが持つ特別な力によるものだ。

『行かないで、行っちゃだめだよ』
「それはキミ達が寂しいから?」
『ちがうよ! お外は危ないんだ。だから二人をこの部屋に呼んだんだ』

 イズルは顎に手をあて考え込む。来訪当初はどの部屋も「扉を開けて」という意思表示に見えたが、子供の言う事を鵜呑みにするなら"避難しに来て"のメッセージ。
――だとしたら、妙な話だ。
 来訪した当初聞こえて来たのだから。一室に一体の霊がいるとしても、どれ程の数になるのだろう。

「情報精度Dはブラフじゃなかったという事かな」
「どういう事だ?」
「さぁ。それは直接、に聞いてみようか」


 調べ始めれば《Minear》と書かれたプレートの部屋はすぐに見つかった。隙間からぺらっとすり抜けようとするUweを危険だからと引き留めつつ、イズルはゆっくりとドアノブを回す。ギギィ……と軋んだ音と共に開かれた扉の先には――

「入るなと言ったはずだぞ」
「被害にあったのが全てNPCだとしても、見過ごす訳にはいかないからね。彼らの霊は皆、恐怖に縛られてこの屋敷に囚われ続けている。
 君が殺したんだね? ロン」

 薄暗い部屋の中には子供の白骨が乱雑に散らばり、その中央に怪しげな魔法陣が血文字で描かれている。館の主人・ロンは傍らで蠢くツギハギだらけのヒトガタの魔物を庇うように、Uweとイズルの前に立った。

ミネアを完全に生き返らせるには、あと2人の魂が必要なんだ。お前達さえ邪神様に捧げれば!」
「来るよ、構えて!」

 ボス戦のBGMが流れ出し、身構えるイズル。その隣でUweは――はて、と在るかも分かりづらい首をかっくし傾げた。

「構えてって?」
「戦うんだよ。何でもいいからアクティブスキルを出してくれれば連携を取るから!」

 自らも魔物に身を落としたロンがこちらに襲い掛かって来る、まさにその時――Uweはようやく緊急事態スキルがない事に気づいて「あっ」て顔をした。


***

「君って結構強いんだ」
「一応、ヒーラーなんだけど……やはり封殺。封殺こそ全てを解決する回復の究極系だね」
「ちょっと待って、封殺って回復じゃないよね? ねぇ、思い切り顔を逸らしても図星は図星だよ?」

 数時間後、そこには肩で息をしながらなんとかデスカウント増加を防いだイズルと、ひらひら逃げながら声援を浴びせ続けたUweの姿があった。
 ロンとミネアだった怪物は折り重なるようにして倒れ、身体からきらきらと光の粒子を散らせ、今まさに消滅しようとしている。

『ミネア、すまない。最期までダメな父親で…』
「そんな事はないと思うよ」

 Uweの言葉にロンが目を見開く。

「やり方は間違っていたけれど、失ってしまったお嬢さんの為に頑張る姿は、きっと娘さんも見ていたと思うから」
『そうだろうか。……そうだと、いいな』

 消える間際、ロンは奇跡に目を見開く。共にこの世を去るミネアの口元が、笑みに弧を描いている。

『嗚呼、俺が馬鹿だった。来世ではきっとマトモな親の元で、幸せに――』

 悪しきものが去り、霊が成仏していくのを確認しながらイズルはUweに向き直る。

「祝勝会がてら、お茶でも飲みに行くかい? 雨が嫌いなら傘をさすよ」
「ありがとう。それなら変に考えなくて済むからいいや。……アバターも現実も、人の在り方って難しいね」

  • 夜告鳥とすごいとり ~在り方を探して~完了
  • NM名芳董
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月24日
  • ・イズル(p3x008599
    ・Uwe(p3x008868
    ※ おまけSS『Re.人の在り方』付き

おまけSS『Re.人の在り方』


「もうお父さん、また捨て子を拾ってきて!」
「だ、だだだって仕方ないだろう! 雨が降ってきそうだったし、凍えてしまったら可哀想だと……怒らないでくれ、ミネア」

 怨念籠るロンの屋敷でボス戦を繰り広げた暫く後。ロンの家にリポップした親子と拾い子たちを窓からそっと眺めるのはイズルとUwe。クエストを解決した当事者二人だ。

「まさかあのクエストが、バグによって引き起こされた物だったなんてね。君はその事を気づいて動いていたのかい?」

 Uweの問いにイズルはミステリアスな微笑みを浮かべて、人差し指を唇へ、しーっと優しく押し当てた。

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