PandoraPartyProject

SS詳細

牡丹舞花

登場人物一覧

死牡丹・梅泉(p3n000087)
一菱流
久住・舞花(p3p005056)
氷月玲瓏

●風流
「……」
「……………」
 実際の所、彼我の置かれた環境と本質的な相性の有無は必ずしも一致しない。
 反目する敵国同士に産まれ落ち、激しく愛を燃やして散った寓話の恋人達ロミオとジュリエット宜しく、世の中には敵でも通じ合う者も居れば、例え味方であっても交わらぬ者も居るものだ。
「……」
 さて、そういう意味においては今まさに無言の侭に一献を傾ける死牡丹・梅泉 (p3n000087)と、
「……………」
 彼の杯が空になる度、全く如才なく次を注ぐ久住・舞花 (p3p005056)の二人は、臆面なく味方になるような間柄で無かったとしても奇妙な程の相性がある。
 ローレットの特異運命座標とサリューの王の用心棒は不倶戴天の筈なのに。生憎と楚々として流麗たる見た目程には『正義』やら『大義』に拘泥しない舞花は梅泉の事が嫌いでは無いのだ。同時に、強い者を好み、恐ろしく『面食い』である梅泉も彼女の事が気に入っていた。
「主も呑め」
「頂いておりますが」
 男女の機微の有無は兎も角、やや前時代的なそのやり取りも両者間には不協和音たらぬ者である。
 梅泉は天然に『そういう男』だったし、舞花は『それでいい女』に違いない。
「……良いお酒ね」
嫌味な金持ちクライアントは上手く使うに限るので、な」
「ふふ」と小さな笑みが零れた。
(思えば不思議な関係だけれど――)
 今夜の始まりは舞花が所用で赴いたサリュー市街にて、知った顔――梅泉と遭遇した事による。
 実は『その気』の無い梅泉はイレギュラーズに割合友好的である。
「折角じゃ、付き合え」と一方的に切り出された舞花が、案内されたのはサリュー郊外の日本邸宅であった。
(驚いた。まさか混沌――それも幻想で、こんな場所に出会うとは)
 舞花が驚くのも無理は無かった。
 現代的な佇まいからは一線を画した時代的な建物である。縁側に腰かけて見上げた中秋の名月の眼下には枯山水の庭園が広がっていた。
「これは御自分で?」
「うむ。……クリスチアンめが欲しいものをやる、と言うのでな。
 屋敷を設えさせ、別荘を整えた。調度や庭はわしが弄った。
 ……別に自慢したい程でも無いのじゃがな。『分かりそうな輩』が混沌にはどうも少ない。
 幾ばくか浮かんだ顔の一つが主だった、という訳じゃ」
「成る程」
 梅泉が無闇やたらな教養を持ち合わせているのは先刻承知だが、これは実に本格的だった。
 彼としては趣味風情を理解する誰かに見せたかったが、分かりそうなのはローレットにしか居なかった、という事か。
 文化圏が所謂西洋に近しい幻想では枯山水は理解されまい。少なくとも梅泉の望む造詣を持ち合わせる人間は少ないだろう。
「主か、小夜か、空観か。犬娘やサクラも幾ばくかは分かるかも知れぬがな。
 ……傍をうろちょろするのがたてはでは、わしの気持ちも分かり得よう?」
「また、そんな事を言って。彼女は『京都の御令嬢』なのでしょう?」
 一献を傾けた舞花はここで幾分か冗句めいていた。
 揶揄された梅泉は口をへの字にして閉口している。二人で呑むのを想像して『煩かった』に違いない。
「お気の毒に」
 涼やかに言った舞花の言葉は梅泉を指してか、たてはを指してか――
「こんな時に言うのも何ですが」
「……うん?」
「いいえ。。少し、昔話を聞いても?」
「わしのか? 構わぬが――然程、面白い男でも無いのじゃがな」
「それはない」と言わずに、舞花はこの言葉には苦笑した。
 その「俺、何かしちゃいましたか」級の発言をするのは辞めるべきだとも思う。
 閑話休題。
「酒の肴には物騒ですが、我々の性質さがならそれも良いでしょう?
 今までにやり合った――中でも貴方が一番滾った時の話を聞かせて貰えれば、と思って」
「こうして呑むなら、主は一番上等の類じゃ」
 舞花は苦笑した。
 舞花の逸脱は梅泉のそれとは幾分か違う。言外に「私ならば一番良い」との意もあるが、そうでない事は承知の上。
 梅泉の言う通り、噛み合いという意味において月の夜、瀟洒な庭園で一献を共にするには完璧なのだが――
「そう嫌な顔をするな。はぐらかしたい訳ではない。然し――」
「しかし?」
「――何と言うか」
 歯切れの悪い梅泉に舞花は尚更興味を深くした。
 竹を割るように人も事実も一刀両断する梅泉が言い淀むのは実に珍しい事だった。
『何か言いたくない事があるのか、それとも言いにくい事があるのか』。
 興味をもたげさせる反応である事は間違いが無い。
「これは何としても聞かせて貰わないと」
「中々いい性格をしておるな、主も。まぁ、この死牡丹梅泉、逃げも隠れもせぬ主義じゃ」
 酒席の気まぐれなら、何が出ても許されよう。
 少なくとも今夜の話を聞いているのは月とこの美人だけなのだから。
「『滾った』と言うのが適切かは分からぬ。ましてや順位をつける事も難しい。
 一期一会で巡り合うそれぞれの刹那が、わしを満足させなかった訳ではないのでな。
 例えば主とやった時。わしは大いに昂った。例えば小夜を斬った時、あれは忘れ得ぬ。
 しかし、まぁ――前置きは兎も角、アレが取り分け『特別』なのはアレが『不可逆』だったからじゃろうな」
「不可逆……?」
「気に入った女が居ってな」
 舞花は「ほう」と声を上げ、目を丸くした。
 梅泉は自然も芸術も人間も女も『美しいもの』が好きである。
 それは十分承知だったが、声色はもう少し『重さ』を感じさせるものだった。

 跳ね返りでな。まぁ、美しく良い性格をしておった。
 幾度かやり合って、最後。『出会い方が違えば友人になれた』等と言われた時には閉口したが」
 又一献。呑むペースを上げながら懐かしむように言う梅泉は愉快気であった。
「わしは何と応じたと思う?」
 舞花は難問に首を傾げた。一菱の男が『アレ』なのは知っているが、これは果たして。
「『主がより近くに居たならば――わしは主を娶っておる』」
「……」
「……………」
「……それは、それは」
 成る程、極めて一菱的である。傍迷惑な所も含めて、だ。
「不可逆とは。まさか、振られましたか?」
 問いながらも舞花はその可能性は小さいと思っていた。
 自身が恋愛的な観点で彼を見ているかは別として、死牡丹梅泉という男は似たような価値観を持つ女にとって魅力的過ぎる。
 梅泉が『血蛭を抜く』ような相手なら相思相愛の方が自然にさえ思えるものだ。
「うむ。振られた」
「……おや」
 予想外の回答に舞花は驚いた。そして次の言葉で『納得』する――
「知らぬ所で死なれてなあ。わしを斬るか、わしが斬るのが筋であろうに」
 ままならぬ、と珍しい苦笑を見せた梅泉は懐かしむ調子を強めていた。
「わしは強いが、わしの望みはわしだけでは叶わぬと理解せざるを得なかったわ。
 なればこそ、わしは今『盆栽』を愉しんでおるのじゃ。主も、他もな」
 ニヤリと表情を変えた梅泉は「呑め」と舞花に次の一杯を注いでいた。
「美しく、強く。願わくば今度こそわしを斬れ。或いは最高最良の主を斬らせよ。
 主は特別で、わしにとって得難い『松』じゃ。今度は勝手に『失恋』させてくれるな」
「本気で……」
「……うん?」
「……愚問でした。言ってるわね」
 舞花は身勝手過ぎる男の『愛の告白』に嘆息した。
「そういう所ですよ、本当に」
 だが、その仕方の無さは憎むに憎めぬ――

  • 牡丹舞花完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月19日
  • ・久住・舞花(p3p005056
    ・死牡丹・梅泉(p3n000087
    ※ おまけSS『ダメンズ・ウォーカー』付き

おまけSS『ダメンズ・ウォーカー』

「旅人だけに」
「勝手にそういう気質にしないで下さい><。」
「いや、そういう気質だろ……中の人的に考えて」
「><;」
「違うと否定出来るか? 生活力なかったり一事以外全部ダメだけど一事だけ鬼才とか」
「……」
「そういうの王佐したり世話焼いたり甘やかしたりするの得意だろ!?」
「見てきたように言う><」
「否定は出来まい」
「><;」
「舞花さんは割と薄目ではあるけど、やっぱり三歩下がってついてく女性なので」
「うう」
「結論、冠位愛人。ジャイアントスイングされるのがよく似合う」

PAGETOPPAGEBOTTOM