PandoraPartyProject

SS詳細

硝煙は立たず

登場人物一覧

クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
コヒナタ・セイ(p3p010738)
挫けぬ魔弾

 屋敷の廊下を歩く。
 実体のある幽霊というものだから、足音がコツコツと響く。
 次はどの部屋に顔を出そうか、何をしようかと思案していた。
 ふと、ある部屋の前で足が止まる。
 雨の日、雨宿りしに来て、それから合縁奇縁もあったもので、間借りしている者が居る部屋だ。
 そういえば、その同居人は、今日は銃のメンテナンスをすると言っていた。
 少しの『悪戯心』が湧き、そのドアを開いた。



 銃を解体し、整備する。
 いざというときに、万一弾丸が詰まってはいけないから、コヒナタ・セイは細かなパーツの汚れも丁寧に拭き取り、ところによりガンオイルを差す。自身の主とする武器である大型のセミオート・スナイパーライフルは、長時間酷使や極地での使用が可能だが、ここのところあまりにも無茶が続いていたので、時間と余裕がある今、丁寧に点検しなければならない。
「よう、やってんな」
「ああ、どうも、クウハさん」
 来客に、機械と向き合っていたコヒナタは顔を綻ばせる。クウハは彼にとっては好ましい存在で、会話をすれば価値観が合うし、なにより自分のようなものを受け入れてくれる相手は心地よい。
「銃のメンテだって?」
「はい、ちょっとお待ちを……ここをお掃除して……」
 ふっ、と一息かけて微細な埃を除けると、パーツを置き、さっと組み直す。
「よし、オーケーです」
「器用なもんだなァ」
「まー……仕事道具ですから」
 スナイパーライフルの半分はまだ解体された状態で、もう少し組み立てるのには時間がかかりそうだ。コヒナタは来客で一区切りとしたのか、伸びをする。
 クウハは彼の得物をざっと眺めた。スナイパーライフルの他にも、机には大量の銃が配置されている。オートマチック、リボルバー……小型が多いものの、多様なそれをいつ持ち歩いてるやら、というものがざっと10は置かれている。見慣れないものから見たことのあるものまで。銃には自分が知らないような形もあるらしい。
「これとか、どう使うんだ?」
 ふと、銃を手にとった。小型で、ぱっと見、分かりやすい引き金がない。
「ああ、これはここが引き金になっていて……」
 そうして最新型のデリンジャーの説明をする。大きさは手の平程度で非常に小型。カチカチと引き金に該当する部分を押す。弾丸が入っている様子はない。
「主にポケットに収まるものです。 弾丸の有効距離は然程遠くありませんので、護身用、もしく暗殺用で使われることが多々ですね」
「暗殺ね……。 ……オマエ、こんなの持っていてどうしてるんだ?」
「適材適所で使ってますねえ。 要人護衛で悟られずに居たいのであればこれを使いますし、私は暗殺目的ならばそもそも接近いたしません。 こいつで遠方から撃った方が早いですから」
 スナイパーライフルを示して肩をすくめる。物騒な会話だが、今日の夕食はどうするかという気軽さで行われる。事実として、クウハもコヒナタも、このようなやりとりはその程度のものだった。
「他には?」
「こっちは普通のオートマチック、こっちはちょっと骨董モノのリボルバー……これはまぁロマン砲用です。 ああ、もしもクウハさんが使うのなら、こちらの方が使いやすいと思います。 素直に使い心地ですから」
 そういってあれそれと指で示す。クウハに指し示したのは、わかりやすく引き金があり、安全装置も理解しやすいオートマチックの拳銃だ。
「ふーん……弾丸はどう詰めるんだ? 安全装置は?」
「ああ、それはこうして……」
 コヒナタが銃に丁寧に見せながら弾丸を込め、安全装置を分かりやすく見せるようにして外す。すると。
 銃がコヒナタの手から離れる。何か幽霊がいるのだろうか?
 度々こういうことはある。霊感がないものだから、気づいたらおやつが浮いていたりだとか、手持ちのものが浮いていたりだとかの原因に気づかない。大概そういうのは、ここに住む幽霊の仕業なのだ。
「あれ? どなたか、幽霊がおられますか?」
 捕まえようとして尋ね、その拳銃がクウハの手に収められたのを見た。

 瞬時。
 クウハがコヒナタに銃を向けると同時に、コヒナタもまた、腰にさしていた拳銃を右手に、クウハに向けた。


「ハハ! 狙撃だけじゃなくて早撃ちもできんのか? 聞いとけばよかった!」
「『ポルターガイスト』でしたっけ? いやぁ、失念しておりました」
 先程の穏やかな光景は一切消えて、喜色を浮かべる赤い瞳へ、赤に近いピンクの蛍光塗料のような瞳はひやりとした視線を向けていた。
「その眼、初めて見た。 マジの眼だ」
「……」
 無言のコヒナタに、けけけ、と笑って、それから言葉を続ける。
「愛銃を他人にいいように使われて、脳天撃ち抜かれた時ってのは、どんな気分がするんだろうな? なァ、教えてくれよ」
 カチリ、と銃の引き金に手をかける。
「さぁ……そんな経験がないので何とも。 撃ってもいいですよ、貴方の頭にも風穴が空きますが」
 殺気立つコヒナタに、笑いをこらえきれない様子のクウハ。
「相打ちね、悪くねェ。 いっそのこと、俺と地獄に堕ちてみねェか? 冥府の底で仲良くやろうぜ。 オマエとならそれも悪くない」
「2人で地獄ツアーですか? 良いですね、正直、悪くはありません。 でも、我々の地獄に底なんてありますかねぇ」
「ふぅん?」
 笑顔と、無表情の視線はかち合ったまま。
「私は沢山人を殺めてきました」
「たかだか21年生きてるだけの人間の言うことか?」
「たかだか21年で、人を爆弾で殺し、銃で殺し、ナイフで殺しました。 きっとこれから先も殺します。 だから、死ぬのならばもっと罪を重ねて、貴方と似たりよったりの地獄までお供したいですね」
 命乞いではなく、相手への嘲笑や非難ですらなく、ただ淡々と物事を述べていた。
「だとしたらますます俺と一緒に死んでくれよ。 ――はァ、おもしれェー!」
 いよいよ口を開けて笑うクウハの手の銃は、あっけなく下ろされた。
「反撃しようとするのはまァ良い、どうせ地獄に行くのなら罪を重ねたい、なんて言うなんてなァ!」
 溜め息。コヒナタは脱力して自分も拳銃を下ろす。
「あのですねぇ~! 冗談でも引き金に指はかけないことですよ!」
 ぷんすこと怒る相手に、悪い悪いと静止しながら、クウハは安全装置を見た通りに戻して銃を返してやる。
「今度好きなモンやるから許してくれ。 肉だったか?」
「今、とてつもなく牛を食べたい気分なので、そちらをお願いします」
 限界まで頬を膨らませるコヒナタは、リスのようだと余計に笑われ、むっすりとしたまま銃の整備を再開した。
「今度、銃の持ち方教えますよ。 いざという時役に立つかもしれませんからね」
 それに対して、使うか分からねェぞ、と声をかけて、屋敷の主は気まぐれな悪戯に満足して部屋を去った。



 スナイパーライフルの組立が終わって、丁寧に机の上に置く。どうせまた酷使するだろうが、整備を欠かすわけにもいかない。ふとあの赤い眼が過る。嘲笑ではなく、かといって完全にこちらをナメていたわけでもない。
 ――アレは、別に撃たれても構わなかった。そういう態度だった。
「ちょーっと……調子が狂う……」
 なにせ自分が元居た場所は死ぬか生きるかで、愉快なものを含むことはほとんどなかったからだ。せいぜい敵の死体を弄ぶ仲間が居たくらいだが、自分はそれに参加したことなかったし、おぞましくて到底参加する気は起きなかった。生死がかかる瞬間に笑う者は、そんなに見たくなかったのだ。
「ま、それがあの人らしさではありますか。 それに――……」
 すっぱりとその意識は変わる。あの愉快さとあっさりさならば、共に地獄に落ちるのも悪くは、ない。
 すっかり牛の肉の気分になった舌をもてあまして、最低限の荷物で階下へ降りることにした。
 ――護身用の拳銃は、相変わらず腰にさしたまま。



 引き金に添えられるように――そう、引き金にかけられていなかった、コヒナタの指先を思い出す。
 引き金に指をかけるのは、暴発の危険があるため、基本的には本気で撃つ時以外は基本的に指を伸ばし、添える程度と聞いたことがある。
「ま、それでも、こっちが撃とうとしたら、アイツは撃てただろうな」
 普段見ることのなかった姿、殺気と冷徹さ。
 ひやりとしたナイフが首に当てられるような、そんな感覚。
 日頃はああも無防備に見える癖に、ああいうツラもできたのか、とくつくつと笑う。
 クウハの瞳は満足の色に染められて、薄暗くなってきた空と相まって、ますます赤く際立っていた。

  • 硝煙は立たず完了
  • NM名tk
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月13日
  • ・クウハ(p3p010695
    ・コヒナタ・セイ(p3p010738

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