PandoraPartyProject

SS詳細

逆巻きの太陽

登場人物一覧

イルミナ・ガードルーン(p3p001475)
まずは、お話から。

 悪夢――それは人類を雁字搦めにする、誰しもが忌々しく想う、闇夜からの贈り物。拒絶の術を有して異たならば良かったのだが、哀れな事に、憐れな事に、私はその所以すらも手繰れなかった。知っている。最初から最後までが悉く、詰め込まれたソフト・クリームの現実だと私は理解している。それでも追い掛ける事を止めなかったのは一途に、貴女が大好きだった故だ。強烈な火花に苦しめられるコンピュータが如く、逸脱なコードに呑み込まれ、煉獄へと落下するが如く。嗚呼、その通りだとも。貴女はきっと私の事を本当に認識してくれないのだ。総てはプログラミングされた運命に過ぎない。ねえ、貴女、私は貴女が本当は救世主だと謂う事を読んでいるのだ。只管に連なった、バベルに中てられた文字にひどく苦いブラック・コーヒーをこぼす。そう、そうよ、貴女の思っているが儘、全部が全部、私の一人芝居――鏡越しの戯言か壁越しの優越感ごっこ、ねえ、折角だから覗いてってご覧よ。
 貴女――先輩! ちょっと先輩! 夏休み最後の日って空いてます? 空いてるなら私と一緒にお出かけしませんか? あ、遊ぶ場所はちゃんと私が手配します。先輩は普段通り復唱してればいいんでその日まで色んなこと経験してください。折角の夏なんですもの、かき氷や冷やし中華、その他諸々味わっちゃってくださいよ。ええ、ええ、私知ってますよ、先輩はスイーツが大好きですもんね。わかっています。なので私有名店からマイナー店まで調べてきちゃいました。ふふん。もっと褒めてくれても好いんですよ。先輩のおめめがキャンディみたいなら私のおめめはビー玉ですもんね。あ、もしかしてラムネを忘れてませんか。やっぱり忘れてましたね、それなら学校の近くに昔っからやってる駄菓子屋があるんですよ。まあ普段はちっちゃい子達の溜まり場で私等学生は肩身の狭い思いをしてますがね。それじゃまた31日の朝にお会いしましょう。ではでは……!
 正夢――それは人類を発狂させるに値する、誰しもが羨む、太陽からの不意打ち。嗚呼、貴女、貴女はきっと知らないのでしょう。ベンチに座ってちろりと舌を出す、その愛くるしい貴女を! あかぶちメガネに眩んで見えていなかった、あの銀色の煌めきのなんと素晴らしい事か。もう死んでもいい。貴女はヒトの事を美しいと笑うけれども、なんで、貴女の方が美しいと自覚がないのか。キュインと鳴いてくれた眼球を今直ぐにでもペロペロしたい。いいえ、いいえ、これは私の色欲ではなくてれっきとした理性的行為、好意。こう言ってはなんだか私は比較的真面で正気な人物像なのだ。おっと、喫茶店でひとり佛草と貴女妄想をしている場合ではない、明日明後日明々後日以下略の為に素早く課題を終わらせなければ、自由研究――? それは勿論――【迷える子羊は秩序の優越を得るのか】?
 先輩はだいたい150cmの10代後半少女なんだから少しは恥じらいとかそういう感情を持った方が好いと思うんだ、私。最近感情豊かになってきてるのは実に嬉しい事だけれどね先輩。それじゃそろそろ行こっか、先輩。先輩の為に最短ルート調べて来たんだから。これならきっと他のお客さんより先に遊べるんじゃないかしら? えっ? 何処に行くのかってやだなぁ先輩もう忘れちゃったんですか、遊園地ですよ遊園地。なんですって? そんなに遊園地ってあるものッスか……? あるんですよ、それが! まあかなり古い遊園地なんでアトラクションとかちんまりですが。その分私が盛り上げますから、さ、さ、電車がきましたよ先輩、マップの確認は中でしましょう。
 先輩、ちょっと先輩待ってください。えっ? なんですか先輩って平衡感覚のバケモンなんですか。まさか私が先にダウンする事になるとは思っていませんでしたよ。あわよくば先輩がぐってりしてるとこを介抱ついでにぎゅってしたかったのに。えっ、大丈夫ッスか? 大丈夫ですよ、流石に先輩を一人にするわけにはいきませんから。今ならティーカップにおさまったクリームくらいには頑張れます。それなら休んだ方が好いって? まーそう謂わんといてくださいよ、乙女にも意地ってモンがありますからね。あ、そろそろパレード始まるんじゃないですか。早く行きましょうよマスコット達はお土産と違って待っててくれませんからね――限定フレーバーのポップコーンでも齧りながら観ちゃいましょう。
 現実――私が私を見定め、理解する事は不可能だった、可能だと咀嚼出来たのは凡て、総て、貴女のオカゲだと頷く他にない。内臓を改めたところで確実性は失われ、永久に近しい大回転が今日もロクデナシな私を満たしていく。紅に染める事も出来ない、劣悪とした、騒々しい思考回路がようやく本性を繋がってくる。反芻した化粧の腸が虚で病的な望みに縋る――先輩、起きてください、先輩! 終電行っちゃいますってば!!!
 先輩、どうするんですか? 明日学校ですよ?
 もう食べられないッスよ……。
 夕食食べたばっかじゃないですか、それもデザートのプリンまで。
 むにゃ、おなかいっぱいッス。
 しゃーない、先輩が起きるまで待ってよ。それとも――ああ、そうね。その手があったわ。こっから先輩をおぶって私の家に泊めてあげるのよ。うん、きっと素敵な一夜になるわ。勿論、明日が9月1日ってのはナイショにしてね。ええっと、よいしょ、それじゃ神様か仏様か誰か知らないけど祈っておきましょう。
 ――先輩が起きませんように。

 キュルキュル。
 キュルキュルキュル。
 キュルキュルキュルキュルキュルキュル――。
 ――アーカーシャの如くに。レコードの如くに。
 キュルキュルと頭の中が、ぐちゃどろに撹拌されていく。
 これは先輩ではない。
 それは貴女ではない。
 イルミナ・ガードルーンではない。
 ならば何かと謂うのか。
 ――デウス・エクス・マキーナを代償として、嘔吐。

 連れ去った事は忘れていない。背負った感触も未だ頭の中、シェイクの片隅で横たわっている。ひどい臭いを友達として只管と眠った儘、眠らせた儘の貴女を覗き込む。腹いっぱい、汁気いっぱいに点滴した現実すらも彼方側で貴女はおそらく幸せな夢を食んでいるのだ。それなら如何して、なんで、私の理想は創られていないのか。教えてください、伝えてください、それは先輩のようなロボットのお仕事でしょう? 大大大好きな先輩、無理に瞼を捲ったって反応してくれない先輩。もう、私の掌で転がされている先輩。あ、大丈夫ですよ、先輩の体内時計だけはちゃんと元に戻してあげますから。だって、他の人に気付かれたら嫉妬されちゃうじゃない。それでは再びの貴族式と洒落込もう。歴史の授業で習ったところ覚えていないなんて謂わせない。味わいを楽しむ為だけに咽喉に指を突っ込んだんだ。先輩、貴女、8月31日だけは、私のイルミナ・ガードルーン……!
 最近かわいい後輩が出来た。イルミナだけのかわいい、かわいい後輩だ。起きる前の記憶が曖昧なのはきっと遊園地ではしゃぎすぎて頭の中をもみくちゃにした所為に違いない。兎も角、かわいい後輩の為に未来科学部の部室を綺麗にしなければならない。その為にもまずは掃除機を造るべきだ。凄まじい吸引力――。
 先輩、それじゃあ私の唇も吸い込んでくれるって事ですよね?
 なに謂ってるッスか?
 ――ノイズ塗れの時間が流れて往く。

  • 逆巻きの太陽完了
  • NM名にゃあら
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月08日
  • ・イルミナ・ガードルーン(p3p001475
    ※ おまけSS『魅力的なマシン』付き

おまけSS『魅力的なマシン』

 イルミナ・ガードルーンはアンドロイドである。
 それも未来的な超技術で造られた、殆ど人間のような中身である。
 その為なのか、或いは別の要因なのか、周囲の人間を無自覚に魅了しているように思えるのだ。中てられた人物の多くか研究者で、時には学校の生徒なども含まれる。
 それらを概念にやられたものとして仮に『ネイバー』と称する。
 ネイバー達はあの手この手でイルミナ・ガードルーンを拘束、改造、洗脳するが何故か、最終的に彼もしくは彼女から離れてしまうのだ。きっとイルミナ・ガードルーンには本人も知らない防衛機能が付いているのだろう。
 最早ないネバ―モア、魅力的なマシンは真実、不良品なのだ。

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