PandoraPartyProject

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失われたプロローグ

登場人物一覧

主人=公(p3p000578)
ハム子

●終わりの日、始まりの日
 胸を押さえ、重たい息を吐く。
 痛みにはもう慣れた。けれど、命が削り取られていくこの不安には慣れることはない。
 物心ついたとき、僕は他の人達と違うと気づいた。
 心臓の病。
 それを抱えた僕は、一日のほとんどをベッドの上で過ごしていたのだ。
 病は、治ることがなかった。いつまでも僕の身体を蝕み――気づけば二十年にも及ぶ年月が過ぎていた。
「……もう、限界かな……」
 自分の身体のことは自分がよく分かる。
 長年病と付き合ってきたのだ。ボロボロとなった身体が、限界であることを知らせる。
 僕は悔しかった。悲しかった。
 病によって生涯のほとんどをベッドの上で過ごした。
 色々なことをしたかった。ゲームで知る様々な遊び、体験、絆の物語を、自らの手で、足で実際に経験してみたかった。
 求めるものは、そう贅沢なものではないはずだ。
 病さえなければ、普通に経験できるもののはずで――その普通を得られないことが悔しかった。
 好きなゲームの”主人公”のように、沢山の人と苦難を共にして、絆を結び成長したいと願った。
「……どうか、生まれ変われるのならば――」
 そんな人生を、歩みたい。
 僕は願い、活動を止めようとする身体を抱きしめて、静かに目を閉じた。

 どれくらいの時間がたったのだろうか。
 闇に沈んだ意識が、浮き上がった。
 眠りについて、覚醒したときの感覚に近い。
 どこか浮つく身体の感覚に違和感を覚えながら瞳を開くと、不思議な光景が広がっていた。
「ここは、どこなんだろう……?」
 暗闇の中に、様々世界の光景が広がる。混沌とする情景の中に一人の人間のようななにかが座っていた。
「目覚めたようじゃね」
 そう声を発したなにかは、気づけば老人のような姿をとっていた。
「あなたは……誰ですか?」
「誰、か。その問いに答えをだすのは難しいのう。私は誰でもないただの案内人に過ぎないのですから」
 老人は話しながら姿を変え、目を疑うほどの美女へと姿を変えた。
 その姿の移り変わり、感じられる超然とした態度に、僕はカミサマのようだと感じた。
「あなたにとっては喜ばしいことかもしれませんね。あなたは選ばれ、これより無辜なる混沌へと誘われるのです」
「選ばれた? 無辜なる混沌?」
 カミサマっぽい女神は頷き説明してくれた。
 無辜なる混沌と呼ばれる世界の危機を救うため、僕が選ばれたのだと言うことを。そして、召喚に応じれば、僕の身体を蝕んでいた病が消えて無くなることを。
「召喚に応じるかは、あなたの意思次第です。ただ死の間際の召喚でしたから、同意が得られないのであれば……」
 女神が残念そうに首を振るう。
 そうか、召喚に応じなければ、きっと僕は心臓の病で死んでしまうのだろう。
 ならば、僕の答えは決まっていた。
「召喚には応じます。ううん、むしろ願ったり叶ったりです。あのベッド上から抜け出せるのなら、どんなところにだって行きたい」
「楽しいことばかりではありませんよ? 辛いこと、悲しいこと……もしかしたら痛い思いをして死んでしまうこともあるかもしれません」
「それでも、僕は自分の意思で、自分の身体で体験し経験したい。一度は失いかけた命だから、怖い物なんて――」
 そこまで話して、ふと思う。
 今のこの姿を見て僕は強い意思をもったまま行動に移せるだろうか、と。
 色々な事を諦めてきた人生だった。
 その記憶が残っていては、もしかしたらやる前から怖じ気づいてしまうかもしれない。
 どうせなら新しい人生を歩んでみたいと思った。
「見た目や、記憶を変えたり……出来ませんか?」
「あなたが望むなら。それも可能でしょう」
「それなら、この姿と記憶は封印してほしいです。それと、今あるこのモチベーションは残したい。この衝動を残しておいて欲しいです」
「ええ、ではそのように致しましょう」
 女神が微笑むと、自分の身体が光に包まれる。
 そうして、見る間に姿が変わった。鏡がないから分からないけれど、痩せ細っていた手足が健康的なそれへと変わる。
 そして徐々に記憶に霞がかかっていき――
「それでは頑張って下さいね。――御主の生に実りある事を願っておるぞ」
 女神が老人へと変わり、そう言葉を残すと同時、視界が光に包まれて身体が浮き上がるような感覚に包まれた。

 そして、僕は辿り着いたのだ。
 無辜なる混沌、そして『始まりの日』となる大召喚のその日に。
 空中に浮かぶ庭園。
 召喚を受けて現れた多くの人達。
 その中に混ざり、僕は新しい世界を、新しい人生を歩み出した。
「つまりこの世界で運命特異点たるボク達が、心のままに活動することで世界を破滅から救うってことか。
 よーし、任せてよ! 全ルートを制覇してトゥルーエンドを目指して見せる!」
 僕はゲームの主人公のように、そう言って笑った。
 そう、ボクは――『ハム男』主人=公(p3p000578)だ――!

  • 失われたプロローグ完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別SS
  • 納品日2019年10月31日
  • ・主人=公(p3p000578

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