PandoraPartyProject

SS詳細

輝いていて

登場人物一覧

ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234)
天空の魔王
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい


 なんだか冷えるような気がした。
 そんな気がしたときは決まって。
「よう、ハンナ。遊園地行こうぜ。どうせ暇だろ? 付き合えよ」
 そう、決まって彼――クウハが現れる。嫌になりすぎないほどの悪寒。霊というのは皆そのようなものなのだろうか?
 ふらり、と現れたクウハはいつもの如くにやけ顔で、さらさらと髪を撫で指で梳かしながらハンナの頬を突く。
「ええ……?」
 突然の誘いに瞬くハンナ。レディを誘うときは予告が必要なのだ、と教わっているはずなのに敢えてスルーしているであろうクウハ。それは彼女が軍人であることを尊重してのものなのだろう。
「相変わらず急ですねあなたは……いえまあ確かに暇ではありましたが」
「だろ? 俺様天才だから閃いちまったってワケ。どう?」
 断らせるつもりも、無いのだろう。
 ハンナの自宅の扉を蹴り開け手を取り真っ直ぐに出口へと進みだそうとする。
「わかりましたわかりました、行きますから引っ張らないでください……!」
「っとと、悪いな。……そうだ、軍服じゃなくてオシャレしてくれよ?」
「へ?」
「折角のお出掛けなんだ、楽しんだ方がいいと思うんだけど、ハンナはどう思うよ」
 椅子に座り頬杖をついたクウハの装いはよくよく見れば普段のそれとは違う。
 普段のパンクファッションではあるのだけれど、動きやすいスニーカーだとか、パステルカラーをないまぜにした猫耳のパーカーだとか、いつもと違うところが点在している。
 きっと自分と遊ぶために用意されたのだろうというそれは、理解してしまうと何故か頬に昇る熱。
「…………名案、かと」
「だろォ? じゃ、そういうことで頼むぜ」
「はい、解りました」
 軍服のボタンを外しジャケットを脱ぎはじめた頃、気付く。
「どうかしました?」
 顔を掌で……否。正確には己の目元を覆ったクウハの姿。
「あのなぁ……そんな不用心なことってあるかよ」
「ええ……?」
「言わなきゃわかんねェのか?」
 そういえばクウハは身長が高かった。そんなことをぼんやりと考える程度には、心当たりがない。
 表情を固くさせながらハンナの前に立ったクウハは、仏頂面をため息で崩して、やや困ったようにつぶやいた。
「……俺、一応男なんだぜ?」
「え、ええと。それくらい、解りますよ?」
「じゃなくって……オマエさんなァ。俺、男だから。こうやってさ」
 どん、とやや乱雑に肩を押してハンナを壁に押し付ける。
「食っちまうことも出来るんだぜ?」
 まぁ、しねぇけど。
 ぱっと手を離して扉を閉めたクウハ。残されたハンナは。
「……!!!?」
 己の身に降り掛かった現実を直視できず、ぺたんと座り込んでいたのだった。
 かくしてなんとかクローゼットをとっかえ引っ返して用意した一張羅。
「お、お待たせしました」
「……似合ってる。けど、……いいや、やっぱいい。行こうぜ」
 けど。
 何かあったのだろうか? 不思議そうに首を傾げるハンナ。
(…………他のヤツに見せたくねェから行くのヤメなんて、身勝手が過ぎるだろうが。落ち着くんだ、俺)
 どうしてだかそんな悪戯がしたくなってしまう。
 再びの仏頂面にハラハラするハンナを隣に、二人は遊園地へと向かったのだった。


 遊園地を駆け巡る音楽。ネオンライトの点滅と、出迎えるマスコットキャラクター達。
 チケットを購入、半分にちぎられたそれは楽しい一日を約束する証にほかならない。
 不機嫌だったクウハではあるが、そわそわと落ち着かない様子のハンナを見ればそんな気持ちも吹き飛んだ。
「何か気になるものあったら遠慮なく言えよ〜?」
「こういったところには来たことがないのでいまいち楽しみ方が……」
「おいおい、こういうのは楽しんだもん勝ちだぜ?」
「そうなのですね、では頑張ってみませんと。おや、あれは何でしょうか……?」
 ハンナが一歩前に出、指差したのはコーヒーカップ。
 遊園地のひとつの定番でもあるそれを知らないということは、本当に初めてなのだろう。
「あれはコーヒーカップっつーんだ。あん中に入って……あ、ほら。始まるぜ?」
 ハンナの手をとって走るクウハ。
 ハンナの興奮が冷めやらぬ内に、と。楽しげなメロディに合わせ動き出すカップ。
「あーやって、中にハンドルがついてて、ぐるぐる回すんだよ。面白いぜ、行ってみるか?」
「……い、いいのですか?」
「ぷはっ……ああ、勿論良いんだぜ? 俺様親切だから、な!」
 幸いにも列はさほど混み合っておらず、あれよあれよと言う間にコーヒーカップの中へ。
「カップルのお兄さんとお姉さんはこのピンクのカップの中にお願いしま~す!」
「……」
「……ま、そういうこったな。ハンナ」
「は、はい」
「スピード上げるけど、駄目になったら止めてくれよ?」
「わかりました……!」
 誰に何を言われようが今はそれどころではない。
 先程も聞いたであろうお決まりの音楽が流れ出す。
「行くぜ!」
「わっ……?!!」
 コーヒーカップ中央に鎮座する固いハンドルをぐるぐると回しだすクウハ。
「ハンナ! これを回すんだ、握ってみろ!」
「む、無理です、あはは! 貴方が回してください!」
 風に靡く髪だとか。あまりの回転スピードに笑いだしてしまうところだとか。
 そういったところが可愛いのだ。
「ああ、仰せの通りに!」
 ぐい、とさながらカーレースのようにハンドルに回転を加えていけば一層スピードを上げていくコーヒーカップ。
 音楽がローテンポになってきた頃、がたんと突如スピードを落として、緩やかに回転をやめていく。
「……どうだった?」
「楽しいです……とても!」
「はは、そうかよ。なら良かった。さて、次は……俺が行きたいところあるんだけど、いいか?」
「勿論です。行きましょう」
 とクウハに頷いたハンナ。
 しかしこれが罠であることをまだ知らない。
「…………こ、この店は?」
「何驚いてんだよ。遊園地に来たらこれ着けんのがルールだぜ?」
「着けてない人も居ますが?!」
「おいおい野暮なこと言うなよ」
「で、でも」
「あーうるせうるせ、聞こえねえなァ。それよりほら、こういうの絶対似合うだろ」
 うんざりだと言うふうに顔をしかめたクウハはハンナのお気持ちなど無視、あくまで好き勝手を装って、そのテーマパークではヒロインに値するキャラクターのカチューシャを着けてやる、
「うん、やっぱいいな。俺様の見立てに間違いはねェ」
「そうですか……? 私なんかにこういうのは似合わない気が……」
 恥ずかしそうにカチューシャに触れて、頬を染めたハンナ。そんな仕草さえも愛くるしくて、愛おしくて。
「いいや。似合ってるよ。いやー、オマエさんはホント可愛いな〜!」
「え、かっ可愛いって、な、何を言ってるんですか!?!?!?!?」
「あ? 事実だよ事実。可愛い、似合ってる、最高だ!」
「からかわないでください!!」
「からかってないぜ? いや、その反応は見たかったかもしれねェな?」
「……もう!!」
 むすっと頬を膨らませたハンナをからから笑いながらその手からカチューシャを浚い、お会計へと進もうとする。
「ま、待ってください」
「ん?」
「私が出します」
「いや、俺が誘ったんだ、俺が持つぜ」
「……そ、それなら。あなたの分は私が出したって構いませんよね?」
「……まぁ、そうなるわな」
「わかりました。それなら大丈夫です、お会計してください」
 ハンナが選んだのは、クウハが選んだヒロインの相方……つまるところヒーローに類するキャラクターのカチューシャ。
「ふふ。どうせなら一緒に楽しみましょう」
「いや、もう充分っつーか…………あー、うん。サンキューな」
 二人の頭の上に並んだ二つの耳。
 クウハは適当にキャップでも選ぶつもりだったのだけれど、良い誤算だった。
 楽しげに笑うハンナがご機嫌ならばそれを崩すのもまた野暮である。今日ばかりは受かれたって、仕方ないのだ。
「さて、次はどこに行きたい?」
「そう……ですね。でしたら……あの、上にある線路に。さっきから悲鳴が聞こえてきて、気になっていて……」
「お、ジェットコースターか? いいぜ、行こう」
「少し怖そうですが……」
「まぁ、スリリングではあるが。それ以上に楽しいはずだ。きっと気に入るぜ?」
「そうでしょうか……」
「ああ。なんたって風になれるからな、あれは!」
 恋人同士ではないくせに、差し出された手にいつものように手を重ねて、ジェットコースターの待機列へと向かったのだった。
「あの」
「何だ?」
「これ」
「ああ」
「もしかしなくても」
「うん?」
「高いやつでは――――きゃあああああああああ!!!!!!!!??????????????」
「あっははははは!!!!!」
 珍しいハンナの大声。それから悲鳴。一人でも勿論楽しめただろうが、隣のハンナの素っ頓狂な可愛らしい声には思わずジェットコースター以上の楽しさがある。
「ほら、ハンナ! まだ終わんねェぜ、前見てみろよ!」
「むむむむ無理です!!!! ちょっと、目閉じてるんですから言わないでくださいよお!!!!」
「はははっ、だって、オマエさん、ひぃ!」
「面白くないんですからね!!?」
 薄目を開けて前を確認してはきゅっと目を瞑るハンナが可愛くて思わずまた笑ってしまう。こんなにも楽しい遊園地はきっと初めてだ。
 ジェットコースターが止まる。へろへろのハンナの手をとりベンチまで誘導して休憩。それからまた次の乗り物へ。時にはポップコーンやチュロスなんかを買ってみて二人で分けて。そうこうしている間に空はすっかり夕暮れ、遊園地も閉園の時間が近付いていったのだった。
「さて、ハンナ」
「……はい?」
「遊園地の最後にゃ何があるか知ってるか?」
「い、いいえ」
「だろうな。だから連れてってやるよ」
「どこへ?」
 たったった、と。まだ駆け抜ける体力があるのだろうクウハはにっと笑って、ハンナを夜へ浚う。
「一番の特等席にだよ!」
 ハンナを抱き上げ地を蹴ったクウハ。空をかけるように浮かんでいく。
「わぁ……」
「どうだ? 凄いだろ?」
「はい、とっても……綺麗です……」
 目下に輝く金色のひかり。夢のようだとつぶやいたハンナ。
 幸せそうにパレードを眺めているのだろうことが伝わって、クウハの心も満たされていく。
「しかし毎度毎度なぜこんなことを……お手間では……?」
「何でこんな事するのかって? そりゃ、俺がオマエさんを気に入ってるからさ」
「はあ、気に入っているからですか……いまいち釈然としませんがまあそういうことにしておきましょう」
 パレードの明かりがゆっくりと消えていく頃には人々の流れも出口へと進んでいく。
 せめてゆっくりと帰ろうなんて話し合って、二人で土産を見てから帰ることに。けれど外の世界から来た自分が土産を渡せるような人物なんておらず、先に待ち合わせの場所でクウハを待っていた。
「悪い、待たせたか?」
「いえ、そんなことは……ええ?!」
 クウハの声に振り返れば、クウハはまさにハンナが着けていたカチューシャのモチーフのキャラクアt-のぬいぐるみを抱えていた。
「こ、これは……」
「今日の感謝の証ってヤツさ。散々突き合わせて悪かった、楽しかったぜ」
「い、いえ、そんな……これ、も、もらっても良いんですか?」
「なんでダメって発想が出てくるんだよ。オマエさんのために買ったんだ、こういうの好きだろ? 受け取ってくれねえと悲しいぜ、俺だって」
 ぷかぷかと浮かんだぬいぐるみはくるりと回って踊りだし、最後には恭しくカーテシーをして、ハンナの頬にキスをする。
 まるで魔法使いのようだ。
 ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめたハンナは思う。
「……なんだか、ごめんなさい」
「なんでだよ。謝るようなことしたのか?」
「いえ……私ばっかり、楽しませて頂いていて」
「なら気にすんな。ハンナが楽しんでくれてるなら、俺も満足なんだぜ? だからそのまま受け取ってやってくれよ。俺にも面子ってもんがあってだな?」
「……はい。ありがとうございます」
 きらきらと輝いていた遊園地を後にする。
 はじまりはいつだって突然で。おわりはいつだってあっという間で。
 けれどそんな日々が宝物のようにきらめいているからこそ。毎日が楽しい。
 初めてのカチューシャも。大きなぬいぐるみも。どれもどれも宝物になりそうだ。
 隣に歩くクウハの笑顔もまた同様に――ハンナだけの、宝物となることだろう。

  • 輝いていて完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月04日
  • ・ハンナ・フォン・ルーデル(p3p010234
    ・クウハ(p3p010695

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