SS詳細
But He sees it in his joy.
登場人物一覧
●An under-thirst of vigour never utterly asleep.
――先ず第一に、私は人の男を寝取るのが好きである。
『最近よくSNSやWebサイトの広告を打っている漫画閲覧アプリの
復讐される事など朝飯前、浅はかな罵声に暴力、誹謗中傷は手を叩いて笑い乍らアフタヌーン・ティーを嗜む為の物だし、そして人間関係とはディナーで出される柔らかくて何だか凄く長い名前の付いた
――次に前提条件として、一寸拐かした程度で積み重ねて来た年月を捨てる様な駄目男が好きである。
容姿は別に誰もが羨む美貌とかでは断じて無いが、父親と母親の良い所取りをして此の世に生を受け、有る程度は整っていると云えよう。学生時代から不思議とモテて、私がにっこりと微笑み掛けたり流し目を送れば大抵の男は勘違いを起こす。
だからと慢心してはいない――寧ろ勉強熱心な方で、共有出来る話題や趣味の為に其れなりにお金と時間を費やして来たから、こんな生態だが女友達も意外と多い。とどの詰りは現状在る幸せを捨ててでも手に入れたいと思わせる魅力が無ければ寝取る事も出来ない訳で、『美味しいのだ』と貌を綻ばせ語って居た
――そして、最後に人間という生き物の裏切られたと感じた時の常套句は『最低』の一言である。
刷り込みでもされているのかと耳を疑う位に皆、口を揃えて云うのだ。『アンタって最低ね』と。
惚れた腫れたの痴情の縺れはオフィスの給湯室かホテル街の路地で起こるのが様式美で、其の日偶然にもラブホテルの前に居合わせた六人の男女――内訳は男・女・女(私)/男・女・男(彼)――の間で初めに『最低』と、其れから聴くに絶えない恨み節の後に此方では夏のじくりと湿った空気を切り裂くビンタが、彼方では鈍く人が壁に打つかる音がして、
――『大変そうですね』、『イヤイヤ、其方こそ』――そう嗤って、此れも何かの御縁かと近所のファミレスへとしけ込んで色々とふたりで話して。何と此の男、
『人の物じゃないと燃えない』と最初こそ断ろうと思ったけれど、『特別は? な、駄目か』と潤んだ眸で眴されたら折れる他なかった。嗚呼、嗚呼! 自分の
――少し温く為った割高な価格設定のビールを飲み干して、『最低の屑同士仲良くしようぜ』と手を結んだ。其れが始まり。
――
―――
新しく飼い出した此の男は、定職にも就かず、かと云ってアルバイトをするでも無く。完全な住所不定・無職――、一層清々しい程に『ヒモ』だった。
妙に貌が良くて尻尾がフカフカじゃなかったら流石の『駄目男好き』な私でも追い出していたかも判らない。けれど私は甲斐甲斐しく世話を焼き、求められれば金品を渡し、夜は一人では広くとも男と寝るには最適なセミダブルのベッドで一緒に寝た。長い、長い脚がベッドからちょこんとはみ出ているのが何故か妙に可笑しくて、抱き枕代わりの尻尾はこそばゆくて、今迄何の男にも決して許さなかった寝室での喫煙を許し、次いでに私も煙草の味を覚えた。人から奪った物じゃ無い物と寝るのは初めての事だ。
所謂男女のお付き合いもするにはしたが、然して其の生活は決して爛れて居らず、夏の暑い日に飲む冷たい麦茶の様な『爽快』と云う言葉が似合う。子供がぬいぐるみにするみたいにぴっとりとくっ付いて、熱を孕んだ軀をガンガンに効かせた冷房で冷まして何時の間にか睡りに落ちる。此れは多分ペットセラピー効果と云うんだな、なんて思い乍ら。
寝間着すら誰だったか他の男が置いて行ったものを
男は日がな一日家に居て、私が『趣味は多い方が良い』と買い集めた漫画なんかを読んでいる事もあれば、ふらりとスーパーやら煙草屋やら、或いは私の識らない何処かに気まぐれに出掛けている事もあるみたいだった。識らない香水の匂いを漂わせ、そんな時は決まって気遣いは別に良いと断ったにも拘らず、一寸お高いアイスを買って冷凍庫に入れて置いて誇らし気な悪戯小僧みたいに笑っていた。まあ、其のお金も本を正せば私のお財布から出ている訳だが。
汗ばんだ不快なシャツを脱ぎ捨ててふたりでお風呂に入って、互いに背中の黒子を指でなぞっては新しい星座を探す事に夢中に為ってクラクラとしては、其の間だけ冷凍庫にお引っ越しさせてた缶ビールで乾杯。朝食に比べて味濃い目に作られた酒の肴を突きつつニュースやワイドショー、其の儘チャンネルを付けっぱなしにしてはチープな恋愛ドラマを観ながら時折不意に
そんな暮らしも板について来た頃、出逢いが突然なら別れも突然に。最初こそ『とんだ
『こんくらい借りてたよな』と律儀に此れは家賃分、此れは食費、此れは雑費と金額をきっちり覚えていた事に先ず驚いたし、ついでに『利子だ』と其の倍程になる割と大金――まるで私がアケイチの悪徳金融業者に思える様なそんな額を。
「ま、待ってよ。こんなお金要らないし。なぁに、新しいお金持ちの飼い主でも出来たの――」
目を白黒させて素っ頓狂な聲を挙げてしまったし、生きてて一番の失態と称しても遜色が無い台詞を吐く私に男は何時もみたいにニンマリ笑って、節ばった無骨で、それでいて優しい手指で鼻を軽く摘んで――『まあ、落ち着け』『そんなんじゃあるめーよ』とか何とか、私が落ち着くまで只管言葉をくれて居た気がする。
「賭博で勝った!」
「と、賭博って……丁とか半とか……」
「そうだな」
「此の御時世にそんな治安の悪い場所なんてあるの!?」
「まあ、世の中識ら無ぇで良い事の方が多いってモンだ。そんな訳で、世話になった、ありがとな」
そう云って、一度私の頭を動物にする其れな手付きで――尻尾を散々そうした報復かの様にわしゃわしゃと撫でて。プリペイドスマホと合鍵すらも置いて、転がり込んで来た時に唯一持っていた煙管を持って――振り返る事もせずに、最後に一度だけ後ろ手を振って何とも呆気なく――マンションのエレベーターへと吸い込まれて行った。
『なんでい、なんでい! 其れじゃあ、まるで』『タダのヒモじゃあ――……嗚呼、そっか』――最初から彼の男にとってはそうだったのだ。元々誰の所有物でも無かった、だから愚かな
「お似合いだと、思ったんだけどなあ」
「ほんっと、『狐』につままれた気分だわ――」
おまけSS『Your hearts to day.』
●Feel the gladness of the August!!
「……手紙?」
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『コレを機に真っ当な恋愛でもするこったな――』
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「五月蝿いわ! アンタにだけは云われたくないわよ、全くもう!!」
「ふふ、……はぁ。取り敢えず――引越しでもしようかしら」