PandoraPartyProject

SS詳細

ヤナギの下には。

登場人物一覧

ウォロク・ウォンバット(p3n000125)
ラド・バウの幽霊
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ

 ヤナギの枝が風に揺れれば、其処には幽霊が居るらしい――

 そんな言葉を思い出したのはアルヤン 不連続面。現在、ラド・バウB級への昇格戦を目前に控えて控え室で興奮中である。
 B級への関門とされているのはラド・バウの幽霊と呼ばれる幻想種であった。その名もウォロク・ウォンバット。男女の差異を感じさせぬような白いローブに身を包んだなのだという。そう言われれば本当に幽霊が出てくるのが混沌世界。アルヤンは「オバケと戦えるっすか!?」と興奮しながら帽子の位置を整えていたのだが――

 ――――挑戦者! アルヤン 不連続面!

 闘技場に立っていたのは灰色の髪を風に揺らがせて眠たげな顔をした幻想種であった。白いローブはアルヤンに関係なくはためき、その傍には「ギエエエエエエ」と叫び声を上げているウォンバットがセットで存在している。ウィーンと首を動かしていたアルヤンは一体全体どう言うことだろうかと一人(と一匹)を見遣った。
 ウォロクは幻想種の方だろう。茨の冠に眠たげな眸。それでも強者である事には違いはあるまい。足元にまで伸ばされた髪はふんわりと揺らぐ。
「……ウォロクだよ」
「あ、生きてる方っすか!?」
 アルヤンの言葉にウォロクが僅かに首を傾げてから合点が言ったように頷いた。そう、ウォロク自身の通り名は『ラド・バウの幽霊』だ。
「……ん、幽霊って呼ばれてるけど、生きてる。幽霊じゃないよ。
 わたしは、幽霊みたい……でしょ。静かだし、白いから」
「確かに。……いや、確かに? うーん、言われるとそうかもしれないっすね!」
 アルヤンの同意にウォロクはその能面のようなかんばせに微笑を浮かべた。その時、扇風機は思った――『幽霊も笑うんだな』と。
 物静かなウォロクとは対照的に威嚇し続けるウォンバット。ウォロクは「マイケル、だめだよ」と首を振った。何とも、ウォンバットが気になって仕方がない。
 ずんぐりむっくりとしたフォルムと円らな眸。イレギュラーズにとっては高い耐久能力から自身等の戦闘テストに付き合ってくれるお決まりの相手だ。『マイケル単体』を相手にする事はあったがそうではない状態はある意味でレアリティが高いと言ってしまえるのではないだろうか。ウォロクは首を捻る。不思議そうにアルヤンを見た後「扇風機」と呟いた。
「扇風機、知ってる。練達の、風が出る夏にお決まりのヤツ……でしょ? わたしも、夏にお決まりなんだ。だって、幽霊だから」
「成程!」
「……あの、わたしってこういう時何て言えば良いのか分からなくて……いつも、うん、いつもマイケルに任せてるんだ。
 だから、マイケルが、言いたい言葉を代わりに言うね。わたしも、同じ気持ちだから――戦おう」
 こてん、と首を傾いだウォロクに応えるようにウィーンとアルヤンの首が動いた。
 大きな帽子が風に揺らぐ。アルヤンが最初に感じたウォロクの印象は非常に強力な魔術師だという事である。魔術的な素養に長けた幻想種らしい戦い方。穏やかに見えて苛烈な戦闘は師と慕うマイケルに倣ってのものだろうか。
 踏み込むウォロクを至近距離に引き寄せてはいけないというのが戦闘前の前評判だった。零距離から放たれる攻撃は其れは其れは強烈な痛打となるからだ。
 手がない扇風機であるアルヤンは魔力と合気道を融合させた戦い方を駆使する。だが、それだけではない。アルヤンはその場から一歩も動かないことを選んでいた。否、移動はしている。しているが、気を操り物質の位置を再定義する逆式風水の術で短距離の転移を行って居たのだ。
 ウォロクに当てることも、ウォロクの攻撃を受け流すことも得意。故に、ウォロクが接近しても問題はないと想われたが、アルヤンの攻撃が外れた刹那――

「わたし、ここだよ」

 囁く声音と共にウォロクの一撃が飛び込んだ。帽子が落ちてしまわぬようにとウィンと身を捻ったアルヤンを苛烈に責め続けるウォロクは退く気もないのだろう。唯只管に責め続けるだけである。ベンチで「ギエエエ」と叫ぶマイケルもウォロクの勝利を確信している。観客達でさえ有利不利で言えばウォロクの側に勝利の分があると確信していた。
 一風変わった扇風機との戦闘だ。観客達も何が見られるかと期待してやって来ていたのだろう。闘技場内に感じられた空気は幾許か重苦しくもなる。
「まだ、だよ」
 ウォロクの囁きにマイケルが「ギイ?」と首を傾いだ。囁き声であれど聞き逃さぬ師匠の耳の良さ(実際のウォンバットがどうであるかは定かではないがマイケルは耳も良ければ目も良い素晴らしい混沌ウォンバットなのだ)にウォロクは満足したように唇に笑みを浮かべた。
「わたしが、相手なのに……怖がっていないんだね、扇風機」
「そうっすね! まだまだ勝利の芽はあると確信してるっすから」
「……ん、そうだね。わたしも、此れで勝てると思ってない。……おもしろいね。ウィーンって動いて……わたしの目の前から消える」
 その戦いぶりに興味を懐いたとでも言いたげにウォロクは笑った。攻勢に転じていたウォロクが有利だと思われた局面をひっくり返すのもトリッキーな扇風機ならではだ。
 ウォロクの予感の通り、アルヤンは簡単には倒れやしない。アルヤンは首をウィーンと動かし続け、ウォロクを翻弄し続けて攻める機会を狙い続ける。

「―――幽霊、討ち取ったり!」

 首を動かしたアルヤンの言葉と共にウォロクはぴたりと動きを止めた。至近距離に迫ったアルヤンをその目で映したウォロクの目の前にずんぐりむっくりとした灰色の塊が飛び込んだ。我慢ならなくなったマイケルだ。
「マイケル」
 可愛い弟子が負ける姿を見ていられないという師匠の過保護な姿勢。アルヤンの一撃が真っ正面から飛び込んでべちゃりとマイケルが地面に伸びる。
「マイケル……」
 マイケルの傍にしゃがみ込んでから、ウォロクはぱちりと瞬いた。つん、つんとマイケルを突けば「ギイ」と小さな鳴き声が響く。
「……わたし、負けちゃったね」
 アルヤンはその声音に僅かながらにでも喜色が含まれていることに気付いた。小さな白旗をフリフリと振っていたウォロクはその場に佇んでいる。
「おめでとう」
 小さく笑ったウォロクは少ししゃがみ込み、アルヤンの顔(?)を覗き込んだ。そよそよとウォロクの髪がアルヤンの風で揺らいでいる。
「アアアア……ふふ、声が変わる。面白いね。面白い。……此れから、もっと強い人に、逢うね。
 楽しみだね。……楽しみ。わたしも、マイケルも、もっと強くなる。だから、また……戦ってね」
「勿論っすよ!」
「アアアアア」
 声を出し続けるウォロクはアルヤンの扇風機なかんばせに余程満足したのだろう。バトルジャンキーな扇風機がいるとはウォロクも小耳に挟んだことがあったが実際に目にしてみればその戦い方も何とも物珍しいものであった。
「ギイ、ギエエエエ」
「マイケルがね、マスコットキャラは譲らないって」
 ウォロクはゴリラとか筋肉とか眼鏡とかと指折り数える。物珍しい存在が多く居るからこそマイケルはその座を脅かされていると感じているのだろう。
 アルヤンは「マスコットの座っすか」とこくこくと頷く。それを狙ってみるのも大いにありではある。
 熱狂の観戦者達を見上げていたウォロクは「マイケル、いこうか」と大地にべしゃりと潰れて伏せったマイケルの背中を撫でたのであった。

 シン、と静まり返った廊下は喧騒のコロシアムとは対照的であった。控室に戻ればある程度の傷の手当てが受けられるのだろう。
 担架で運ばれていくマイケルを見送っていたアルヤンは「ギエエギエエ」と何かを伝えようとしてきている。身振り手振りである程度は伝えられるのがこのウォンバットの凄いところだ。
 何かの異変が起きたときに弟子――どうやらウォロクとマイケルの間では師匠ウォンバットに弟子幽霊の図式であるらしい――のことは任せたと伝えてきているのだろう。
 アルヤンが扇風機の頭部分をカクンと振り下ろしてマイケルの頼み事を受け入れた。それが彼からの信頼であると感じられたからだ。
 運ばれていったマイケルを見送ったアルヤンを見付けたのだろう、音もなく近寄ってきたウォロクはそろそろとその手を伸ばす。
「ビックリしたっす!」
「……気配、薄いから……わざとじゃないよ……これがわたしだし……」
 驚かせたかったわけじゃないよとウォロクはぱちぱちと瞬く。
「扇風機……じゃ、ないや、アルヤン。
 もし、もしだよ――マイケルが危険な目にあったら、助けてあげてね」
 ウォロクは静かに囁いた。アルヤンは似た師弟なのだとマイケルのことを思い浮かべる。互いに互いが一番に大切なのだろう。
 アルヤンは「どうしてそんなことを?」と問うた。ウォロクは感情の余り滲まぬ眸をまん丸にしてから「アルヤン、面白かったから」と言った。
「面白かったから?」
「……うん、アルヤン、面白かったし……戦うの、きらいじゃないでしょ?
 だから、わたしのことも、マイケルのことも任せられると思う。その戦い方、わたしも真似したいし」
 今度一緒に修行しようねとウォロクは無表情の儘、アルヤンの頭(帽子が被されている部分である)を撫でた。愛玩動物枠になったと言うことだろうか。
 ウォロクはアルヤンの戦い方を面白いと感じ、そして扇風機と呼ばれるその姿にも興味を持ったのだろう。だからこその信頼の証が一番に大切な相手を任せるという意思表示だったのだろう。
「マイケルも……同じ事言ってた? なんだか、そう思う。
 マイケルは、ウォンバットだけど、強いよ。わたしが居ない方が、強いかも。……今度、戦ってみてね」
 動物の底地からは凄いのだと告げたウォロクは指先を唇に当ててから少し悪戯めいた笑みを浮かべて見せたのだった。

  • ヤナギの下には。完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2022年09月06日
  • ・ウォロク・ウォンバット(p3n000125
    ・アルヤン 不連続面(p3p009220

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